勝って兜の緒を締められたら苦労しない
それから数日、順調にモンスターを倒していった。
コボルトはすでに無くなって、オークとホブゴブリンの撒き餌でやりくりしている。
あまり量は撒けないので、残った相手に浸けておいた毒ナイフ状態のコボルトナイフを突き刺し数を減らし、残りを棍棒で叩きのめす。
たまたま手に入ったゴブリンより大きめのホブゴブリンの棍棒に、余ったナイフと今まで使ってた棍棒を吸収させて、強化ホブゴブリン棍棒にして装備品もグレードアップしている。
もう、相当な数を相手にしても負ける気はしない。
「おぬしは棍棒が好きよの」
「天賦の才あるからねぇ」
「そろそろ撒き餌が無くなるではないか?」
「どこかに調達しに行って来ようか?」
「アテがあるのか?」
「特にないけど、一回戻ってゴブリンの集落見つけたらなんとかなるかなって」
そんな会話を、目の前のホブゴブリンの集団を全滅させたあと、幾つか落ちているホブゴブリンの耳や指を回収しながら話していた。
ガサガサッ
今まで聞いた事がない程の大きな音が森の奥からしてくる。
魔物は思っている以上に音を立てない。
獣道のようにある程度踏み固められ草や木が少ない所を通るし、獲物を狩るためにも、自身が獲物にならない為にも移動の時の音は小さい。
こんな大きな音をたてるのは、圧倒的強者か、音を隠しきれないほど巨体なのか、もしくはその両方か。
身体中からヤバい汗が吹き出す。
今回のドロップ品を全てその場に置いて極力音を立てずに集落の中に移動しようと試みた。
「爺さん結界とか作れないの?」
本当に囁くような小声で喋りかける。
「無理じゃの、あれは展開するまでにそこそこ時間がかかるからの、今からじゃ間に合わん」
いつのまにか小さくなって肩に乗っていたジジイがそう答える。
「声デカいよ、なんか方法無いの?」
「戦って勝つしか無いの」
「勝てる相手なの?」
どうやら相手の正体を知っているらしいジジイに勝算を聞く。
「正面から正々堂々と戦えばほぼ確実に負けるのぉ」
負けるのぉじゃねぇよ。
マズイ、このジジイすでにこの状況楽しんでる。
「お、現れたぞい」
好奇心というか怖いもの見たさというか、俺は思わず後ろを振り返った。
居たのは鳥頭の緑色のクマだった。
前に聞いていたオウルベア。
しかし、どう見ても聞いてた話とサイズが違う。
オークが一般の大人くらい、身長で言えば160〜180、それより2回りデカいってことはイメージとして相撲取りくらい、180〜200。
そう思っていたのだが、どう見てもそれよりデカい四つん這いだったらサイズ的ほぼ象のサイズ。
それが二足歩行で迫ってくるとか、心が折れるには充分すぎる迫力だった。
だめだ、ゆっくり音を立てずに歩いて逃げるとかもう無理だ。
恐怖にとらわれて大声で叫びながら全力で逃げたい。
俺はかろうじて声を出さないで全力で拠点に向かって走り出した。
幸い魔物の本能には抗えないのか、今はホブゴブリンの欠片を貪ってる。
だがあんな量食べ切るのにそれほど時間はかからないだろう。
勝機があるとすれば、毒池に行くしか無い。
もうどうせ気づかれている。
とにかく遮二無二全速力で池に向かう。
向こうも食べ終わったようでこっちに向かってきた。
なんとなくそうじゃ無いかと思っていたけど、あの化け物メチャクチャ足が速い。
マズイ、追いつかれるのも時間の問題だ、とてもじゃ無いけど池まで辿り着けない。
「おぬしも運がいいのう、あれは特殊個体じゃがまだたいして強くなっておらん、あれならまだ勝てるかもしれんぞ」
呑気に人の肩の上で喋っているジジイ、こいつを投げつけたら少しは時間稼ぎ出来るんじゃなかろうか?
よし、そうしよう。
おもむろにジジイを掴んで後方に放り投げる。
「わ!こら!何するんじゃ!」
そんな声が聞こえたが、どうせこのジジイこんな事くらいじゃ死なないだろうから、遠慮せずに囮になってもらう。
「おぬしはとんでも無い事するのう、こんな事してみて大した時間稼ぎになっておらんぞ」
大したって事は0じゃ無いって事だろ。
躊躇なくもう一度後方に投げつける。
「こら、わしはおぬしに紋章に転移できるからすぐ戻って来れるから意味がないぞ」
そんなジジイの話に今は反応している余裕はない。
全力で集落に飛び込む。
最短距離ならばこのまま真っ直ぐだが、どう考えても先に追いつかれる未来しかない。
直角に曲がってコボルト達が使っていた寝床の方に向かう、コボルトは小柄なので建物の間隔が狭い。
あの巨体の障害物として利用出来るとはずだ。
若干遠回りになるが時間稼ぎとしてはこっちの方が有利と判断した。
「爺さん頼む協力してくれ!」
走りながらジジイに懇願する。
「わしを放り投げたくせによくそんな事が言えるのぉ」
「あれはある意味信頼の証だから!頼むどう考えても俺があれに勝つにはMPが足りない!」
「ほほう、わしがおぬしに魔力を供給すればあれに勝てると、そういうのじゃな?」
「あと、何でも良いから植物の種をくれ!」
「ふむ…まぁ仕方がないか、そのくらいの助力が無ければアレに勝てないだろうし…むしろその程度の助力で勝てるのか興味もあるしのぉ…よかろう、種と魔法供給してやろう」
物凄く楽しそうにニヤァって笑いやがった。
もう絶対何か含んでる顔じゃねぇか、このジジイ…しかし、背に腹はかえられない!今は生き残るのが優先だ!
なんかこのジジイに選択肢の無い状況に追い込まれてる気がしないでも無いが、そんな事よりも生き残る事が優先だ!
俺はジジイから種を受け取ると種に品種改良の魔法を目一杯魔力を使ってかける。
ことわざパロディ




