10 1体目の眷属
俺は骸骨に意識を切り替えた。
王都のダンジョン領域北西にて瓦礫に身を隠していた俺は立ち上がり移動を開始した。
ダークウォーカー達を集合させなくては。
俺のすぐ近くで戦っているオークの他に2体のオークがこちらに向かって移動してるのをマップで見た。
近くでオークと戦闘中の2体のダークウォーカーはそのままにして他の10体を探しに行く。
凡その居場所は先ほどマップで確認済みだ。
まずはここから一番近い東の方へと向かう。
この辺りも居住区で相変わらず壊滅しているが、他の場所と違って瓦礫の量が少なく壊れずに残った建物が無い。
その代わりに夥しい量の人骨がそこら中に転がっていた。
他の区画と比較すると王都に住んで居た庶民の中でも下層にあたる部類だったと思われる。
石材の破片やら泥やら燃えカスやらで一杯の道を進む。
奥の方で瓦礫の山を漁っているダークウォーカー達3体を発見した。
「おーいお前等!今すぐ西の戦闘に加勢しろ!」
ダークウォーカー達は俺の骸骨姿など一切気にする素振りも無く黙って指示に従い西へと走り出した。
次に近いのは北だ。
俺はすぐに移動を再開した。
骸骨だからか憑依の限界だからか不明だが急いでも移動速度は遅い。
全力で急いているのに軽くジョギングしている程度の速度しか出せなかった。
仲間内で連絡の手段が無いのが辛い。
後で球に何とかならないか聞いてみよう。
暫く進むと景色が変わった。
居住区から商業区に入った様で様々な破損した物資が散らばっている。
飛び散った果物にバラバラになった家具、ボロボロの服を着た人骨などが道には転がっていた。
瓦礫の量も多く損害が少い堅牢そうな建物も数軒あった。
無事だった建物の中でもひと際大きい屋根付きの茶色い建物からダークウォーカー達が4体出て来た。
俺は南西の戦闘に加勢するよう指示を出して俺自身も南西へと向かった。
まだ東の王城付近に3体居るのをマップで確認しているが位置が3体ともバラバラだったので今は無視することにした。
コアルームに戻って来てそうだったら意識を切り替えて指示を出せば良いし、オークの仲間が地下牢に侵入して来る可能性もあるからな。
今はスピードが肝心だ。急がないといけない。
俺は焦る気持ちのままに出せる限りの速度で走る。
やっとのことで南西の戦闘場所まで戻って来るとまだ戦いは続いていた。
2体のオーク相手に8体のダークウォーカーが取り囲んで戦っている。
戦いの最中、両手にバトルアックス2本を持ったオークが野太い声で叫ぶ。
「─のジジイを殺してやる!邪魔するな黒き者共!」
それを聞いて隣のメイスを持った重装備のオークがダークウォーカー達の猛攻を捌きながら口を開く。
「待つ、同胞ジジイにやられた、一旦王に知らせるべき。命令された」
「ぬぅう、コイツ等を殺してからだぁ!」
ジジイとはモク爺のことかな。
オークの会話から推測するとモク爺はオークとの戦闘中に消えたということ。
早く帰ってきて欲しいものだ、ダークウォーカーだけでは2体のオークすら倒せないでいるのだから。
地面を見ると倒れ伏した番兵の装備が一式転がっていた。
1体ダークウォーカーがやられている。
それにしても先ほどまで1対2で良い勝負だったのに2対8で押し切れないのは不思議だ。
そう思っていると、戦闘から少し離れた場所からドラムの音が聞こえて来た。
象形文字を組み合わせたような模様の茶色い旗を背負い肩のベルトで固定した筒状のドラムを演奏するヒョロ長いオークが居た。
演奏が始まると戦闘しているオーク達から赤いオーラが噴き出し動きが劇的に良くなった。
囲っていたダークウォーカー達は押し返されて苦戦している。
どうやらダークウォーカーには後方支援を先に倒すという知能が無いらしい。
俺は奥のダークウォーカー2体を指差して叫ぶ。
「奥の2体で後方の演奏しているオークを殺しに行け!」
戦闘中でもダークウォーカーは素直に俺の指示に従いドラムを演奏するヒョロ長いオークに向かって走り出した。
「何だあの喋るスケルトンは!」
「後ろシャーマン守る」
バトルアックスを持つオークを重装備のオークが引き止め後ろに抜けたダークウォーカー2体を追いかけようとした。
「追わせるな全員で阻止しろ!」
俺の命令に従いダークウォーカー6体掛かりでオーク2体に突っ込み持って居る武器でラッシュを仕掛ける。
「数減ってる先に倒しきる」
「ふんっ!この数なら殺れるぞ!」
2体のオークは追うのを止めて反転し迎え撃つ。
その間にドラムを叩くオークへと2体のダークウォーカーが襲い掛かる。
拝借して装備したであろう紋章入りの鎧と剣が陽光を反射してキラリと光る。
夢中で演奏していたオークは襲われることに気付くのが遅れ慌てて演奏を止めて逃げようとしたが、既にダークウォーカー2体の剣の間合いだった。
ダークウォーカーの顔は無表情な闇で一切の容赦なく剣を振り降ろす。
同じタイミングで地面に謎の光る文字と図形が出現しオークとダークウォーカーの3体は巨大な緑の火柱に飲み込まれた。
俺も戦闘中のオークでさえも驚き動きが止まる。
「まさか黒禍の化物がこの程度ではないだろうな?」
やたらと耳に心地良い声が奥から聞こえて来た。
声の方を見ると耳の長い白い肌をした金髪の男女3人組がこちらに向かってゆっくり歩いて来ていた。
エルフじゃん。
もう見たまんま。お顔の整ったまさにエルフですって見た目だ。
3人組は白と緑の色使いをした軽装備を着ていて全員宝石を嵌め込んだ木製の白い杖を持っている。
全員魔術師だし。
「にしては弱すぎる、見よ魔法一つで消滅したではないか」
「そう睨むなカルム、見た事無いモンスターだったし黒かったから黒禍の化物と思ったのだ」
カルムと呼ばれた男のエルフが青い眼でギロリと俺達を見渡す。
「あれはオークに…新種の弱いモンスターとスケルトンだ」
「こんな奴等に王都が滅ぼされたとは思えない」
カルムに疑問を投げたのは他の2人より背の低い女のエルフだった。
「黒禍の化物が王都を滅ぼしたのかはこれから調べれば分かる。女神ラチカの神託がもう少し詳細を説明してくれていたらな」
先頭を歩くリーダー格らしい一番多くの宝石を嵌め込んだ杖を持つ男のエルフが女エルフに言葉を返した。
3人のエルフ達は俺達などまるで警戒する素振りも見せず話し込んでいる。
ヤバイ。
緑の火柱が消えた跡を見ると装備を残してダークウォーカーとオークが消滅していた。
それだけでエルフの強さは十分理解した。
これは確実にモク爺案件だが、そのモク爺が何故か行方不明だ。
モク爺より強い侵入者が現れたか赤黒い蛇でも目撃したのかもしれないが今そんな事考えてもしょうがない。
モク爺抜きで今のこの状況を何とかするしかない。
必死に思考巡らせる。
そうだオークが言っていたことを思い返すとモク爺が行方不明になる前に何体かオークを仕留めてくれていたみたいだからDPは少しあるはず。
俺には闇堕ちのスキルがあるがそんな隙を与えてくれそうにも無いし、1人闇堕ちさせたところで数的不利により残りの2人に負けるだろう。
それに他のエルフがまだ居るかもしれない。
そうこう考えてる間にオークが動いた。
「強いエルフ、撤退する」
「クソっ憎たらしい宮廷魔術師共めっ」
オーク2体が西に向かって逃亡する。
俺も便乗することにした。
「全員コアルームまで帰還しろ!」
ダークウォーカー達に命令を下す。
「待ちたまえよ」
オークとダークウォーカー達の行く手に複数のサークルが出現し緑の火柱が壁になった。
俺達はつんのめり後ろに少し下がった。
「おいお前達、黒禍の化物を知らないか?」
カルムが涼しい顔で俺達に質問した。
「知らない」
メイスを持った重装備のオークが答える。
「そうかじゃあお前達をそのままにしておくと危険だから討伐させてもらおう」
カルムの身体をを青い光が薄く包み俺達モンスター勢を全てのみ込むほどの巨大なサークルが足元に出現した。
「カルム避けろっ!!」
エルフのリーダー格が叫ぶと同時に北西から斬撃が飛来し魔法を発動させるよりも先にカルムに命中する。
サークルが消え斬撃が来た方に視線を移すと武装した10体のオーク達が見えた。
「エルフ共を皆殺しにしろぉ!」
ひと際大きな赤いオークが吠える。
その間にダークウォーカー達はコアルームがある地下牢の方へと走った。
「待ちたまえと言っただろう」
リーダー格のエルフが複数の宝石が嵌め込まれた杖を振るとダークウォーカー達に無数の火の球が飛来した。
俺はダークウォーカー達とは別の南西に進み叫ぶ。
「お前等全員黒禍の化物に殺させてやる!」
「なんだと?」
黒禍の化物なんて全く知らない。
俺の嘘につられてリーダー格のエルフが俺の方へと向きを変え追って来る。
これで少しだけダークウォーカー達が逃げる時間を稼げるだろう。
俺は半壊した建物を右に曲がると瓦礫の隙間に突っ込み憑依のスキルを解除して意識を本体の闇へと戻した。
視界が薄暗い地下牢へと変わり球が無事であることと侵入者が居ないことを確認すると急いで地下2階へと上がる。
この状況で戦力を強化するとなるとマハルダを眷属化するしかない。
マハルダを眷属にしたところで元は弱い奴隷の人間だから使い物になるのかどうか分からない。
でも一度配下になった存在は眷属化出来ないと球が言っていたからダークウォーカーは対象外となりマハルダしか残されていない。
それにどうやって眷属化するのか分からない。
闇堕ちさせる時は地球時代に配信でやってたことを再現したらいけた。
眷属化もそういうことなのかもしれないな。
地球ではアップロードした動画の最後にチャンネル登録したお前は闇の眷属だというテロップが表示され俺がこうしていた。
グッドサインみたいに右拳を前に突き出して親指を上に立て微細に腕を回しながら徐々にマハルダへと迫り叫ぶ。
「登録ボタンを押せっせっせっせっせ!」
これはチャンネル登録のボタンを押してくれという意味で、動画では画面を右手が覆うまでカメラに接近して終わる。
マハルダはポカンとした表情で俺を見て瞬きしている。
これ違うかもな。
そう思ったが俺の右手がマハルダの鼻先すれすれまで迫った時、俺の右手から闇が噴き出しマハルダに流れ込んだ。
「おぉぉ!我が神よ!神のお力を感じます!なんと凄まじいぃぃぃ!」
マハルダの全身から闇のオーラが出現しゆっくりと跪いた。
あれなんか眷属化出来たみたいだな。
俺は笑顔で言った。
「ハッピーダークデイ!マハルダ!」
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