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第38話 恋愛談義

 皇帝訪問が無事に終わり、廟は安堵の空気に包まれている。

 雨蘭たちの生活も、皇帝訪問前の日常へと戻っていった。


 ただ一つ、明に避けられることを除いては。


(皇帝訪問の日から話す機会どころか、見かけることすらない……)


 今後、夜食は不要であること。灯りは手配するので自室で勉強すること。そして、北の離れには近づかぬよう、皇帝が廟を去ってすぐ、使用人が明の言葉を伝えに来たのだった。


 皇帝との面会で何か粗相をしてしまったとしか考えられないが、脳が限界を迎えてしまったあの日の出来事を、雨蘭は詳しく思い出せないでいる。


 もう少しで候補者たちに与えられた三ヶ月が終わる。


 最終試験を知らせる紙を受け取った雨蘭は、自身の成長を感じると共に、結果を出さなければならないと追い詰められていた。

 

 もっとも、明の機嫌を損ねてしまったのであれば、結果を出したところで使用人として雇ってもらえる可能性は皆無に等しいが。


「はぁ……」


 雨蘭の気持ちを代弁するように、本日の掃除当番の一人である香蓮が大きな溜め息をついた。

 春鈴の方も、覇気のない表情でだらだら同じ場所を乾拭きしている。

 

「春鈴さんと香蓮さん、元気がないですね」


 祭壇の手入れをする梅花に話しかけると、彼女は「ああ」と言ってほくそ笑んだ。


「貴女は知らないでしょうけど、皇帝訪問の際に相応の報いを受けたのよ」

「怒られたのですか?」 

「茶葉を隠した罰として、毒見役をさせられたの」


 梅花の言葉が弾んでいる。彼女はいつになく嬉しそうだ。


 春鈴と香蓮の二人は皇帝の前で、毒味役に命じられた理由まで丁寧に説明されたのだという。


「それは少し気の毒です」

「お陰ですっきりしたわ。こればかりは皇太子に感謝」


 彼女はよほど気分が良いのか、鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気だった。一方、雨蘭の心にはどんより雲がかかっている。


 雨蘭を避けるようになった男のこと。待ち構えている最終試験。そして、未だ曖昧な事件の真相。

 課題は山積みだ。皇帝訪問が終わったからといって、ぼんやりしている暇はない。

 

(約束したからには、せめて事件の真相だけでも解決しないと。梁様に会って、直接話を聞きたい)


「梅花さん、梁様の療養場所を知っていますか?」

「……知っているわ」

「本当ですか!? どうしても梁様に会いたいのですが、教えてくれませんか」


 梅花は鋭い目つきで雨蘭を睨む。半ば冗談だと分かってはいても、蛇に睨まれた蛙の心地になる。


「貴女、皇太子に避けられているからって、梁様にまで手を出す気?」

「違います。明様に頼まれて事件の真相を調べていて、それで……」


 静の言っていたように、真実を暴いたところで良いことはないのかもしれない。

 躊躇う気持ちはある。ただ、このまま見て見ぬふりをするのは違う気がする。


「こそこそ何かしていると思ったら、そんなことをしていたの」

「実は」

「真相については私も納得していない。梁様は気にしなくて良いと言ってくれたけれど、私は浅はかだった自分も、茶葉に毒草を混入した人間のことも本当は許せない」


 梅花は廟に戻る前、梁と会って話をしたのだという。茶を淹れた自分を責める梅花に、彼は優しい言葉をくれたようだ。


 廟に戻ってきた梅花が、意外にも元気だったのはそのためだろう。


(梁様が毒草混入を頼んだ張本人かもしれないとは言えない……)


 もし話をしたら、梁がそのような汚い真似をするはずがないと、彼女は激昂するに違いない。


「勝手に教えるわけにはいかないから、梁様に手紙で承諾を得てからにするわ」

「はい。ありがとうございます」


 想い人に手紙を出す口実ができたからか、梅花は機嫌が良い。そこで、雨蘭は気になっていたことを聞いてみることにした。


「梅花さんは梁様のどこが好きなのですか?」

「存在全てよ」


 梅花は答えてくれるが、雨蘭の求めていた回答とは少し異なり、質問を変える。


「好きになったきっかけはありますか?」

「何故貴女に話さなければならないの!?」


 彼女は刺々しい口調で言う。怒っているのではなく、照れ隠しだろうと雨蘭は判断する。


「恋愛経験がないので、好きという感情がよく分からなくて。参考までに梅花さんのお話を聞きたいです」


 素直に理由を述べると、梅花は「そうでしょうね」と言い、目で雨蘭を上から下まで憐れみの目で眺めた。


「私は以前、梁様にお会いしたことがあるの。その時はお名前すら知らなかったけれど、とてもお優しい方だと思って……ここで再会した時には夢かと思ったわ」


 嫌がっているようで、案外聞いてもらいたかったのかもしれない。梅花は一度話し始めると、興奮気味に梁との出会いを語ってくれる。


「ふむふむ。大抵は出会った瞬間、好き! と感じるものでしょうか」

「さぁ。時間をかけて、気づいた時には好きになっていることの方が多いと思うけれど」

「そうなのですね」


 明に「好ましく思っている」と言われた時の情景が、ふと脳裏を過ぎる。


(気づいた時には好きになっている、か。やっぱりよく分からない)


「ふぅーん」


 梅花が薄笑いを浮かべている。


「何ですか」

「何でもないわ。さっさと掃除を終わらせましょ」


 春鈴と香蓮は、相変わらず魂の抜けた状態で、仕事が全く進んでいない。

 梅花自身は掃除をするつもりがないので、結局は雨蘭が一人で頑張ることになるのだった。

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