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ジャンケンに負けるたび、後輩からザコ扱いされてます。

作者: 藤ゆき 

「先輩。ざーこ」


 耳元で後輩が囁く。


「クソがぁ!」


 これでじゃんけん勝負、百連敗達成された。


「先輩。弱すぎます。これでは廃部確定です」


 キリッとした瞳。長い髪を風になびかせ、冷たい言葉を投げつける。


「はぁ、はぁ。俺だって負けたくない」


 くそっ。と床に拳を叩きつける。

 何度も叩きつける。……痛い。めっちゃ痛い。

 放課後の空き教室。俺は、後輩の桃花(ももか)に付き合ってもらいジャンケンをしていた。


「私に負ける程度では、生徒会長には勝てません」


 そう。

 俺が後輩にジャンケンの相手をしてもらっている理由は生徒会長に廃部にすると言われてしまったから。


「ジャンケン部?何だそれ。必要ないだろ」

 とキッパリ言われた。

 あの男には、この青春がわからないらしい。相手が何を出すか構えている間のドキドキ感。汗を流し、あいこが何度も連続した時の「あれ?俺、こいつとめっっちゃ仲良くなれそう」という友達探し。歳なんて関係ない。誰でも少年、少女のようにはしゃげる手軽な遊びに、あの男は必要ないと言い張った。


「廃部にはしたくない。後輩もそう思うだろ?」


「部員は我々二人だけです。部の存続には三人必要です。生徒会長に勝っても負けても廃部します」


「そんなこと言わないでくれ。このジャンケン部が最後の砦。皆のためにも負けるわけには行かない!」


 今まで、部の存続をかけて生徒会長と勝負し、散っていった部活動は数知れず。


「負けた部。……何部でしたっけ?」


「カレンダーめくり部。付箋剥がし部。散歩か寝る部。何もしない部。ブンブン部。廃部。だ」


「よく覚えていますね。……全てたいしたことない部活動っぽいですけど」


「いや、みんな良い人たちだった。互いに勧誘し合い部の存続について一生懸命語っていた」


「それ、人数足りないから引き抜きしたいだけでは……」


 いや。そんなことはない。とこれ以上何も言わせない。

 窓から、運動部の掛け声が風に乗って聞こえてくる。

 生徒会長から許しを得ている部活動ども。今に見ていろ。ジャンケン部もすぐにそちらに向かう。

 必要ないと高圧的に言う魔王のような生徒会長。

 ジャンケンに勝てば存続を許してくれるそうだが、俺はジャンケンが……弱い。負けた回数の方が多い。

 普通に勝負を仕掛けては負ける。

 そこで、俺はジャンケンをしているうちにある法則を見つけた。

 それは……後輩にざーこ。と罵られること。

 罵られた後だと勝率はなんと九十パーセント。

 つまり、後輩からザコ扱いされればされるほど強くなる。


「さぁ。次の勝負だ。思う存分俺を貶せ。罵ってくれ」


 はぁ。とため息をつく後輩。


「クソザコ先輩のせいで部がなくなります。どーするんですか?部活なくなれば先輩は用済み。路頭に迷ってしまいますね」


「もっとだ!」


「他の廃部の方々と仲良く指をくわえて活動中の部活を眺めてはいかがですか?」


「ウオォぉぉぉ」


 後輩の言葉は偉大だ。俺を限界まで強くしてくれる。


「いきます。ザコ先輩、覚悟してください」


「おう!いくぞ!最初はグー!」


 強く握った拳は赤色を帯びる。

 グッと握った拳に意識を集中させ、後輩からもらった溢れそうなパワーを抑える。


「じゃんけん」


 ──ぽんっ。

 押さえ込んでいたパワーを一気に放出させる。

 体感では、拳を開いた圧でこの学校は軽く吹き飛んでいるだろう。


「せ、先輩」


 俺は、パー。

 後輩は、グー。


「よ、よっしゃあぁぁぁっ」


 運動部に負けないくらいの声量で叫ぶ。

 中庭の木で羽を休めていた鳥たちが驚いて逃げていく。

 やっぱり。後輩の罵りしか勝たんな。と鼻をすする。


「先輩、うるさいです」


「あ、あぁすまん」


「いいですよ。あのお方が来てくれますし」


 あっ……。

 後輩が恋する乙女のようにうっとりとした顔になる。

 タン、タンッと上履きが廊下を弾く音が近づいてくる。

 足音は俺らのいる空き教室の前で止まる。

 ガラッ。と勢いよく扉を開け、高校生にしては整いすぎている顔をした生徒会長が現れる。

 ハーフなのか、綺麗な金髪。規則正しく整えられた髪はサラサラストレート。俺の癖毛がみずぼらしく見えるほど見た目は天と地の差がある。

 おまけに、瞳は碧眼。どこのおとぎ話出身ですか。とからかいたくなる。


「うるさい。今すぐにでも廃部にしてやってもいいぞ。早く、この書類に名前を書け」


「うるさいのはそっちだ。この暴君!廃部にしないって言ってるだろ」


「じゃあ、さっさと活動報告をまとめろ。実績さえあれば認めると何度も言ったはずだが?」


「放課後。ジャンケンしてんだよ」


「それは、普通の遊びと何が違う?」


「魂が違う。俺は本気で楽しんでる。見せてやる。俺とジャンケンしてくれ!」


 隣に立っていた後輩が声を抑えて笑っている。

 俺は、今日まで後輩と二人三脚でやってきたんだ。その成果を見せてやる。


「わかった」


 生徒会長はポキポキと指の骨を鳴らす。

 ちょっとビビったが、鼻を鳴らして威嚇し返す。


「よし。後輩!いつもの頼む!」


 へっ。俺がジャンケンに勝って二度と廃部なんて言わせねぇ。

 右拳に全てをかける。

 思いを溜めてパワーを溜めて。……後輩の言葉を込める。

 後輩の言葉を……。


「こ、後輩?」


 後輩はニヤッと笑って耳元で囁いた。


「……イヤです」


 こ、後輩ぃぃぃぃぃっ!



 この高校では部活は入らなくてもいい。生徒の自由にさせている。

 でも、俺はジャンケン部を作りたい。

 あの日、生徒会長に負けた。

 悔しくて。悔しくて。今は教室の隅で、一人ジャンケンをしている。

 唐突に裏切った後輩は、生徒会長が立ち去った後。


「先輩はザコじゃないと意味がありません」


 とても満足そうに頬を赤らめて呟いた。

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