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14 ドニシャと嫌な会議室

窓から入った部屋は会議室だった。


見るからに高級そうな黒っぽいテカテカした楕円テーブルの端にはあらゆる植物の装飾が施された一番豪華な椅子がありドニシャが座っている。


女王だけあって胸を張り堂々とした態度で話をしている。


テーブルには多くの椅子が用意されているが人が座っているのはドニシャと対面に座る2人のエルフだけだった。


話し合いの中で白と紫のローブを着た威厳のある男のエルフが突然立ち上がり声を強めた。


「絶対に有り得ない!ヒューマン共に多くのエルフが攫われ奴隷として酷い仕打ちを受けたのをご存じでしょう!」


隣に座る植物柄をした銀製のサークレットを被った男のエルフが頷き、落ち着いて言葉を被せる。


「ケルイ卿の言う通りです女王陛下、あれだけ悪事を働いた人種との共生など受け入れられるわけがございません」


2人のエルフに強い言葉を投げかけられたドニシャだったが表情を崩さず堂々とした態度を継続して言葉を返す。


「我々エルフに残された時間はありません、日に日に炎の魔王の手勢が増しています。エルフを皆殺しにしようと虎視眈々と狙っているのです」


「フンっ、まるで脅迫ですな!ヒューマンの奴隷になるのと炎の魔王に殺されるのとではどちらが良いかと決めつけられた極論を仰っているだけです!」


「その通りですぞ女王陛下、国の最高位の方が炎の魔王に負ける前提で話を進めるなど情けない、古の強大な魔王だとしても我々が勝利するかもしれないではありませんか」


「炎の魔王に魔法はほぼ無意味です、これは勅命の為に散って行った誉れ高いエルフの戦士達の貴重な情報ですから間違いありません。エルフは緊急にスキルを習得しなくてはならない状況なのです」


ドニシャの態度は変わらないが、その碧い瞳の奥には悲しさを少し感じた。


まるでこの先の会話が良く無い結果になると分かっているかのように。


「そのようなことなど他の人種に教えて貰わずとも高貴なエルフであれば自習出来るではないですか!何故他の人種をましてや憎いヒューマン等を国に住まわそうとするのです!」


ドニシャの態度に変化が無いのが気に食わないのか、ケルイ卿の声が荒くなった。


「ただスキルを覚えれば良いわけではありません、魔王に通じる程に極めたスキルを習得しなくてはならないのです。その為にはマスタークラスのスキル師範に長期滞在をお願いしなくてはなりません」


「それで他国と交渉して師範を借りる代わりに移民を受け入れようと仰るわけですな?」


サークレットのエルフがうんざりした表情でドニシャに確認した。


「他に方法が無いのです」


「論外ですな、スキルを習得したとしても炎の魔王を倒せる保証は無い!しかし紛れ込んだヒューマンがエルフを奴隷にしようとするのは明白!貴方はヒューマンという人種のことをまるでわかっておらんのだっ!!」


ケルイ卿がテーブルを叩いた。


サークレットのエルフも熱くなり椅子から立ち上がる。


「ケルイ卿の言う通りです!貴方は亡き御父君の政策を盲目的に推し進めるばかりで民の被害や感情を理解しようとしない!」


大声で叫ばれて流石のドニシャも険しい表情になった。


「父の方針がナチュド王国にとって最善であると確信しています、他に議論の余地はありません」


「そうグスロの奴に言い包められたのでしょう!この国の女王が魔法に無知なヒューマンの大臣の言いなりとは情けない!」


「そもそも女王陛下御自身の魔法もまだ賢者に到達していないではありませんか!魔法に未熟な者がスキルにすがるとは何たることか!」


「私はまだ300代なのです、魔法に関してはご容赦をお願いしたいです」


「たかだか300年程しか歩んでおらんから悪政しか思いつかないのでしょうな!」


「今日の会議でハッキリと分かりました、我ら紅樹の森は女王陛下を支持しません。支援は全て撤回させて頂く」


サークレットのエルフがそう言って会議室を出て行った。


「吾輩の剣樹の森も女王陛下を支持しない。今後既存の納税以外で援助は一切しません」


ケルイ卿もそう言って出て行った。


ハッキリ言うよな。女王に対して凄い態度だ。


残されたドニシャは溜息を吐き出し顔を両手で覆った。


俺もアイタタタって感じだよ。


今の話を聞いてドニシャが俺に言ってた意味が分かった気がする。


冒険者とか他国に炎の魔王の討伐依頼でも出せば金で解決できるかもと思ったが、あれだけエルフ達のプライドが高いなら提案しても賛成しないんだろうな。


地球の各国もそうだったが国というのは何かしら大きな問題を抱えてる。


国のトップは責任と使命がのしかかるから相当なストレスだろうな。


ドニシャに声を掛けようかと思ったその時、ドアをノックする音が聞こえて来た。


「女王陛下、失礼致します」


人間の男が入って来た。


紺色のローブを着た見た目30代後半ぐらいの黒髪をしたイケオジ系の白人だ。


よく見るとローブには植物の紋章が彫られたブローチが2つあった。


男が入る前にドニシャはネガティブモードを既に解除して女王らしい堂々とした態度に戻していたが、入って来たのが黒髪の男だと分かると肩の力を抜いて表情が緩くなり椅子から立ち上がった。


「グスロ!丁度よかった」


ドニシャの第一声で察しがついたのかグスロと呼ばれた人間の男はほんの少し微笑んだ。


「先程すれ違いましたよ、森長(もりおさ)達に何か言われたのでしょう?」


「もう散々酷いことをね。貴方の言った通り納得して貰えなかった」


「話し合いだけでは限度があるのです、女王陛下はもう十分彼らの為に配慮なさった」


「…ねえグスロ、私どうしたら良い?」


「今こそ女王の権力を使う時です、法律を制定してしまえば良い」


「そんな強硬手段に出たら反発される」


「御心配には及びません、師範と移民のスキルホルダー達に掛かればすぐに鎮圧できましょう」


「暴力は嫌」


「スキルの性能を実感して貰えれば森長でも納得して頂けますよ」


「…それは私もそう思う」


あらやけに素直。


何か流されてる気がするな。


森長達が言ってた事も一理あると思えて来た。


「大丈夫です、段取りや発表前後の森長達への根回しと火消しはこのグスロ大臣にお任せを」


エルフじゃないのによく大臣になれたな。


「そんな…グスロの方が彼らのような偏見のあるエルフ達から差別と酷い仕打ちを受けているのにっ」


「今は亡き御父君との約束ですから」


「15年前にグスロがここに来てヒューマンとエルフの架け橋になると言った時、私は絶対嘘と思った」


グスロは眉を上げてドニシャを覗き込むように見る。


「おや、信じて貰えていたと思っておりました」


グスロがとぼけた顔をした。


「ふふッ本気で言ってる?」


森長達が作ったネガティブな空気は消え去りドニシャが笑顔になった。


「私はいつも本気ですよ、ほら」


そう言ってグスロがドニシャに近寄り両手を広げて見せた。


「ええ分かってる、15年間風当たりが強い中よく頑張ってくれたと思う。でも15年前に聞いた時はエルフの偏見が私にも少しあって信じられなかった」


「私はそんな事気にしないですよ」


「グスロは良いヒューマン…。私グスロの言う通りやってみる」


「必ず成功させてご覧に入れます」


ドニシャとグスロがお互いを見つめ合い、微笑んだ。


「そうだグスロ、妹のアスティを見なかった?」


一瞬グスロに間が空いたが直に口を開いた。


「いえ見ませんでした」


「そう、あの子を最近見かけなくってカルム達に女神ラチカの神託調査のついでに探るよう命じたのだけど…」


「また遠くの森へ遊びに行ってるのでは?」


「そうね、後で近衛兵に聞いてみる」


「ではそろそろ失礼させて頂きます」


グスロはドニシャに頭を下げてから会議室を出て行った。


ドニシャは再度椅子に座り考え事をしている。


俺は羽ばたきテーブルの上へと着地した。


「ドニシャ調子はどうピー?」


「また会えたね、さっき気持ちが沈んでて今少し回復したところ」


「ピーがドニシャを元気にするピー!」


俺はそう言うとドニシャの前に行き、翼でなんとか中指を立てる行為と同じ動きをしようとした。


「ふふっ何それ、ダンスかな?」


「…」


何も起きない。


闇が出ないということは失敗したということだ。


ということは精神的なアプローチで闇に堕とすしかない。


俺は先ほどの行為が無かったことにした。


「あのねドニシャ、生き物の行動には全て利己的な理由があるのピー」


「どうしたの急に」


「ヒューマンのグスロがわざわざエルフの国に居るのにもきっと理由があるピー」


「ああ…さっきの話聞いてたの、それはヒューマンとエルフの架け橋になるのがグスロの夢だからと言ったでしょ」


「ヒューマンとエルフの架け橋になることでグスロにはどんなメリットあるピー?」


「そ、それは…交易とか魔法の習得とかじゃない?」


「そんなの全てのヒューマンが受けることが出来るようになるメリットだピー、グスロが今の立場だからこそ美味しくなる利点があるのピー」


「何が言いたいの?」


少しドニシャの口調が強くなった。


俺を疑い敵意を抱き始めてる気がする。


「ピーはドニシャが心配だピー、現実に向き合って欲しいと思ってるピー」


「心配してくれるのは有難いけどグスロのことを悪く言わないで頂戴、ピーは小鳥だから分からないかもしれないけれど彼は亡き御父様が呼び声に応えて来てくれた誠実で真面目な良い人なの」


「どうやって知り合ったピー?」


「それは偶々私がホロタのタイムラインでインフルエンサーのグスロを見かけて、彼がエルフの将来について良い意見をしてたから御父様に知らせて招いて貰ったの」


インフルエンサー?


ここ異世界だよな。


「ホロタって何だピー?」


ドニシャはドレスのポケットから複雑な文字と図形がびっしり書かれた金属の板を取り出しテーブルの上に置いた。


板をタップするとホログラムが表示された。


文字と動画で構成された二次元の画面と三次元の立体映像が板の上空間に展開されている。


冒険者のパーティが巨大なドラゴンと戦っている映像や高級そうな衣装に身を包んだヒューマンが食事をしている映像等がスピーディに切り替わっていく。


何それ欲しい。


地球より文明進んでないかこれ。


「ホログラムタブレットの略でホロタと呼ばれてる。異世界人が発明して命名したらしいの」


異世界人、つまりもしかすると地球人がこの世界に来ていた可能性があるということだよな。


「インフルエンサーはインプ稼ぎに魂を売ってるピー」


「確かにそういう人も中には居ると思うけど、グスロは違う」


これは完全に気持ちが入り込んでるな。


一度熱を冷ましてから揺さぶりをかけてみよう。


「ドニシャ、今日ピーが言った事を思い返して真剣によーく考えてみて欲しいピー」


俺はそう言い残して羽ばたき窓から外へ出たのだった。

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