11 エルフの侵入者
マハルダの外見はさほど変わっていなかった。
以前は死にかけのガリガリおじさんだったが眷属化したらボロ切れの隙間から見える身体は何故か健康的な脂肪と筋量があった。
他には奴隷の首輪が消えたことと目の周りにクマが出来て爪が黒いということぐらいの違いしかない。
しかし外見以外では大きな差異があった。
今のマハルダは巨大な闇のオーラに包まれている。
闇の力を得たのだ。
「生まれ変わった気分です、全身から最高の心地良さを感じています。おお我が神よ!感謝申し上げます!」
跪いたままマハルダは深く頭を下げた。
「俺のダンジョン領域に侵入して来たオークとエルフはダークウォーカーじゃ勝てそうにない。マハルダ、お前の力が必要だ。」
「おお我が神よ!早速活躍の場を頂けるとはなんと慈悲深い!神より賜りし私めの力をご披露致しましょう!」
「地上に出て北西に進めばオークとエルフが戦っているはずだ、ダークウォーカー達には撤退命令を出しているから何とかマハルダだけで排除してくれ」
「おまかせください!」
マハルダは自信満々にそう言って立ち上がると身体の表面に闇を出し、排出した闇が形を変えて漆黒のローブとブーツとなり勝手に装着した。
「先に行け、俺も後ろから付いてく」
俺は牢屋に転がっている幾つかの白骨死体から近いのを選び憑依した。
「神よ、お先に出発致します」
マハルダが大股で進み階段を上る。
俺は憑依した骸骨の姿で遅いながらも後ろから付いて行った。
地上へ出た時には既に北西の遥か遠くにマハルダが居た。
追いかけるも骸骨の速度は走っても遅くすぐにマハルダを見失った。
しばらく北西を進むと鎧を着た闇人間に出くわした。
リーダー格のエルフから逃亡したダークウォーカーだ。
3体しか居ない。
他はやられたのだろう。
マハルダの応援に行かせてもやられるだけで足手まといになる可能性が高い。
俺はダークウォーカー達への撤退命令をそのままにしておき先を進む。
ほどなくして派手な爆発音や衝撃音が聞こえて来た。
もう少し先へ進むと2人の人物が戦っているのが見えた。
杖に一番多く宝石を嵌め込んだリーダー格のエルフとマハルダの2人だ。
「たかがヒューマン如きが何故そのような魔法を扱えるっ!」
リーダー格のエルフが吐き捨てるように言うが、白と緑の色使いをしていた軽装備は既にズタボロで口から血を流していた。
対してマハルダは出発前と変わらない。
「愚かなエルフよ!これぞ信仰心の差だ!」
「フンっ、我らは百年以上も前からドニシャ女王に忠誠を捧げる宮廷魔術師なのだっ!魔法の探求も信なる力もヒューマンに劣るものか!」
激昂したリーダー格のエルフが睨みながらマハルダに向けて杖を振る。
マハルダが爆発に呑まれたが闇が爆発の中で渦巻くと中から無傷のマハルダが姿を見せた。
「まだ分からんか!私には神がついているのだ、崇高で偉大な闇の神だ!エルフの女王等とは格が違う!」
「闇の神とはまさかヒューマンが邪神ゲズムを崇拝するとは哀れだな」
「そんな紛い物と一緒にするでない!闇の神はこの世でただ一つの真なる神だ!全てに勝る至高の力をお持ちなのだ!」
「女神ラチカと邪神ゲズムに加えて3柱目の神だと?邪教徒の戯言にはうんざりだ」
「魔法以外の全てに疎いエルフ族だとしても私の闇魔法の力を見て戯言では無いと分かっているはずだ」
マハルダが見せつけるように掲げた右手から幾つもの闇の触手が生えのたうち回る。
リーダー格のエルフは顔をしかめて小さく呟く。
「もしや闇の神というのは黒禍の化物と関係が…」
「さあエルフよ改心し闇の神を崇めるのだ!」
「そんな怪しい存在を崇拝するわけなかろう!」
「エルフのなんと盲目なことよ、何を言っても我が神を信ずる心が芽生えんのなら死んで貰う」
リーダー格のエルフが両手で杖を上に掲げ、マハルダが片手を軽く振るう。
マハルダの頭上から黄緑色の光が降り注ぐも突然発生した黒い雲が光をブロックした。
黄緑色の光が止むと黒い雲がリーダー格のエルフに接近し黒紫の稲妻を放出させた。
「ぐう゛っ」
感電したリーダー格のエルフは煙を上げてバタバタと身を痙攣させると崩れるように倒れ伏す。
マハルダは敵の状態を確認して背を向け更に北西を目指して大股で歩き始めた。
俺も後ろからマハルダの後を追う。
マハルダ強いな。
思ってたより随分強い。
もっと接戦かエルフには勝てないかもしれないと思っていた。
まさか眷属化がこんなに強力だったとはな。
貧弱そのものだった元奴隷のマハルダがこんなに強くなったんだ。
元から強い存在を眷属化したらどこまで強くなるのだろう。
リーダー格のエルフが言っていたドニシャ女王だっけな、エルフのトップを眷属化してみたいところだ。
そう考えてる内にエルフとオークが戦闘を繰り広げている場所まで来ていた。
「エルフの魔法など恐れる必要も無い!オークの武力を思い知らせてやれ!」
赤いオークが吠えるとオークの集団がエルフに突撃する。
カルムと呼ばれた男のエルフと女のエルフがオークの集団に向かって緑色をした火の球を無数に放つ。
オーク達は突撃しながらも筋力を増やし身体からほのかな赤い光を放つようになった。
魔法が着弾しても一切気にせずエルフを襲う。
男女のエルフは氷の盾を展開してオーク達の猛攻を防ぎ距離を取る。
「くそ!アラモド期の弱小モンスターが一端のパッシブスキルを持ちやがって!」
悪態をついてからカルムは杖を振って何かを唱え続ける。
オーク達が立つ地面がぐにゃりと柔らかくなり足が引きずり込まれていく。
しかしオーク達は冷静に持っている武器をカルムに投げた。
カルムは詠唱を中断して避ける。
するとオーク達の地面が柔らかく無くなり力任せに地面を叩いて粉砕することで全員脱出した。
「オークこそが大魔王に相応しい最強の種族だ!遥か昔から衰退し続ける時代遅れのエルフなんぞに敗北は有り得んっ!」
オーク達が勝ち誇ったように唸り声を上げる中、マハルダが口を挟む。
「なんと悲しいことか!オーク如きが最強の種族とは片腹痛い!闇こそが最上の存在であると知るが良い!」
マハルダが闇に覆われた両手を地面に付ける。
オークの真下から巨大な漆黒の触手が複数生え叩き潰した。
重い衝撃音が響き渡り、地面が簡単に破壊された。
潰されたオーク達は肉片を飛散させピクリとも動かなくなった。
残された男女のエルフは眼を見開きマハルダに驚愕の表情を浮かべている。
「そこのヒューマン、助けてくれたのか?」
カルムが質問するもマハルダは首を横に振る。
「エルフ達よ、助かったのではない生かされたのだ、即ち幸運にも崇高なる闇の神を崇め奉るチャンスを与えられたのだよ!」
「闇の神ぃ?何だいきなり、お前もコウナシマオみたいな訳の分からないことを言うタイプか?」
俺にとって雷に打たれたような衝撃的な発言だった。
あのエルフ男はコウナシマオと言ったように聞こえた。
まさかその名前を異世界人から聞くとは思わなかった。
コウナシマオは俺の名前だ。
正確には迷宮イリを演じていた中の人間の名前。
同じ名を語る別人なのか、それとも俺が2人居るのか。
それにモク爺が言っていた器ってもしかして…。
「神を信じぬ者には死あるのみだ!」
マハルダが手を地面に押し当て魔法を発動させたのを見て俺は慌てて止めに入った。
「マハルダ待て!その男には聞くことが…」
俺が説明しようとした時には既に男女のエルフ達が巨大な漆黒の触手によってぺちゃんこになっていたのだった。
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