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15 侵攻の知らせ

外は夕闇に染まっていた。


俺はドニシャが居た白い大きな建物から離れ市場の外れまで移動した。


外を出歩くエルフの数は昼間に比べて随分減ったが明るい光が灯っている場所にはそこそこエルフが居た。


入口の上に設置されている酒場の看板に止まり行き交うエルフの声を聞く。


暫くは料理や酒の話だったり身内の愚痴や喧嘩等が続いたがようやく気になる話を耳にした。


「─でこの前来ていた異世界人が言うには家から一歩も動かずに生活が可能らしいのだ」


「それは召使を幾らか雇ってるのだろう」


「いや、1人で生活してるらしい」


「それは興味深いな、その異世界人の名は何ていうんだ?」


「えーっと確か…マオだったかな」


「私もマオから直接話を聞きたくなったよ、今何処に居る?」


「もうナチュド王国を出て行った。東の方へ行くのだとか言っていたな」


「それは残念だ、東はヒューマン共の国ばかりだから行きたくないな」


2人のエルフは小袋から摘まんだ小粒の木の実を食べつつ話題を変え植物の雑学について意見交換しながら通りを歩いて行った。


マオは俺の下の名前だ。


苗字が違う別人の可能性もあるが俺を名乗る人物が居る可能性もある。


優先順位は高く無いが余裕があれば東への調査もしたいところだ。


これでカルムとかいうエルフの伝手(つて)を辿る必要は無くなったな。


ドニシャに質問する方法もあったけど怪しまれるかもしれなくて聞けなかった。


明日の朝までドニシャには悩んで貰うつもりだから余計な事は言いたくない。


周囲を見るともう夜になっていた。


俺は一応この小鳥の身体が衰弱しないように市場の通りに落ちている果物を拾って食べた。


憑依だからか小鳥の姿でも味や食感は一切感じなかった。


食べ終わると木の家の屋根に止まって寝た。


小鳥の身体は熟睡しているが俺自身には意識がある。妙な感覚だ。


意識の切り替えは可能だった。


ダンジョンの本体に意識を切り替えてマハルダから状況を聞き問題無いことを確認すると小鳥に意識を戻す。


人が居なくなった酒場前の通りにポツンと1人、フードを被ったローブ姿の人物が立って居た。


俺を見て居る。


俺が闇だからか夜中であろうがハッキリと見える。


フードの隙間から俺をガッツリ見ていた。


男か女かわからない。


もしかすると俺が憑依しているこの小鳥が夜見られることが大変珍しいのかもしれない。


それならもっと近付いたり発見して面白そうな表情になるはずだがこの人物は全くの無表情だった。


まさか俺の後ろに何かあるのかと後ろを振り返ったが酒場の2階部分と屋根しかない。


一体何なのだろうかと不思議に思いながら通りに向き直ったが、フードの人物は消えていた。


また来るかもと気にして見張っていたが全く姿を見せない。


暫くして夜が明けた。


翌朝になって小鳥の身体が目を覚ますとエルフ達が何やら騒がしかった。


「女王陛下が移民法を制定したらしい!」


「じゃあヒューマンが住み着くのか?」


「それだけで済むものか、奴らは奪いに来るぞ!」


「どうなってるんだ!まだ森長達と会議中のはずだろ」


どうやらドニシャが森長の反対意見を無視して法律作ったらしいな。


エルフ達にはショックが大きかったらしく口々に不安と不満を叫んでいた。


「音葉の森に移民が到着したらしいぞ!」


「今朝に移民法を発表したばかりなのにか?」


「早すぎる!これじゃ自衛の準備も出来ないぞ」


グスロの仕業だろうな。


やり方が強引だ。


どうしても移民をエルフの国に受け入れて貰いたかったんだろうさ。


エルフの民にとっては問題かもしれないがドニシャを闇に引きずり込むには好都合だ。


利用させて貰おう。


俺は羽ばたきドニシャが居た白い大きな建物へとやって来た。


くり抜かれた窓を覗いて回りドニシャを探す。


昨日出会った書斎部屋にドニシャは居た。


窓の枠に止まって様子を伺うとドニシャは1人でテーブルの上にある白いカップに入った紅茶っぽい液体を飲み、ホロタの映像を見て微笑んでいた。


ホロタをよく見るとグスロがイケオジな笑顔で演説をしていた。


「今夢が叶いました!エルフと我々ヒューマンは共に切磋琢磨しお互いに尊重し合ったより良い関係と未来を築くことが出来るとそう確信しています」


普通にエルフの民は嫌がってたけどな。


俺はホロタを見て微笑むドニシャにわざと話しかけた。


「ドニシャおはようピー」


ドニシャはホロタに夢中で話しかけられたくなかったのか一瞬だけ間が悪そうな顔をした。


「ピー、おはよう」


直にホロタへと視線を移そうとしたドニシャに言葉を挟む。


「みんなドニシャの文句ばかり言ってたピー」


「時代の変革期は何時もそうなの、偉大な功績は全てのエルフから賛同されるわけじゃない」


口調から察するにドニシャは苛立ち始めている。


自分のやってることは間違いではないと思っているんだろうな。


この辺で記憶に残ることを言って後は頃合いまで放置だな。


ドニシャのやってることが全てうまくいくとは思えない。


国民から反感を買ってるしグスロは怪し過ぎる。


今信頼を少し獲得していれば後で俺に頼って来ることになるだろう。


その時に堕としたら良い。


闇はすぐそこまで来ているぞドニシャ。


「でも今日ピーが見た沢山のエルフの中で楽しそうにしてたのはドニシャとそのホロタに映ってるグスロだけだったピー」


一部の人間には支持され理解されていると思い込んでいるみたいだがドニシャの身内以外は全て否定的な態度だったからな。


「っそれは…」


ドニシャが言葉に詰まったタイミングで書斎部屋のベルが鳴った。


ドニシャはホロタを消してドレスのポケットに仕舞いドアへと向かう。


「ドニシャ様!ジュキラの手下が西の森に侵攻して来ました!」


ドニシャがドアを開けると同時にローブと杖を装備したエルフの男が急いでそう報告した。


報告したエルフの男は植物の紋章が入った立派なローブを着ていることから俺のダンジョン領域に来たカルムとかいうエルフと同じ宮廷魔術師という存在と近しい役職だろうと思われた。


「炎の魔王が何故今…いえ、考えてる暇はありません、ノーファン護衛団長は宮廷魔術師達に西の森の防衛を最優先するように伝えてください」


ノーファン護衛団長って確か市場で立ち聞きした賢者候補の1人だったよな。


整った顔をよく見ると経験豊富そうな手練れの面構えをしていた。


「はっ、畏まりました」


ノーファン護衛団長は軽く頭を下げると素早く去って行った。


ドニシャは急いで俺の方へと近寄ると窓の外を凝視した。


「なんてことっ…」


俺も気になって後ろに振り向き外の景色を見渡すと遠くの森が燃えているのが見えた。


「炎の魔王はよく攻めて来るのピー?」


「いいえ、もし頻繁に炎の魔王が侵攻してきていたら国民は危機感を持ち私の説得に応じてくれるエルフも大勢いたでしょう」


「なんでこのタイミングで炎の魔王は攻めて来たのピー?」


「魔王の考えてる事なんてわかりません!」


不安と焦りの見える表情でストレスをぶつけるようにドニシャは叫んだがすぐに過ちに気が付いた。


「…ピー、ごめんなさい」


一言謝ると険しい表情でドニシャは急ぎ部屋を出て行った。


俺は窓から外に出るとドニシャを探した。


流石にドニシャの肩に止まったり建物内をウロウロしていたら怪しまれるかもしれないからな。


窓を覗いて回るとやたら広い部屋にドニシャを見つけた。


広い部屋には王座のような豪華な椅子がひとつあり、多種多様な植物の装飾が施された絨毯に壁、柱や壺等の展示品があった。


謁見の間みたいな所だろう。


ドニシャは王座に座らず立って他のエルフ達と話し込んでいた。


「西側の民を東へ避難させなさい、最悪の場合ギルドに救援要請します」


ドニシャの言葉に他のエルフ達が一瞬顔をしかめた。


「エルフが他国に頼ろうとは…」


窓に居る俺からでは誰が言ったか分からないほどの小声だった。


重い空気が漂う中、宮廷魔術師の恰好をしたエルフが1人急いでこの部屋に入って来た。


「ご報告します!先行した第一部隊から第五部隊が全滅し西の森が制圧されましたっ」


重い空気に加えて緊張感が加わることとなった。


ドニシャが即聞き返す。


「魔法耐性があるモンスター達とはいえ早すぎます!敵の数はっ!?」


「西の森に侵入してきた数は1000を越えておりますっ」


「…っ!」


ドニシャは目を見開き言葉を失った。


更に勢いよく両開き戸が開け放たれ、険しい表情のノーファン護衛団長が部下らしき一団を引き連れて大股で入って来た。


「女王陛下!国中で集団失踪が多発しておりますっ!目撃者の証言によるとヒューマンの犯行よる拉致だと思われます!」


ノーファン護衛団長の言葉を聞きドニシャは崩れ落ちたのだった。

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