13 エルフの女王
部屋の中は飾られた書斎みたいだった。
ズラリと本棚に囲まれた部屋には白い刺繍が入った赤い絨毯が床に敷き詰められていて、壁には茎をカットされた蕾が専用の金具で固定され緑色に光る泡をホワホワ生み出し漂わせている。
高級そうな光沢ある楕円の木製テーブルと椅子が一組置かれ様々な本とティーセット一式がテーブルの上に置かれていた。
そしてこの部屋には椅子に腰かけた外見年齢20代ぐらいの女のエルフが1人居た。
白い豪華なドレスを着た長い金髪の女エルフは整った顔を崩しどこか複雑な表情をして入って来た鳥の俺を見ていた。
「いいなぁ、私も飛んでどこか遠くに行きたい」
呟くような声量だったが透明感のある綺麗な声だった。
視線は俺というよりも明後日の方を見て居る気がした。
誰かは分からないが、コンタクトを取ってみる。
「どうして飛びたいピー?」
俺の声は小鳥とミスマッチなので語尾で鳥っぽい雰囲気を出してみました。
女エルフは俺が喋ったことに驚いて目を丸くした。
「貴方喋れるの?」
「喋れるピー!」
「それは凄い…とても特徴的な声も含めて」
「照れるピ―」
俺はわざとらしく小躍りする。
それを見て女エルフはクスリと笑った。
「ふふっ、見た目と声が合って無い」
「そんなの気にしないピー」
「貴方名前はある?」
「ピーはピーだピー」
本名を名乗るわけにはいかないから完全に適当だ。
「えっと、ピーでいいのかしら?」
オーバーリアクションの受けが良いと知った俺は大袈裟に大きく頷く。
「そうだピー、キミの名前は何だピー?」
「私はドニシャ」
そういえば本に囲まれて見づらかったがテーブルの上に王冠があった気がする。
俺は少しの間動きを止めドニシャを見つめる。
いきなり女王を見つけれたのはデカい。
手間が省けて好都合だ。
俺は軽くテーブルへと飛んでドニシャの目の前までピョンピョン跳ねながら進む。
手の代わりに翼を前に出して小刻みに回しながらドニシャ目掛けて前進する。
「登録ボタンを押せっせっせっせっせ!」
ドニシャの胸元に翼が当たりそうなところで止まり反応を待つ。
まあ眷属化のセリフまでは言わなくて良かった気もするが一応だ。
「何?ボタンがどうかしたの?」
ドニシャが俺の行動に小首を傾げる。
俺だって気持ちは一緒だ。
「…」
暫く待っても何も起きない。
俺から闇は出ずドニシャに何も変化は無い。
クソ!何でだ、眷属化に失敗した理由が分からない。
ドニシャが闇堕ちしてないからか、憑依の状態で眷属化が出来ないのか、それとも俺のダンジョン領域内じゃないからか。
何にせよまだ時間が掛かる。
俺は翼を畳んでドニシャと距離を取り向き直る。
「どうして飛びたいピー?」
俺は全てを無かったことにした。
最初のテーマに戻ってやり直すことにしたのだ。
「…ああそれね、それは私がこのナチュド王国の女王だから…」
ドニシャは視線を窓の外へと移した。
段々と最初に見た複雑な表情になっていく。
「何でも話してみてピー。ドニシャの力になれるかもしれないピー」
小さな小鳥の俺がフォローしようと頑張る姿を見てドニシャは微笑んだがすぐに表情が曇った。
ドニシャは目を閉じて深く息を吸い込んだ。
吸い込んだ空気を一気に吐き出すと同時に目を開けゆっくりと話始める。
「…この国には大きな問題があってね…私は女王として良くしようと努めているけど理解して貰えないことが多くて上手く行かないの」
市場を見た感じでは平和そうで何も問題を感じなかったけどな。
「何があったピー?」
「このままじゃいずれ炎の魔王にナチュド王国は滅ぼされてしまう」
ほう魔王が原因ってわけか。
「そんなの殺してしまえば良いピー」
「…小鳥のクセに随分過激な言葉を使うじゃない」
「人類程じゃないピー」
「ふふっそうかもね」
「魔王を殺せないピー?」
「そうなの、それが問題」
「どうしてだピー?」
「エルフは魔法に誇りを持ちすぎてる。古代では魔法を極めるだけで良かったけど今の時代じゃ魔法だけで強力な魔王を倒すことは出来ない。ましてや炎の魔王は約2500年前のアラモド時代から熾烈な生存競争を勝ち残った古の強大な魔王」
「魔法以外も使えばいいんだピー」
「そう、スキルを習得したら良いのだけど女神ラチカがスキルという能力を人類に与えた時にエルフは素直になれなくて魔法に固執したの」
「どうしてだピー?」
「他の人種より優れた魔法を操ることで築いたエルフの優位性がスキルの台頭で崩れると思ったそうなの。それでスキルより魔法の方が優れていると証明するためにより魔法を極めようとして失敗した」
「失敗しても学習してまた立ち直れば良いんだピー」
それが人生だ。
「一部のエルフが失敗だったと気が付いてもエルフは魔法に固執していたから孤立して閉鎖的になってた。だから変化を受け入れる事が出来ない者が多くて…」
話に熱が入ってドニシャの口調が少し強くなってきた頃、壁に設置されている銀のベルが勝手に鳴った。
「もう行かなくちゃ…またね」
ドニシャは本で隠れていた王冠を手にとって頭に被せると背筋を伸ばして立ち上がりドアを開けて出て行った。
さて俺はどうしようか。
取り合えず話し相手という関係を構築することに成功したが、ここからどうやって眷属化したらいいのか分からない。
一つずつ試していくか。
まずは闇堕ちさせてみよう。
マハルダの時はチャンネル登録の舞でイチコロだったがもしかするとそれは既に闇堕ちが完了していたからかもしれない。
確かマハルダを配下にしようとして中指を立てた時、闇を吸い込んだのにダークウォーカーにならなかった。
あの時マハルダは闇を吸い込んで闇堕ちしていたけど配下にはなっていなかったと考えられる。
闇堕ちしていたから眷属化のスキルが直に発動したという推測だ。
ドニシャはまだ闇を一切吸い込んでいない。
闇を発生させる時はVTuber時代でやっていたことがトリガーになっていた。
他のノリを試せば闇堕ちさせることが出来るのかもしれない。
しかしそれだとチャンネル登録の舞で闇堕ちさせることが出来なかった理由が謎だ。
マハルダは眷属化に成功してはいるが闇堕ちしたのは中指を立てた時だった。
ドニシャに中指を立てよう。
それでダメだったら精神的に闇に堕としてみよう。
俺は今後の計画を決定して書斎の窓から外に出ると左隣の部屋の窓に侵入したのだった。
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