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「……風邪ですか?」

 梧がマスクをして出社したので、時雨は心配そうな顔で訊いた。

「鼻と喉が少しおかしいだけだ」

 そう言う梧の声は、確かに少し鼻声だった。

「熱はないんですね」

「あぁ」

 返事をして仕事の準備を始める梧を横目に、メールチェックを始めながら、時雨はほっとしたように小さく息をついて、

「……安心して、気が抜けたんですかね?」

 と言った。

 梧が「安心?」と聞き返してきたので、

「たまきさんが退院して、学校に戻ったでしょう?少し安心したのでは?」

「……あぁ。そうかもしれないな……」

 時雨の言葉に曖昧に答えた梧は、スッキリしない表情でため息をつく。

「……会う口実がなくなって困ってるんですか?」

 内心面白がりながらも時雨は真面目な顔で冷静な口調で言うと、梧は眉根を寄せて”何を言っているんだ?”と言わんばかりの表情をした。 

「……馬鹿なことを言うな。そんなこと思ってない」

 マスクを少し直して、梧はため息をついた。

 本人がいたって真面目に心配してたまきの元に通っていたのはわかっているが、たまきのところへ行くときの梧はどこかそわそわしていたし、たまきの体調が良くて会話をしてきた時はしばらく機嫌がよかったということを時雨は知っている

 本人に自覚はないのだろうな、と思いながら、

「……そういえば、たまきさん、アルバイトを始めたそうですね」

 そんな梧に対して、おそらく知らないであろう話を振った。

 梧は途端に眉間にしわを寄せた。

「……アルバイト?……どこでだ」

 梧のその様子を見て、時雨は笑いそうになるのを顔を逸らして耐えると、咳払いをしてから、

「森庵のバイト先のカフェですよ」

 と答えた。

 梧はさらに眉を顰めて、

「森庵が誘ったのか?」

 と、低い声で確認してくる。

 たまきから何も聞いていないのと、自分より先に緝や時雨が知っていることも面白くない様子だ。

「たまきさんがバイト先を探していたので、森庵が提案したそうです。……他のところより安心でしょう?」

 他のところより安心という点には理解していそうだが、納得していなそうな顔で

「……なんでバイトなんか……」

 と、仕事に取り掛かりつつも、半分独り言のように呟いた。

「部活も辞めて、他の部活にも入らなかったそうですから、何かしたかったんじゃないですか?気を紛らわすためにも」

 時雨もパソコンに向かいつつそう言うと、梧は、

「……心配事があるなら、話してくれればいいのにな」

 ため息交じりに言った。

「頼ってくれなくて、寂しいですか?」

 笑みを浮かべた時雨がそう言ったのを聞いて、梧はあからさまに不機嫌そうな顔をした。

「……だから、思ってない。俺以外にも、たまきに頼れる先があるのは良いことだろう。何だ?さっきから突っかかるな」

「突っかかってなんかいませんよ」

 からかいたい気持ちを押さえて時雨は言うと、そのままパソコンに向かう。

 梧もパソコンに向かって仕事を進め始めたが、少し間を置いた後、

「……変な客はいないだろうな?付きまとわれたりとか」

 と、急に言い出した。自分だってカフェに行って客層はわかっているはずなのに、少し飛躍し始めた話を、時雨は笑わないようにこらえつつ、ため息をついて、

「私が知るわけないでしょう?そんなに気になるなら、今度行ってみたらどうですか?土日のどちらかには居るようですから」

 と、言った。

 梧は一瞬だけ視線を時雨に投げたが、手は止めずに、

「…………体調が良くなったらな」

 と呟いた。

 気になっていてすぐにでも行きたいのだろうが、律儀にたまきに風邪を移すのは嫌だと思っているのだろう。

 メッセージで聞けば良いのにと胸中で呟きながら、時雨はひとまず放っておこうと、仕事に集中する。

 梧はあからさまに不機嫌そうなため息をつくと、キーボードを打つスピードを上げた。



 ――――――――――――――――――――――――


「冴島さん、不審者の話聞いたよ」

 次にバイトに行くと、店長がたまきに声をかけてきた。

「あ、すみません……。すぐ報告しなくて」

「ほんとだよー。変な人じゃないかもしれなくても、何かあったら困るから一応、報告はしてね」

 疲れた顔の店長が、更に疲れたように肩を落として、それでもたまきには笑顔を向けて言った。

「すみません」とたまきがもう一度眉尻を下げて謝ると、店長は首を振って「いいんだけどね」と言うと、「今日もよろしく」と言ってバックヤードに引っ込んでいった。

 たまきが着替えてロッカールームから出て来ると、ちょうど緝も仕度を終えて出てきたところだった。

 たまきの顔を見るなり緝は呆れた顔になり、ため息をつく。

「……変な人について行くなよ」

「行きませんよ」

 だいぶ緝に慣れてきたたまきは、口を尖らせて不服そうに言う。

 片眉を上げて反論してきたたまきを見ると、たまきはすぐに笑顔になり、緝はもう一つため息をついて、たまきの頭を指先で軽く小突いた。

 

 今日のカフェはなんだか空いていて、たまきも緝も、他のバイトたちもなんだかのんびりしていた。

 暇なのでたまきはレジの前に立って、緝からおさらいをしてもらう。

 そこに、他の店員がいらっしゃいませと声をあげたのでたまきたちが顔を上げると、

「たまき先輩」

 制服姿の紫露が顔を出した。

 たまきの隣に居た緝に軽く会釈して、またたまきの方へ向き直る。

「え、紫露?うわ、久しぶり!元気?」

 と、たまきが嬉しそうに声を上げた。

「元気元気。たまき先輩も元気そうでよかった」

 たまきの顔を見て、紫露も嬉しそうに微笑んで答える。

「うん、元気だよ。今日も学校?」

「これからちょっとだけ。先生に聞きたいことあって」

「大変だね」

「ま、念願の東都大付属っすからね。頑張らないと」

「……ほんとに受かっちゃうなんて、すごいよ、紫露は」

 たまきの誉め言葉に、紫露は照れくさそうにしながら、「まぁ、そうでもないっすけど」とまんざらでもなさそうな顔をした。

「なんか買ってく?」

「そうっすね、なんかおすすめあります?」

「最近新作の飲み物出たんだよ。それにする?」

「いいっすね。それにします。あと、ミートパイも欲しい」

「かしこまりました」

「たまき先輩、ちゃんと店員してるじゃん」

「えへへ。まだできないことばっかりだけどね」

 たまきは言いながら、まだまだ遅いが、少し慣れてきた手つきでレジを打っていく。

「お支払いは現金ですか?」

「電子マネーで」

 笑顔で二人はやり取りをして、支払いを終えると、緝がレジを代わり、二人は受け取りカウンターのところで久しぶりの会話に花を咲かせた。

 緝は、それを目を細めて微笑んだ顔で一瞥してから、すっといつもの表情に戻って閑散としている店内を見渡す。

「……森庵さんて、そういう顔もするんですね……」

 ふと、いつからいたのか、後方から夏海が声をかけてきて、緝は驚いて身を震わせてから振り向く。

「そういう顔ってなんだよ……」

 自分がどんな顔をしていたか自覚がなかった緝は、顎の辺りを撫でながら呟いた。

「いや、子を見守る親みたいな?わかんないですけど」

 緝は言われて動きを止めた。夏海は何も知らないのに、時々、鋭い勘を働かせて的を射たことを言ってくる。

 緝が黙っていると、

「あれ、冴島さんの彼氏ですか?」

 と聞いてきたので「違うだろ」と緝が答える。紫露のことをあれ呼ばわりするあたりに、夏海の性格の雑さが表れているが、もう注意する気も起きなくて、聞かなかったことにした。

「……まぁ、彼氏が先輩呼びなわけないか」

 と呟いた夏海の声を一度聞き流したが、少し間を置いて、

「……冴島、彼氏いるって言ってたのか?」

 と、真面目な顔で夏海に聞いた。

 夏海は一瞬目を丸くしたが、首を横に降った。

「……言ってません。だけど冴島さん可愛いし、いるかなって。あ、森庵さんはないって言ってましたよ」

「……それは俺もありえないからいちいち報告しなくて良い」

「ほーん?」

 どこかほっとしたように息を吐いて緝が言うと、どういう意味かわからない返事が返ってきた。

 別にたまきに彼氏がいようが、それが誰であろうと緝には関係ないのだが、前世の感覚が時折呼び起こされて、無意識に心配してしまう自分にため息をついた。

 

 紫露はテイクアウトの商品を受け取ると、緝にも一礼して出口の方へ歩いていく。

 たまきが見送りたそうな表情をして一応緝の表情を窺ったので、頷いて「いいよ」と答えると、たまきは紫露の後を追った。

「じゃあ、また来ますね」

 カフェの外に出ると、少し歩いた先で紫露はテイクアウトの袋を持ち上げて挨拶した。

「うん。……気を付けて行くんだよ」

 たまきが名残惜しそうに言う。

「……オカンじゃん」

 紫露が僅かな間を置いてからそう言ってふっと笑うと、たまきはニヤッと笑って、

「ママじゃなくてごめんね?」

 と、わざとからかうように言った。

 てっきり、もー、やめてよ!と返されるかと思っていたら、紫露は眉尻を下げて少し悲し気に微笑んだ。

 「……ママじゃなくていいよ」

 真剣な声で言った後、紫露はたまきに歩み寄ってぎゅっと抱き寄せた。

 たまきが紫露の表情や急に抱き寄せられたことにびっくりして固まっていると、

「お願いだから、元気で長生きしてね」

 と、紫露が耳元でささやいた。

 お見舞いに来るときも、今も、たまきと会うときには笑って、時にふざけて明るく会話をしてくれていたけど、思うよりも紫露は心配していたのだと知って、たまきはハッとした。

 目の奥がじんとして、たまきは泣きそうになった。でも、ここで泣いちゃいけない気がしてこらえ、

「……それ、おばあちゃんとかに言うやつ」

 と、声を沈ませないように意識しながら答えた。

 それを聞いて、さすがに紫露もふっと笑いを漏らすと、たまきからゆっくり体を離して、「確かに」と呟く。

 はぁあ、とため息のように息を吐くと、紫露はいつものような笑顔になった後、

「……まぁ、一緒に歳取っていこうよ」

 と、少し照れた表情で言った。

 たまきは一瞬目を丸くした後、「それ、プロポーズだよ」と言いながら、ふはっと笑った。

 紫露は「えっ?違うから!みんなだよ。みんなでさ、元気に長生きして、共に幸せに暮らしましょうってことだから」と慌てて言うと、「なにその言い方?」と、たまきはさらに笑った。

 紫露は顔を赤くして、バツが悪そうに襟足のあたりを撫でる。

 たまきもはぁ、と息を吐いてから、

「……ありがとう、紫露。……長生きしようね」

 と、微笑んだ。

 紫露は頷いてそれに微笑み返した後、「じゃ、行ってきます」と、今度は紫露の方が少し名残惜しそうに言う。

「行ってらっしゃい」

 と、たまきは笑顔で手を振って、その紫露を見送った。

 

 紫露の後ろ姿が遠くなるまで見送って、カフェに戻ろうと踵を返そうとしたとき、ふと、街灯の柱に視線が行った。

 そこには、前に見かけた不審者—————もとい、ひょろっと細身で、目もとのクマのせいでアライグマに似た男性が、カフェの中を窺っている。

 たまきには目もくれていなかったが、視線を感じたのか、彼がたまきの方を見て驚いたような顔をした後、さっとフードをかぶって早足で立ち去ろうとした。

「あ、待ってください!」

 たまきが慌てて声をかけると、その人は驚いて、早足から駆け足になった。

 たまきは思わず、その後を追う。

 —————変な人について行くなよ。

 緝に言われたことが頭をかすめた。行動からすれば、彼は”変な人”なのだが、そうは思えなかった。

 なぜだろう。

 その答えが知りたくて、たまきは彼の後を追ったのだった。

 


「あれぇ?冴島さんどこまで行ったんですかねぇ?」

 夏海がカフェの窓から外を眺めて、たまきの姿がないことに気づいて声を上げた。

 緝がそれを聞いて窓辺にやってくると、緝が見ても、あたりにたまきと紫露の姿はない。

 首をかしげて、カフェの出入り口に向かうと、緝は外に出てあたりを見渡した。

 やはり、たまきの姿はどこにもない。

「……居ませんねぇ。冴島さんがまさか、後輩とサボるはずないだろうし……。どこ行ったんだろ?」

 そう言った夏海の言葉を聞きながら、たまきが見かけた不審者のことが頭をよぎって、緝は背筋が冷たくなるのを感じた。

「……店長に言っといてくれ、俺は辺りを探してくる」

「え?どういう…………。まさか、不審者!?」

「わからない。でも一応、店長に報告だけしておいてくれ」

 緝は言うなり走って探しに出た。



「すみません、私が追いかけたばっかりに……」

 たまきはそう言いながら、その場にへたり込んだ男性の顔を覗き込んだ。

 上がった息で、

「いや……、俺の体力が……、なさすぎるせい……」

 と、消え入りそうな小声で呟いている。

 たまきに追いかけられて、駆け足で逃げようとした男性だったが、早足のたまきの視界から消えることもなく、少し行ったところで些細な段差につまづいて転んでしまった。

 たまきは辺りを見渡して、公園を見つけ、「あの公園まで、歩けますか?」と声をかけると、しょんぼりした顔で「はい……」と返事をして、のっそりと立ち上がった。


 たまきに背中を支えられながら、公園のベンチに座ると、男性は項垂れてため息をついた。

「大丈夫ですか?痛いところとか、ないです?」

 たまきの心配そうな声に、男性はハッとして、少し引き攣った顔で笑顔を作ると、

「大丈夫だよ。……悪いねぇ、お嬢さんに迷惑かけちゃって」

 と、言いながら、しおしおと体を縮めて申し訳なさそうな顔をした。

「いいえ、迷惑なんて。……カフェにいらしたんですよね?」

 たまきが聞くと、男性はバツの悪そうな顔をした。

「……そう……なんだけどね」

 そう言った後、困ったような顔で黙る男性の隣に、たまきは静かに座る。

 男性はまた作ったような笑顔になると、

「こんなオジサンが入れないようなおしゃれなところだから……、気後れしちゃってね。……不審者だよねぇ、これじゃあ」

 と、あははと笑い声をあげるが、たまきが相変わらず心配そうな顔で首を横に振るのを見て、ため息をついて俯いた。

「いろんな方がいらっしゃいますし、お客様は問題ないですよ。気にせず入ってください。テイクアウトもありますし」

 たまきの言葉に、はははと乾いた声で笑って、「ありがとねぇ」と言って、また俯くと黙った。

「……どうして、あのカフェに?」

 しばらく落ちた沈黙の後に、たまきが口を開くと、彼はゆっくりと顔を上げて、気まずそうな顔で微笑んだ。

「……前に、あのカフェの店員さんに助けてもらったんだよ。引きこもって食事をおろそかにしてたら、栄養失調で倒れちゃってさ」

 男性—————翠はたまきに笑顔を向けながら「情けないオジサンだろう?」と自虐を言ってから、たまきが真面目な顔で話を聞いてくれるので、居た堪れずにため息をついた。

「その店員さんがさ、また来てくれって……。待ってるからって言ってくれてさ。いや、わかってるんだよ。社交辞令なんだって。でも……柄にもなく、気になっちゃって……でも色々考えちゃって。……言われてから2年も経っちゃったんだけど」

「え?2年ですか?」

 たまきが驚いた声を上げると、翠は身を縮めて悲壮な表情になった。

「やっぱ、引くよね……」

「あ、いえ、そう言うわけじゃ……」

 思わず声をあげてしまったことに慌てて、たまきは取り繕おうとしたが、翠は首を横に降って、「いやいや、当然だよ、キモいよ。不審者だよ。変質者だよ」と自虐しながらしぼむように体を縮めていった。

「どれも思ってないですよ、大丈夫です。今から一緒にいきましょうか?みんな良い人ですから、きたよって言えば歓迎してくれますよ」

 たまきは翠の背中に触れて、宥めるようにゆっくりと背中を撫でる。

「そうかなぁ……」

「そうですよ!」

 たまきはなんとか励まそうと元気よく答えたが、「でもなぁ……」と言いながら、またしぼみそうになる。

「……助けてくれた店員さんって、どなたなんでしょう?森庵さんかな」

 たまきが呟くと、翠が動きを止めた。

「……森庵さんなんですね」

 たまきはそれに気づいて、そう聞くと、翠は視線を逸らした。たまきの中でなにか、ふと、ピンとくるものがあった。

「……スイ……さん?」

 その名前を呟くと、翠は顔を上げ、驚いた顔をした。

「なんで……?」

 と呟くので、たまきも驚く。

 もしかして、この人も前世の記憶があるのではと思ったけれど、たまきを見ても何も言ってこなかったことを疑問に思った。

 たまきのことだけ覚えていないのだろうか。

 ふと、たまきの胸に寂しさがよぎった。

「……店員さんもだけど、お嬢さんもどうして俺のあだ名を知ってるんだい?」

「あだ名?」

 思ってもいなかった答えが返ってきて、たまきは首を傾げた。

「翡翠の(すい)って書くんだ、俺の名前。あきらって読むんだけど。昔はスイってあだ名で……」

 おそらく偶然にも、彼はスイというあだ名だったのだと気づいて、たまきは自分のことを忘れられていなかったことにほっとしたような、でも自分も覚えていないし、なんだか複雑な気持ちになった。

 たまきには、彼がスイだという確証はないのだけど、以前に緝が彼をスイと呼んだなら、その可能性は高いと思った。

「冴島ー!」

 そこに、たまきを呼ぶ緝の声が聞こえて、たまきは声のした方を振り返った。

「あ、いけない。言わないで出てきちゃった」

 と独り言を呟いた後、たまきが「森庵さん!」と答えるのと同時に、翠はベンチから立ち上がって、そのまま慌てて一瞬その場で右往左往した後、急に走り出して行ってしまった。

「翠さん!?」

 引き留めようとしたものの、

「冴島!何してるんだ!?」

 声に気づいた緝が珍しく大きな声を出して、たまきを見つけて駆け寄ってきた。

「あ、えっと……ごめんなさい」

 緝の方を振り向いて頭を下げた後、翠の走り去った先を見る。さっきはすぐ追いつけるスピードだったのに、今はもう姿が見えない。

「どうしてこんなところに?紫露といたのか?」

「……紫露じゃなくて、お客さんで……」

「お客?まさかとは思うが、お前が不審者って言ってたやつじゃないだろうな?」

 緝は完全に怒った表情でたまきに詰め寄る。

 その勢いに、たまきは身を縮めた。怖いけれど、どこか懐かしさも感じて、これがゼンの雰囲気だったのかもしれないと思った。

「不審者じゃなかったんです!お店に来ようと思ってたらしくて、あの、森庵さんが助けたって……、翠さんっていう……」

 たまきが慌てて反論したその言葉を聞いて、緝の動きが止まった。

「……あきら……?……孤崎……翠……か?」

 そう呟いた緝の、切なさを含んだ戸惑いの表情を見て、たまきは彼がスイなんだと確信したのだった。


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