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「たまきが言ってたカフェって、ここ?」

「うん」

「へぇ、おしゃれなとこじゃん」

 登校を再開して数週間後、休日で部活のない空いた日に心悠とたまきは緝がバイトをしているカフェにやってきた。

 入院のお見舞いで割引券をもらっていたので来たいとは思っていたのだが、まだ電車移動や人混みが不安だったので、心悠についてきてもらったのだった。

「今日はおごるからね」

 たまきが言うと「そ?じゃあいっぱい食べちゃおっかな?」と心悠がいたずらっぽく言った。

 「お手柔らかに」とたまきは笑う。

 緝のシフトは確認していなかったが、カフェに入る前に入り口前を掃除している緝の姿があって、たまきは「森庵……さん?」と声をかけた。

 掃き掃除で俯いていた緝が顔を上げ、杖をついているたまきの姿を見て、驚いた表情になった。

「……子リス」

 小声でふと呟いた言葉は、たまきはよく聞き取れなかったようだが、なぜかたまきより離れている心悠が「……子リスって言った?」と小さな声で聞き返す。

 緝はちらっと心悠の方に視線を投げてから、ごまかすように喉を鳴らした。

 訝しげな顔の心悠は無視して、

「もう、体調はいいのか?」

 と、緝は心配そうに眉尻を下げ、たまきの様子を見つめながら聞いた。

 そう言えばたまきとは一度しか会ったことがなかったのに、馴れ馴れしい言い方だったかなと緝は一瞬気にしたが、

「はい。だいぶ良くなりました。お見舞い、ありがとうございました」

 たまきはさして気にした様子もなく、そう言って頭を下げた。

「……あぁ、いや……。紫露が来て、何かありませんかって言うから。カフェにあったやつで、大したもんじゃなくて悪かったけど」

「いいえ。今日はそれで食べに来たんですけど」

 カバンからもらったままのシンプルな封筒を取り出し、中身を見せると「どうぞ」と緝はカフェの方へ二人を促す。

 緝はたまきの脚の様子を確認しながら、ゆっくり歩き、ドアを開けて待ってくれた。

「……紫露とも知り合いなの?」

 心悠がたまきに近づいて小声で聞く。

「最初に来た時、紫露と来たから」

 たまきが説明すると、心悠が首をかしげる。

「紫露と?二人で?」

「あ~……うん」

 そう言えば、ここに来たのは、紫露に中三の文化祭で出会った梧のことを聞きに来た時だった。ここで、梧たちと前世で知り合いだったことを知ったのを思い出したが、そのことを心悠にどう説明していいかがわからない。

「お好きな席にどうぞ」

 営業用に切り替わった緝がホールを指し示して、二人は窓辺の席に腰かけた。

 座った後に、心悠は緝をちらっと見てから「……どーゆー知り合い?」と訊いてくる。

「……えーっと……梧さんたちの……知り合い?」

 たまきは答えに詰まって、疑問形になると、心悠の眉間に深くしわが寄った。

「……そもそも、梧さんとたまきってどうやって知り合ったんだっけ?」

「中三の時の文化祭に、紫露のお父さんと一緒に梧さんがきてて、その時……かな?」

 心悠は顎に手を当て、考え込むような表情をした後、何か言おうと口を開いたものの、

「ご注文はお決まりですか?」

 と、やってきた緝がそれを遮る。

 たまきは慌ててメニューを開いたが、心悠は緝が意図的に遮ったと邪推して彼を睨みつけた。

 緝は片眉を上げただけで、メニューに視線を落とすと、

「おすすめは本日のプレートです。高タンパク低カロリーならこちらのページを見ていただければ」

「あ、じゃあ私は五穀米と豆腐ハンバーグのプレートにします。心悠はどうする?」

 言われて心悠は緝を気にしつつも、メニューに目を通し、「鶏胸肉のレモンパスタセットにします」と言った。

「お飲み物は?」

「ジンジャエール」

「私はルイボスティーで」

「かしこまりました」

 注文を終えると、緝は何も気にした様子もなく、そのまま去っていった。

 心悠は少し身を乗り出し、たまきに顔を近づけると

「それで?文化祭で知り合って、すぐ仲良くなったってこと?」

 と、話を戻した。

 たまきは困ったなぁと思いながら、視線を逸らす。

 心悠はその視線の先に顔を持って行ってたまきの顔を覗き込み「たまきぃ?」と詰め寄った。

 あの時、紫露が“怒らないでくださいね”と言った気持ちが少しわかった気がした。

 でも、心悠を誤魔化すのは至難の業だし、嘘もつきたくない。でも、ふざけていると怒られそうでもある。

「……聞いても、怒らないでね」

 たまきは紫露と同じようにそう前置きして、梧や時雨、それにカフェの店員である緝には前世の記憶があって、たまきと前世で関わりがあったらしい、と話した。

 心悠は途端に目を丸くして固まる。

「…………はっ?」

 話を聞いてからだいぶ間をおいてから心悠は声を上げた。

「……待って、待って。意味わかんないんだけど……」

 心悠は混乱した様子で俯き、頭を抱えて、呟く。

 たまきもその気持ちはわかる。今でも、梧がかつて語っていた前世のハルが、自分だという実感はあまりなかった。

「……たまきは信じたの?」

 心悠が顔を上げて聞いた。

「信じたっていうか……、実感は全然ないよ。私には記憶もないし。でも……」

「でも?」

「梧さんも、時雨さんも、嘘をつくような人には思えないんだ。……紫露も」

 それを聞いて、心悠は再び固まった。心悠も頭の中に三人の顔を思い浮かべつつ、ため息をついた。

「そりゃ……そう……見えるけど……」

 心悠も彼らが嘘をついているとは思えない。だからこそ、頭の中はより混乱して心悠は、複雑な表情で呟いた。

「お待たせしました。レモンパスタセットと豆腐ハンバーグプレートです」

 そこへ、間がいいのか悪いのか、緝が注文の品と飲み物を持ってきてそれぞれの前に置く。

 心悠は緝をじっと見つめて、その顔を観察した。

 彼だって嘘をつくような顔はしていない。

 入口で会った時、たまきを子リスと呼んだような気もしないでもないが、それ以外ではたまきを本当に心配しているように見えた。

「……何か、私の顔についていますか?」

 心悠があまりにもじっと見つめて来るので、わざと丁寧な口調で緝が言った。

「あ、いえ」

 我に返った心悠が、バツが悪そうに視線を逸らす。

 緝は軽く息を吐いて、たまきの方を見た。

 たまきも気まずそうに緝を見上げてきたので「……前世の話?」と、ため息交じりに言った。

 たまきは一瞬ぎょっとした顔をしたが、頷いた。

「……信じられないなら、信じなくていいよ。……ただの、出会いのきっかけだとでも思って、今の、相手が信用できると思えば関わっていけばいい。前世なんて、覚えている方が少ないんだから」

 緝が言うと、心悠とたまきは驚いた顔をした。

 緝はその二人に見つめられてちょっと困ったように眉を下げ、

「時雨さんとこみたいに、奥さんが覚えてなくても結婚する場合もあるし、……再会したって、その後まったく関われない場合もあるから」

 と、言った。

 たまきには、まったく関われないと言った時の緝が、一瞬悲しそうな顔をしたように見えた。

「え?紫露んちってそうなの?」

 心悠がたまきの顔を見て言う。

 たまきは遠慮がちに頷いて、心悠はまた緝を見上げた。

 緝は喋りすぎたかなと反省して、またごまかすように喉を鳴らした後、

「……冷める前にどうぞ。ゆっくりお過ごしください」

 と、仕事モードに切り替えて、二人の料理を手のひらで指し示した後、その場を去っていった。

「え?杠葉さん、マジで姫とか?」

 緝が去った後で、心悠はたまきに顔を寄せ、興味津々な顔で訊いてきた。

「……杠葉さんはどんな人だったか知らないけど、時雨さんは騎士だったみたい」

 そう答えると、心悠は「マジで騎士なんだ……」と呟いてから、思い出したように「あ、食べようか」とカトラリーを手に取った。


「……んじゃあさぁ、前世のたまきと、前世の梧さんってどういう関係だったわけ?」

 パスタを食べつつ、心悠が聞くと、一瞬たまきは動きを止めたが、微苦笑を浮かべた。

「…………好きな人、だったのかなぁ」

 そう呟くと、心悠は首を傾げる。

「……片思い?」

「うーん……、両思いだったんじゃないかな?……妊娠してたって言ってたから」

 たまきが言った瞬間、ちょうど飲み物を飲もうとしていた心悠は危うく噴き出しそうになる。

 目を真ん丸くしてたまきを見つめ、「……ふ、夫婦だったの?」と訊くと、今度はたまきが首を傾げた。

 心悠は一瞬、亡くした妻を探す梧の姿を妄想したが、

「ううん。梧さんの前世は王子様で私の前世は旅人だったらしくて、身分が違い過ぎて結婚はできなかったみたいだけど」

 というたまきの言葉で、脳内に別のファンタジーの世界が広がっていく。異世界ものか?と胸中でツッコむ。

「じゃあ、たまきの前世の人が一人で産んで育てたってこと?」

「……産む前に、前世の私も前世の梧さんも、会っていたことがバレて殺されちゃったんだって」

「……話がヘビー過ぎるだろ……」

 たまきが食事を進めながら言ったのを聞いて、心悠は食事の手を止め、今度は口に出してツッコんだ。

 たまきは「だよね……」と苦笑いしたあと、たまきはため息をつく。

 ふと、その時、ハルさんはどんな思いだったんだろうと想像する。

 梧は自分のせいでハルやその子供が死んだんだと言ったけれど、ハルだって、カザネが死ぬことを望んでいたわけじゃなかったと思う。カザネが家族と戦わざるを得なくなったことも、死んだと知っても、ハルも自分のせいだと思うんじゃないだろうか。

「……たまき?」

 沈んだ顔をしたたまきを心配して、心悠が顔を覗き込んできた。

 たまきは心悠と目が合って、ふと微笑んで首を横に振った。

「なんでもない」

 考えたって仕方がない。どれだけ考えても、ハルの気持ちとたまきの考えが同じだとは証明できないのだから。

 ……梧さんは今でも、ハルさんを好きなんだろうか。

 それはわからないけれど、申し訳ないと思っているのは確かだろうと思う。

 そうじゃなかったら、たまきに対して、あんなにしてくれないはずだ。

 病院にいる間、梧は何回も通ってくれた。勉強も教えてくれたし、励ましてもくれた。

 さすがにもうリスの声はしてくれなかったけど、その話をたまきが蒸し返すたびに、耳まで顔を真っ赤にして、視線を逸らして「早く忘れろ」と言って照れた。

 梧は大人の男性なのに、それが可愛らしく感じて、……愛おしく感じた。

 

 ……梧の癖なのか、励ます時に、何度も梧に頬を触れられたことを思い出して、たまきは自分の頬に触れた。

 触れながらたまきの顔をまっすぐに見つめてくる梧の顔も、その瞳も、思い出すと胸の奥が熱くなる。


 ……ハルさんにはどんな風に触れたのかな。

 

 そう思ったら、たまきの胸がチクリと痛んだ。

 ハルに触れたのは梧じゃなくてカザネだけど、梧はそのことを覚えているだろう。

 それだけじゃない、たくさんの思い出も、きっと。

 

 —————前世の私とはいえ、私が覚えてない、知らない女性よ?その人との思い出が、時雨さんの中にはあるの。……世界を超えても再会したかったくらい、素敵なね—————


 杠葉の言葉が、痛いほど、今のたまきには刺さった。

「……たまきはさ、」

 ゆっくりとお皿の上のパスタを巻きながら、心悠は口を開いた。

「……好きなんだね、梧さんのこと」

 心悠の核心をついた質問に、たまきは一度動きを止めた。

 たまきの表情と仕草で、何を考えているかわかってしまったんだろう。

 心悠にわかるほど、胸の中の想いが、たまきの中で芽吹き始めている。ううん。たぶん、根付き始めているんだ。

 自分じゃどうしようもなかった。

 たまきは、少し悲しそうに微笑んで「……うん」と頷いた。

「…………なんで、そんな顔してんの」

 心悠が、心配そうな顔でたまきの顔を見つめた。

 人を好きになるということが心悠にはまだよくわからないけど、たまきの顔はまるで、叶わない恋をしているようだと思った。心悠から見て、梧はたまきのことを大切にしているように見えるのに。

「だって、私は”ハルさん”じゃないから。……梧さんが好きなのは、きっと、”ハルさん”なんだよ」

 心悠は、ハルという名前が誰なのかはわからなかったけれど、おそらくたまきの前世なんだろうと思った。

 梧が、前世のたまきのことをまだ想っていて、今のたまきのことはその延長線上で大事に思っているだけ。ということだろうか。

 それって、たまきを好きということとは違うんだろうか?心悠にはその違いに大差があるとは思えなかったが、それを口にするのは憚られた。

 梧を想って、思い悩むたまきの顔が、急に、大人びて見えた。

 心悠には、まだ縁のない話だ。

「……食べよ」

 寂しそうに微笑んだたまきがそう言って、心悠は静かに頷く。

 黙々と食べ進めた二人が食事を終え、飲み物を飲んでいると、そこへ緝がやってきた。

 空いた食器を下げると、緝がまた戻ってきて、

「デザートはいかがですか?」

 そう言ってデザート用のメニューを二人に差し出す。

 二人はきょとんとした後、たまきは視線を宙に迷わせて、財布の中身にいくらあったかを思い出そうとした。

「デザートぐらい払うよ?」

「えっ、悪いよ……」

 その様子を察して心悠が言うと、たまきは声を上げた後、悩むようなしぐさをした。

「……サービスです。一品ずつですけど」

 その二人の様子を見ていた緝が小声でそう言うと、二人はパッと緝の顔を見つめて「いいんですか?」と声をそろえた。

 実のところ、店側のサービスではなく、緝が自分で払おうと思っていたのだが、それは言わなかった。

 一瞬面食らった後、緝は珍しくふっと笑顔をこぼすと、「飲み物ももう一つずつ選んでいいですよ」と付け加える。

 二人は顔を見合わせると、「ほんとにいいんですね?」と心悠が念を押し、緝が頷くと、二人は嬉しそうにまた顔を見合わせ、メニューを開いた。

 年相応にはしゃぐたまきを見つめて緝は微笑み、彼女たちがメニューに迷うのを見守る。

 心悠はチーズケーキとカフェオレ、たまきがアップルパイと紅茶を頼み、緝は「かしこまりました」と言って戻っていく。

 その後ろ姿を見ながら、心悠が、

「いい人だね。あの人は前世で誰だったの?」

 と、前世の話を怪しんでいたことも忘れて訊いてきた。

 たまきもそうだが、前世はどこか架空の話のようで、その物語の登場人物のことを聞いているような感覚に近い。

「私の前世は孤児だったらしくて、その親代わりだったみたい」

「へぇ……」

 心悠は少しだけ、腑に落ちた。たまきを見る緝の目が、どこか温かく感じたのは、親みたいな、家族のような感覚に確かに似ている気がした。

「……そう言えば、たまき、部活どうするの?別の部に入る?」

「……う~ん。今のところ考えてない……。文化部ってあんまりなじみがなくて」

 残った飲み物を飲み干しつつ、心悠が聞くと、たまきはため息をついて答えた。

 今まで体を動かすことが好きで、運動部しか考えてこなかった。文化部で考えるにしても、どれも決め手に欠けるのだ。

「……うちの学校、部活が強制じゃないから、今のところは帰宅部かな」

「そっか」

「……なんか、バイトでも探そうかなぁ」

 たまきも残っていたルイボスティを飲み切る。

「バイト?うちの高校オッケーだっけ?」

「同じクラスでもバイトしてる子がいて、その子に聞いたら届け出さえすれば大丈夫だって」

「そうなんだ。バイトって何かやりたいことあるの?」

「……ないんだけどさ……」

 と、たまきは自分から陸上を取ったら何もないことにひどく落胆して、ため息をついた。

 そこへちょうど緝がケーキと新しく飲み物を持ってきて、それぞれを二人の前に置き、飲み終えたコップを回収する。

「ありがとうございます」

 と、二人はデザートを受け取って、ふと、たまきは緝の顔を見上げた。

 緝は突然視線を向けられて、眉を上げて見つめ返す。

「……なに?」

「あ……えと、森庵さんに聞くのも、おかしいかもしれないんですけど……」

 緝の顔が訝し気に変わったが、たまきの方へ体を向けて、聞く体制をとった。

 たまきは上目遣いで緝を見上げながら、

「……私にできるバイトって、どんなのだと思います?」

 と、訊いた。

 緝は驚いた顔をした後、呆れられるかもと少し緊張したたまきをよそに、視線を逸らして顎に手を当て、真剣に考える仕草をした。

 心悠もやっぱり優しい人なんだな、と見上げていると「ちょっと待って」そう言って緝はカフェのバックヤードに入っていってしまった。

 取り残されたようなたまきと心悠は、顔を見合わせる。

「……食べようか」

 心悠が言って、たまきは苦笑いで頷いた。

 緝はそのまましばらく戻らず、たまきと心悠がケーキをほぼ食べ終わった頃にようやく戻ってきた。

「……ホールを動き回るのはまだ負担が大きいかもしれないから、レジから始めるのはどうだ?お客が来ていないときは椅子に座っていれば立ってる時間を短縮できるし、休憩を適度に挟んで……まあ、最初は2時間から3時間くらいのシフトから始めたら?慣れてきたら、デザートくらいならサーブできるようになると思う」

「……え?」

 戻ってくるなり、緝は具体的なバイトの仕事の内容を説明し始めて、たまきは驚いて声を上げた。

 緝は膝をついて、たまきに視線を合わせると、

「冴島が他の仕事に興味があるなら、そっちで相談してみればいいけど、一つの案として、な」

 と、言った。

 言われてたまきは目を丸くする。驚いて心悠に視線を投げると、心悠は微笑んでいてたまきと目が合うと頷いた。

 緝に視線を戻すと、その二人の視線のやり取りを見たうえで、

「本気でバイトしたいなら、ご家族に相談して許可をもらってきて。最初は土日のどちらかで週一回、短い時間で。同じ日に俺もシフトに入れてもらうように話はつけといたから」

 そう言って、緝は立ち上がった。

「……ありがとう、ございます」

 たまきがお礼を言うと「いいや」と言って、緝はたまきの頭を優しくぽんぽんと撫でた。

 その手の温かさが、ふと、懐かしいとたまきは感じた。そんなはずはないのに、少し口角を上げて微笑む緝の顔を見上げながら、一瞬その姿が、頭がぼさぼさで無精髭姿の男性と重なった気がした。瞬きを数回すると、それは消えてしまったが、それがゼンだったのかもしれないと、たまきは思った。

 「よかったね」

 心悠がそう言って微笑むと、たまきは頷いたのだった。

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