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 翠は自室の鏡の前にいた。

 短く切り揃えられた髪を軽くセットして、毛玉のついていない新品のハイネックのニットに、センタープレスのスラックス。羽織ったロングコートも含めて、全体をモノトーンカラーでまとめている自分の姿をよくよく眺め、おかしなところはないかと観察する。

 笑顔を作ってみたがその表情がぎこちないので、真顔にもどる。顔色の悪さと目の下のクマは前よりはマシにはなったものの、まだ健康的とは言えそうにない。イケている気がした自信はすぐに風前の灯のように消えそうだった。


 翠は引きこもり生活から一転、せめて緝に会うために身なりをきちんとしようと、まずは美容室に出かけた。

 人に会うような服を持ち合わせてはいなかったが、会社員時代の服を引っ張り出したが、流行遅れも甚だしいスタイルだった。

 ネットで「イメチェン 美容室」で検索した、割と口コミの良い美容院にその姿で行くと、はじめ、店員たちは唖然とした視線を向けてきたが、全体的にイメージチェンジをしたいと話すと、その必死さに何やら美容師の闘争心に火がついたらしく、急に美容室全体であーでもないこーでもないと会議が始まり、翠に似合うスタイルを模索してくれた。

 もちろん髪のカットから簡単なセットの仕方、化粧品、それからおすすめの服装やそれを売っているお店の紹介まで。

 翠は時にメモをとりながら熱心にそれを聞き、実行した。

 

 そこから数ヶ月、翠はようやく緝のいるカフェに向かおうとしていた。

 会うまでにどれだけかかるのか、と自分でもうんざりするが、情けない姿のままでは緝と釣り合わない。

 なんであんな人と知り合いなんだと、緝が思われるのは申し訳なかったのだ。


 もう一度、鏡の中の自分を見つめる。

 その向こうに、緝の顔を思い浮かべた。


 ……笑いかけてくれるだろうか。


 ふと、無意識に頭に浮かんだ言葉に、翠はハッとして、思いっきり首を横に振った。

 

 ……何を期待しているんだ。

 今日は、以前に来てくれと言われたその約束を果たすだけだ。

 とんでもなく時間が経っていて、もはや約束もへったくれもないし、もしかしたら今頃ですか?と呆れられるかもしれない。

 なら、ただ、行くだけだ。カフェに行くだけ。

 身だしなみはただ、失礼のないようにするためだ。

 そう言い聞かせて、脈打つ心臓を整えるために深呼吸をすると、鏡で裾や袖におかしなところがないか点検して、ポケットに財布とスマホを突っ込んで、家を出た。



 ――――――――――――――――――――


「森庵さん、ことよろですー」

 年明け初めて会った夏海が軽い調子で言ったので、緝は呆れたような顔で「よろしく……」と返した。

「お年玉ないんですか?」

「あるわけないだろ。店長に言えよ」

 両手を緝の方へ差し出して夏海がにこやかに言うと、森庵は払うように片手を振って、拒否した。

 すぐにむっとした顔で「てんちょーは飴玉一個くれましたよ」と制服のエプロンのポケットからもう空の飴の包み紙を取り出して緝に見せびらかす。

 もう食べたのか……と、さらに呆れた顔をしてから、辺りを見渡すと、

「……冴島は?」

 と訊いた。

 同じ時間から出社のはずなのに、姿が見えなかった。

「電車が遅れてるらしくて遅刻でーす」

 そう言った後、べっと舌を出して無視されたことに不服そうな顔をした。

「そうか」

 その様子もまた無視しながら、緝はそう呟いてため息をついた。

「森庵さん、冬休みどこか行きました?」

「んな暇あるかよ、年明けから試験あるんだから」

 夏海があまり興味のなさそうな顔で訊くと、緝は夏海の方を見ずにぶっきらぼうに答えた。

「うへぇ、大学生って辛いっすね」

 夏海が肩をすくめて言う。

「……高校生だって勉強はしなきゃだろ……」

 呆れた口調で緝が呟いた。

「……わかってますよォ。なんで私にはそんなに厳しいんですか?冴島さんには優しいくせに」

「別に優しくしてるつもりは……」

「この前、冴島さんに森庵さんってやっぱり優しいでしょ?って言われたけど、渋々顔でカフェラテ一杯奢られたって優しいとは思えませんよー。冴島さんには優しい顔するのにぃ」

「はぁ?……べつにお前にも冴島にも優しく思われようとは思ってないけど……」

 緝は夏海に言われて、言いながら自分の顔に触れて考え込むような顔をした。

 夏海に対する時と、たまきに対する時で表情を変えたつもりはないのだ。

 「無自覚かよ」

 夏海があきれ顔で言ったあと、「ま、いいですけど~」と、緝に構うのに飽きたのか、軽い調子で言って仕事に戻った。

 たまき一人分のバイトが欠けていても、雑談ができるくらい、今日は暇だった。

 なんだか真剣に受け答えしたのがばからしくなって、緝がため息をつくと、ちょうどそこに私服姿の梧が入ってきて、夏海が「いらっしゃいませー」と仕事モードで挨拶をした。

 梧が緝を見つけて目を合うと、軽く会釈を交わす。

 レジ前に立ってメニューに視線は落としたものの、店内の様子を見渡している梧に緝は一歩近づき、

「……冴島なら、今日ちょっと遅れてる」

 と小声で言った。

 それを聞いて梧はパッと顔を上げ、バツの悪そうな顔で「……あ、いや……。……そう、か」と一瞬、言い訳を試みたようだが、歯切れ悪く答えて頭を掻いて、ため息をついた。

 緝はその梧を見てふっと笑うと、それを隠すように拳で口元を隠して、顔を逸らした。

「おい、笑ってないか?」

 梧が眉をひそめて緝に言うと、

「……笑ってません」

 やや間を置いて答えた、その緝の声と肩は震えている。

 夏海はそれを興味深そうに横目で眺めながら、冴島さん早く来ないかな~。などと考えていた。

「……いつ来るかわからないので、店内でお待ちになられては?」

 笑いをこらえた顔を見えないように俯いた緝がそう言うと、梧はあからさまに、はぁ、とため息をついた。


 ――――――――――――――――――――――――


 翠はカフェが近づくほどに緊張感が増して、いつもの猫背になりそうなのを何度も直しながら歩き続けた。

 大丈夫、大丈夫。と心の中で呟きながらカフェに到着すると、ここまで来たのにすぐに入ることがためらわれて、一度通り過ぎてから、どういう顔で、どういうやり取りで話しかけようか何もプランを立てていないことに気づいた。

 しばらく歩いたところで、いやいや、何しに来たんだと思い直して踵を返す。

 カフェの前まで戻ると、恐る恐る入口のガラス窓から覗き込むと、レジのあたりに緝を見つけて、翠の顔が緩んだ。

 緝の笑顔が見えて、翠の胸がドキリと高鳴る。

 しばらくその姿を眺めて、ふと、その視線の先に、男性の姿があることに気づいた。


 芸能人も顔負けの顔立ちで、シンプルなベージュのクルーネックニットに黒のスラックス。さっと羽織った深いグリーンのコートが良く似合っていた。しっくりとその顔と体に馴染んでいる。

 緝が彼と親し気に話しているのを見て、すっと血の気が引いてゆく。

 

 覗いていたガラスに映った自分と目があった。

 自分の顔と恰好が、あまりにも不釣り合いに感じて翠はその場から後ずさりする。

 緝には翠と違って、緝の世界がある。

 あんなふうにキラキラした男性や、バイトの女の子や同じ大学の人たち……そんな世界に、翠が入っていいはずがなかったんだ。

 翠はもう一歩、後ずさる。

 

 ふと、緝が入り口に視線を向けた。


 翠と目が合って、緝の顔は驚いたあと、眉をひそめながらも口元に嬉しそうな笑みを浮かんだ。

 だが、翠は緝のその表情よりも見つかってしまったという感情の方が勝って、そのままその場を後にしようと身をひるがえす。

「わっ!」

 その瞬間、後ろをよく確認していなかったせいで誰かにぶつかり、相手が声を上げ、体勢を崩して尻もちをついた。

 慌てて「すみません!」と謝って手を差し伸べると、それはこの前の追いかけてきたお嬢さんだった。

「いえ、こちらこそごめんなさい……」

 たまきが翠の顔を見上げて、その顔が驚いた表情になった。

「……翠さん、ですか?」

 前とは違う姿に驚いたのだろう。

 急に恥ずかしさがこみあげて、差し伸べた手を引っ込めて視線を逸らすと、

「孤崎さん」

 嬉しそうに笑った緝がカフェの入り口から顔を出して翠に声をかけた。一瞬、緝の方を振り向いたが、翠は青ざめた顔でそのまま逃げるように走り出した。

「ちょ、孤崎さん!?」

「えっ、翠さん!」

 逃げて行った翠に驚いたが、緝はそれよりもたまきに手を貸して起き上がらせ、けがはないかと声をかけているうちに追いかけるタイミングを逃してしまった。

 —————それに、緝と目が合った瞬間の翠の表情が悲しそうで、追いかけてしまったら傷つけてしまうんじゃないかと思えた。

 前世から、長年叶わなかった片思いを、これ以上先に進める一歩の勇気が、緝にはなかった。

「……わたし、追いかけてきますね」

 立ちすくんだ緝を見て、何かを察したたまきが、決意を固めた顔でそう言うと、持っていたバッグを緝に押し付けた。

「は?お前、何言って……。足は……」

「たぶん、翠さんならそんな遠くに行けないです。最近は許可が出てリハビリに軽いジョギングしてるんで、多少走っても大丈夫ですから」

 尻込みするような緝の言葉を遮って、さらっと翠に対して失礼なことも言いつつ、たまきはにっこりと笑顔を作った。

「いや、おま……」

「ごめんなさい、バイトに穴開けちゃって」

 言うが早いか、たまきは翠の走り去った方向を見て、早歩き程度のスピードで歩き出したあと、軽く駆け足で後を追った。


 ――――――――――――――――――――――


 翠は数メートル走ったところで、すでに息が上がって早歩き程度しかできなくなっていた。

 脇腹に手を当てたまま自分の体力のなさと、逃げ出した情けなさとで、穴があったら入りたいほどの恥ずかしさがこみあげてくる。

 

 ……もう、あのカフェには行けない。もう、緝には会えない、会わない。

 

 心とは裏腹の言葉を頭の中で呪文のように呟きながら、翠はとぼとぼと歩きだす。

 美容室も、新調した服も何もかも意味がなかった。

 実際にはそこまで親しそうではなかったのに、すでに翠の頭の中では梧と笑いあう緝の姿が浮かんでいた。

 頭の中の妄想は止まらない。

 二年も経っていれば、呆れられても、別の相手が居ても、おかしくはないし、文句も言えないのだから。

 

「翠さん!」

 そこにたまきから声をかけられて、翠は我に返った。もう体力はほとんど残っていないが再び逃げようと構えたところで、あっけなくコートの袖を掴まれてしまった。

 振り払おうと思えば、振り払える程度の力だったけれど、息の上がったたまきが「……ちょっと、ごめんなさい」と俯いて息を整えているのを見ていたら、それを振り払うことができなかった。

 数分、そうしてからたまきが顔を上げると、眉尻を下げたまま苦笑いを見せた。

「……情けないですよね。これでも陸上部員だったんですけど」

 言ってから、膝をさすって一瞬顔を顰めたたまきを見つめ、翠は自分が逃げていたことも忘れて、

「どこか……座ろうか?」

 と、思わず言ってしまった。

 たまきは嬉しそうに微笑むと「はい」と答えた。


 以前にも立ち寄った公園に入ると、二人はベンチに座った。

「……痛むのかい?」

 膝を撫でたたまきの顔を心配そうにのぞき込む翠に、

「少しだけ。でも大丈夫ですよ。ちょっといつもより力入れちゃったのかも」

 たまきは微苦笑を浮かべたまま答えた。

 無言でその顔を心配そうな表情のまま見つめてくる翠に、たまきは少しだけ俯いた後、ためらうように口を開いた。

「……去年……病気になって、膝の手術をしたんです。……その……、自家骨再建って言って、自分の骨の病気の部分を除去して膝に戻すやり方で……、骨が繋がるまでは時間がかかるんですけど、今はもうほぼ繋がったから、短い時間で軽くなら走ってもいいって許可は出てるんです。だから、大丈夫なんですけど……」

「……痛む時が、あるんだね?」

 たまきが遠慮がちに頷く。詳しい事情は分からないが、おそらく大きな手術だっただろうと察した翠の顔が曇った。

 事情を知らなかったとはいえ、走らせた原因は自分だ。追いかけなくたってよかったのに、彼女の優しさに胸が締め付けられる。

「カフェに、来てくださったんですよね」

 たまきが自分の話を逸らそうと言った言葉に、翠は、自分の不甲斐なさが全身を覆って、何も返す言葉が思いつかずに沈黙した。

「……今日は、この前と雰囲気が違いますね。森庵さんに会いに来るためにおしゃれしたんですか?」

 侮蔑も、嫌味なんてかけらも混じっていないたまきの言葉に、居たたまれなくなりながら、翠は自嘲するように笑った。

 自分がやったのはおしゃれなんてものじゃない。ひとまず失礼のないように、見た目を整えて、つり合いが取れるように必死に背伸びをしただけのことだ。

 梧のことが脳裏に浮かんで、おしゃれとは、ああいう、元が整った人ができることなんだと、心底思う。

「……変だろう?似合ってないよねぇ」

「そんなことないです!とても似合ってるし、素敵ですよ」

「……でも、店員さんも別に、待っていなかっただろうし……」

 微笑んでくれるたまきの言葉よりも、自己防衛の方が先に立つ。けれど自分で言いながら、気持ちが沈んでいく。

「何でですか?森庵さん、待ってましたよ」

「そ……、そうなのかい?」

 たまきの言葉一つで浮つきそうになった心を、翠は振り払うように首を横に振った。

「…………いやいや。いやいやいや、無理に慰めてくれなくたっていいんだよ」

「いえ!嘘じゃないです。そりゃ、森庵さんだから毎回口に出すことはしませんけど……、翠さんが来ないかなって思っていましたよ」

 むん、と胸の前でこぶしを作りながら、たまきは言う。

 もちろん緝に確かめたわけではないが、率先して外の掃除に出たり、ふとした時にカフェの窓から外を眺める視線に、たまきはそれを感じていた。

 緝が翠に対して想っていることをたまきが勝手に話すわけにはいかないけれど、緝が何とも思っていないと、翠には思ってほしくなかった。

 翠は驚いた顔で、真剣なまなざしのたまきを見つめて黙った。

 期待してもいいのか、いや、それをしても傷つくだけなんじゃないかという葛藤が翠の中をめぐった。

 たまきの瞳の中に映る自分を見て、翠は静かに視線を逸らすと、俯いて指先で頭を掻いた。

 なんだか、浮かれて見てくれだけを良くして、だけどその中身は自信がないままで、親子ほど離れているたまきに弱気を慰めてもらっているなんて、なんて情けないんだろうと冷静になってきた。

「……店員さんはまだ若いから、まだまだ、いろんな可能性があるよ。俺みたいな奴より、ふさわしい人がいくらでも現れるさ。君みたいな可愛い子も近くにいるんだし……、キラキラした男性だって、いる」

「私はありえないですよ。私も、森庵さんにはそういう気持ちはないですから」

 翠の顔が諦めたような表情になったので、たまきは急に不安になって早口で否定した。

 キラキラした男性という意味は分からなかったけれど、緝が翠ではない他の女性や男性に目移りするなんて考えられなかった。

「おや……そうかい?じゃあお嬢さんは別に好きな人がいるんだね」

 目じりを下げた愛想笑いを浮かべて、翠は話を逸らすように言った。

「え?それは、その……。あ、いや!私のことは良いんですよ!」

 途端にたまきは顔を赤くして、両手を顔の前で振って否定した。

「あはは。わかりやすいなぁお嬢さんは」

 そう言って茶化す頭の片隅で、緝のことを考えて悶々としていた日々で、何か勘違いをして思い込んでしまっただけだと、また無意識に自己防衛の言い訳をした。

 自分は彼らとは違う、日陰が良く似合っているし、その輪の中に入れるわけがない。

 胸の奥が、チクリと痛んだ。

 彼らの傍らに、自分の居場所がないことに対して自分がどう思っているかなんて、気づきたくなくて目を瞑った。

「ごまかしてます?」

 むっとした声で、たまきが言ったのを聞いて、翠は目を開いた。

「ありゃ、バレたか。……なんでそんなに食い下がるんだい?俺はもう四十をとっくに過ぎてるし、店員さんはまだ二十代。彼とも君とも、親子ほど年が違うんだよ」

 一向に引く気配のないたまきに、ほんの少し苛立ちの混じった声で翠は返した。

「……気になるのは、年齢だけですか?森庵さんが嫌いなわけじゃないんですよね」

 少し困ったような顔のたまきの落ち着いた声で聞かれた言葉が、翠の胸に刺さる。

「……痛いとこついてくるねぇ。だけど、年齢って大きいんだよ。いろいろさ」

 また張り付けたような笑みを浮かべて、諭すように言った。

「……わからないわけじゃ、ないですけど」

 たまきは少し俯いて呟いた。

「じゃあ、お嬢さんのお相手も年が離れてるのかな?」

 その寂しそうに感じる横顔を覗き込んで、翠が茶化す。

 たまきは我に返って首を横に振った。

「いや、そのっ、だから、私のことは良いんですって」

 慌てるたまきの様子を、純粋で可愛い女の子だなと眺めながら、

「はははっ。……お嬢さんは女の子だから……。それなら、まだマシだろうけどね」

 乾いた笑いを上げて、ふと、翠が呟いたのをたまきは聞き逃さなかった。

 マシと言われたことにたまきは眉をひそめる。

「……翠さんは女の子じゃないと好きにならないってことですか?」

 たまきの言葉に、翠はしまったと思って、一瞬、真顔で動きを止めたが、

「……そもそも、相手が男だろうが女だろうが、どうやって人を好きになるかなんて、わからないよ……」

 諦めたようにぼんやりとあたりを眺めながら、翠は呟いた。

「……男女とか関係なくて、()()()()()()()……好きなんですよね?」

「……随分突っ込んでくるねぇ。オジサン困っちゃうよ」

 たまきの質問に、緝は目を見開いて驚いた表情をした後、困ったように微笑む。

「翠さん」

 翠の名前を呼ぶたまきは、はぐらかさないでと言っているようだった。

 何が何でも、緝への気持ちを聞きだしたいようだったが、それが、ただの興味本位というやつでも、茶化すつもりもないことも翠にはわかっていた。

 どうしてそんなに必死なのか、諦めないのか。それもまた、若さかもしれないと思いながら、たまきを見つめる。

 彼女と自分は違う、そんな風に必死になれっこない。諦めた方が楽だと頭の中で呟きながらも、胸の奥がまだ燻ってその火が消えて行かないのを確信に変えているような感覚でもあった。

「……参ったなぁ」

 たまきを説得するだけの自信が、翠にはなかった。

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