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車上怪盗~生きていたいと思えないような一日~

作者: ごみにーと

 昼間でさえ人通りの少ないこの町は、深夜にもなれば人ひとり見つからない。黒いフード付きパーカーに、黒いズボン、黒スニーカーと白マスクを身に着けた、いかにも今から犯罪しますと言いたげな雰囲気の男は、商店街の駐車場に止まっている車ににらみを利かせていた。だが、男はただの車上荒らしではない、大胆な犯行手口にも関わらず、逮捕はおろか、警察に一度も通報されたことのない、車上怪盗なのだ。……自称だが。

 今日のターゲットは白のプリウス。男がこの車に目を付けたのには理由がある。サイドミラーが開いているのだ。鍵をかけ忘れたに違いない。いつから止まっているかは知らないが、ここ数時間、持ち主らしき人は帰ってこない。暗くて車内の様子は分からないが、人の気配はしない。ただ、マフラー辺りに何か張り付いているのは気になるが。

 とにかく、こうなったら善は急げだ。男は物陰から飛び出し、一応足音を立てず近づく。左後方の窓から、後部座席にバックがあることを確任し、ドアを開けようとした。しかし、ドアは開かなかった。男の算段とは異なり、内側から鍵がかかっていた。

 男は少し焦りながらも、ポケットから緊急脱出用の窓を壊す小型ハンマーを取り出した。そして、窓を勢いよく叩き割り、体を突っ込み、バックを手にした。だがその瞬間、運転席のリクライニングが倒れこんでいることに気づく。しかも、スーツを着た女性がこちらを向いて倒れていた!

 うわあああっ!っと言うと同時に、驚いた男はバックを持って急いで逃げ出していた…。


 ……と、ここまでが今起きた話。私は車上荒らしにあった。しかも、練炭自殺中に。

 無気力無関心の私は、壊された窓をみると、ちょうど朝日が顔を出していた。

 風を感じるには良い日だと思った。

 

 

 

 

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