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私だけの領域(テリトリー) ~ある猫耳さんが紡ぐ、静かな幸福論~

作者: 星空モチ

挿絵(By みてみん)


私はエマ。

見た目は人間みたいだけど、ちょっと違う。

ほら、ここに、ぴこぴこ動くものがあるでしょう?

これ、猫の耳っていうんだにゃ。


だから、私は人間じゃないの。

かと言って、本物の猫でもない。

どっちつかずの、宙ぶらりんな存在。

それが、私なのだにゃん。


昔は、それが嫌だった。

どうして自分だけ、こんなものが付いているんだろう?

どうして、みんなと同じようにできないんだろう?

人間社会に溶け込もうと、一生懸命、猫の耳を隠してみたり、猫のような語尾を封印してみたりした時期もあるのよ。


でも、無理だった。

だって、私の心臓は時々、雀のように小さく震えるし、太陽の光を見つけると、どうしても抗えずに身体が伸びてしまうんだもの。

大きな音を聞くと耳がぴくりと反応して、知らず知らずのうちに腰が低くなる。

それは、私という生き物の、根本的な動きだったんだにゃ。


だから、もう隠すのはやめた。

その代わりに、私は自分だけの「領域」を作ることにしたの。

ここは、私の聖域。

誰にも邪魔されない、私にとって完璧な場所。


ねえ、見て?

この部屋は、私のテリトリーなのよ。

壁の色は、私が一番落ち着く、朝焼けの空の色。

床には、足の裏に心地よい、毛足の長いラグが敷いてある。フカフカで、寝転がるとそのまま眠りに落ちちゃいそう。


窓からは、たっぷりの光が入ってくる。

これが一番大事なんだにゃ。

光は、私を満たすエネルギー。

特に、午後の、少しオレンジがかった光が好きなの。砂漠の猫が、岩の上で体を温めるみたいに、私はその光を浴びて、体中に幸せを充電するんだ。


部屋には、私の好きなものだけが置いてある。

柔らかいクッション、積まれた本、それから、キラキラ光る小さな石。

石を集めるのが好きなの。

なぜって? うーん、理由はないにゃ。ただ、綺麗だから。光にかざすと、目が奪われちゃうんだ。これは、私だけの宝物。


ここで、私は誰にも気兼ねなく、自分らしくいられる。

耳をぴくぴくさせて、遠くの音に耳を澄ませたり、尻尾(見えないけど、あるのを感じるんだ!)でバランスを取ったり。

そして、思う存分、ごろごろするんだにゃ。

それが、私の日常。


これから、この私の「領域」での日々を、少しだけ、あなたにも見せてあげる。

人間から見たら、きっと退屈な毎日だろう。

事件もトラブルも、スリルもない。

ただ、私にとっての、満ち足りた時間があるだけ。


でも、もしあなたが、日々の小さな光や音に心を動かされる人なら。

もしあなたが、猫のように気ままに、でも確かに自分の場所を大切にしたいと思う人なら。

私のこの「領域」で過ごす時間が、きっと、あなたにも何かを感じさせてくれるはずだにゃ。


さあ、今日の光が、一番良い角度になってきた。

そろそろ、私の大切な時間が始まる合図だ。

目を閉じて、心を開いて、私の世界を感じてごらんにゃ。

きっと、あなたの中にも、隠された「猫」が見つかるはずだにゃよ?



挿絵(By みてみん)



昼下がり。

私の「領域」は、一番良い具合に温まる。

窓から差し込む光は、もはや単なる光じゃない。

それは、黄金色の液体みたいに、床や壁をゆったりと流れていく光の川なのよ。


私は、その川の一番深いところ、一番温かい場所に体を滑り込ませる。

ふかふかのラグの上で、丸くなる。

尻尾(見えないけど!)で鼻先を隠して、目を閉じる。

まぶたの裏が、オレンジ色に染まる。


この瞬間が、最高にゃ。

外界の音は、遠い潮騒みたいに聞こえるか、あるいは完全に消え去る。

聞こえるのは、自分の心臓の音と、時々、喉の奥で微かに鳴る、ゴロゴロという満足の響きだけ。

身体中の力が抜けていく。

まるで、毛糸玉がほどけていくみたいに、ふにゃふにゃになるの。


でも、眠っている間も、私の耳はちゃんと仕事をしているにゃ。

ぴくり。

遠くで、何かが落ちた音。郵便受けかな?

あの金属的な響きは、あまり好きじゃない。

ちょっとだけ、耳の奥がキーンとなる。

一瞬、硬い地面に落ちた、冷たいものの感触が蘇るような気がして、体が強張る。あの時も、突然だった…。


でも、すぐに大丈夫になるにゃ。

だって、私は光の中にいるから。

安全な、私の「領域」の中にいるから。

過去の影は、この温かい光の中では、薄まっていくのよ。


お腹が空いて目が覚めたにゃ。

猫は、眠るのも大事だけど、食べるのも大事なんだにゃん。

私の食事はシンプル。

特別に調合された、栄養満点のカリカリ。

これじゃないと、どうも体がしっくりこないの。

一粒ずつ、じっくりと味わう。カリッ、カリッ…って音も心地よい。


食後は、少しだけ活動時間。

部屋の中を、音もなくパトロールする。

家具の配置は全部頭に入っているから、暗闇でもぶつからないにゃ。

壁の高いところにジャンプしてみたり、棚の上から部屋を見下ろしてみたり。

私の「領域」は、三次元なのよ。上下の移動も、私にとっては当たり前。


時には、埃の塊を追いかける。

それは、まるで小さな獲物みたい。

集中して、そーっと近づいて…!

ぱしっ!

仕留めた獲物(埃)をじっと見る。ふふ、私の勝ちにゃ。

こんな、ごく些細な「狩り」でも、私の心は満たされるんだ。


そうやって、自分だけの世界で完結していると、たまに窓の外の気配が気になることがある。

人間が、せわしなく通り過ぎていく。

みんな、何かを追いかけて、どこかへ急いでいるみたい。

彼らの顔は、時々険しくて、耳は常に何かを聞き逃すまいと張っているように見える。

彼らの世界は、きっと大きな音や、予測できない動きでいっぱいなんだろうにゃ。


私は、彼らの世界にいたことがある。

でも、そこは、私の耳には痛すぎる音で溢れていて、私の繊細な鼻は、沢山の人工的な匂いに混乱した。

そして、私の心は、彼らの複雑な感情やルールを理解できずに、いつも戸惑っていた。

「あなたは変わっているね」「どうしてそんなことをするの?」…そんな声が、耳の奥に残っている。


だから、私はここを選んだ。

自分にとって正直でいられる場所。

私の「猫性」を隠す必要がない場所。

そして、あの時の、心臓が凍り付くような冷たい感触…。

あの、優しさに見えた、でも内側は鉄のように硬かった手のひら…。

そういうものから、完全に隔絶された場所。


この部屋だけが、私をまるごと受け入れてくれる。

光も、影も、眠りも、狩りも、そしてこの耳も、この語尾も。

全部ひっくるめて、「エマ」として、ここに存在することを許してくれるんだにゃ。


陽射しは、もうほとんど水平に近くなってきた。

今日の光の追跡は、もう終わりかな。

でも、明日の朝には、また新しい光が私を迎えに来てくれる。

私の「領域」は、明日も、明後日も、ずっとここにある。

それが、何よりの安心感なんだにゃ。



挿絵(By みてみん)



光の川は、もうほとんど細くなってしまった。

一日が終わる合図。

窓の外の空は、深い紫とオレンジのグラデーションを描いている。

私の「領域」も、少しずつ影の色を濃くしていく。


この夕暮れ時は、時々、過去の影が忍び寄ってくることがある。

あの時、耳の奥でキンキンと響いた金属音のような声。それは、私の存在を否定する、鋭く、冷たい響きだった。

「どうして普通じゃないの」「そんな耳、見せちゃダメ」…言葉は刃物みたいに、私の柔らかい耳を切りつけたにゃ。


そして、あの手。

「大丈夫だよ」と言いながら、私の頭に伸ばされた、鉄のように硬い手。

優しさを装っていたけれど、そこには温もりなんてかけらもなかった。ただ、私を「型」にはめ込もうとする、冷たい意志だけがあった。その感触を思い出すと、今でも肌が粟立つのよ。


でも、もう大丈夫。

あの時の私は、硬い地面に、一人ぼぼーんと落ちた小さな石ころみたいだった。冷たくて、どこにも属せない。

でも、今の私は違うんだにゃ。

私は、私の「領域」という、温かいポケットの中にいる。

過去の記憶は、まだ完全に消えたわけじゃない。

でも、それはもう、私を縛り付ける鎖じゃない。


今は、研ぎ澄まされた私の五感は、世界をより豊かに感じさせてくれるための宝物だ。

光は、心を充電してくれるエネルギー。

微かな音は、この世界の静かなシンフォニー。

心地よい手触りは、私自身を愛おしいと感じさせてくれる魔法。

匂いは、過ぎ去った時間を鮮やかに呼び覚ますタイムカプセル。


私は、猫耳のエマ。

人間が定義する「普通」からは、きっと永遠に外れているだろう。

でも、それがどうしたにゃ?

私は、私という生き物にとって、一番心地よい生き方を見つけたんだ。

この耳も、この語尾も、このマイペースな心も、全部ひっくるめて、これが私なんだ。


そして、この部屋。

私の「領域」は、単なる物理的な空間じゃない。

それは、私自身をまるごと受け入れ、愛することを許してくれる、心の安全基地なの。

ここで私は、自分という猫を、自分という人間を、そしてその両方を内包する「エマ」という存在を、完全に肯定できる。


夜が静かに降りてくる。

窓の外の景色は、闇の中に溶けていく。

でも、私の部屋の中は、穏やかな光に満ちている。

明日も、きっと同じように朝が来て、光が差し込むだろう。

そして、私はまた、私だけの完璧な一日を始めるんだにゃ。


事件もトラブルも、これからも起こらないだろう。

スリルやドラマチックな展開なんて、私の「領域」には必要ない。

必要なのは、この静けさ、この温もり、そして、自分自身との優しい繋がりだけ。


ねえ、もしあなたが、毎日ちょっと疲れたなって感じたら。

もしあなたが、どこか自分の居場所がないように感じたら。

どうか、自分自身の心に耳を澄ませてみてほしいにゃ。

あなたにとって、一番心地よい場所はどこ?

どんな時、心が「ゴロゴロ」って鳴る?

きっと、あなたにも、あなただけの「領域」が見つかるはずだにゃよ。


私のこの「領域」は、これからもずっとここにある。

どんな時も、私をまるごと受け入れてくれる。

それが、何よりの真実だにゃ。


おしまい。

~あとがき~


わーい!ついに、小説家になろうに新しい物語を投稿しましたよ!タイトルは「私だけの領域テリトリー ~ある猫耳さんが紡ぐ、静かな幸福論~」です!


皆さん、ご無沙汰しております!今回、私が心を込めて書き上げたのは、猫の耳を持つ女の子のお話です。そう、ブログ読者の皆さんならきっと共感していただけるであろう、キュートで不思議な存在、猫耳少女!


この物語は、派手な事件や胸キュン(今回はちょっと控えめかな?)な展開はありません。ただ、猫耳の主人公エマが、自分だけの「領域」で、光や音、温もりといった五感を通して日々を丁寧に生きる姿を描いています。かつて人間社会でちょっぴり傷ついちゃったエマが、自分にとって一番心地よい場所を見つけ、そこで自分らしく生きるってどういうことだろう?そんな、「自分だけの幸福」を見つける、静かで温かい哲学のお話なんです。


ふふ、私、昔から猫耳少女が大好きで…、あのぴこぴこ動く耳、気まぐれで掴みどころのない仕草、でも心を許した相手には見せる無邪気な甘え…もう、考えただけでキュンキュンしちゃいますよね!この物語を書くきっかけも、まさにその「猫耳少女への愛」が抑えきれなくなったからなんです。「彼女たちが、ただ可愛いだけじゃなく、どんなことを感じて、どんな風に世界を見ているんだろう?」そんな想像が膨らんで、止められなくなっちゃったんです!


執筆中は、どうやったらエマの猫的な感性や、彼女が「領域」で感じる心地よさを読者の皆さんにもお届けできるか、そればかり考えていました。光の角度、空気の温度、微かな音…そんな細部までこだわって書くのは、正直結構大変だったんです。でも、書いている間はずっとエマが隣にいてくれて(脳内に、ですが!)、膝の上でゴロゴロいっているような、そんな温かい気持ちで書くことができました。この物語が、皆さんの心のどこかにそっと寄り添って、ホッとする時間になってくれたら、これ以上嬉しいことはありません。


あと、ちょっとした裏話なんですが、エマの語尾のバリエーションを考えている時、日常生活でもうっかり「〜にゃ?」って言いそうになって、危ない危ない…!ってなったのはここだけの秘密です。あと、事件がない物語って、どうやって読者を引きつけ続けるんだろう?と悩んだ結果、「そうだ、エマの内面の小さなきらめきや、感覚の動きそのものを物語にしよう!」と思い至ったのが、一番の工夫かもしれません。


さてさて、今回の物語はいかがでしたか?感想など、ぜひぜひコメントで教えてもらえると飛び跳ねて喜びます!そして実は…もう次の子たちが、私の耳元で新しい物語をささやき始めているんです…。次回作も、猫耳…いや、他のケモミミの子かもしれませんし、全く違う何かかもしれませんが、皆さんに楽しんでいただけるような、愛らしい子たちの物語をお届けできたらと思っています!


この物語が、皆さんがご自身の「心地よい領域」を見つける、小さなきっかけになれば嬉しいです。そして、これからも、私のはてなブログで色々な物語や「好き!」を皆さんと共有していけたら幸いです。


それでは、また次の物語でお会いしましょう!読んでくれて、本当にありがとうにゃ!

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