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第21話 料理長の視線が痛い

 隣から強い視線を感じる。獣のように厳つい男は腕を組み、仁王立ちで雨蘭の夜食作りの様子を凝視している。


 料理長と同じ空間にいるだけで緊張するというのに、今日はいつにも増して張り詰めた空気を感じる。


(私また何かしたのかな)


 雨蘭の行いが料理長の逆鱗に触れ、お叱りを受けることがしばしばある。萌夏曰く、これでも王宮にいた時よりは随分丸くなったそうだ。


 田舎風の素朴なチマキでも作ろうかと、四角い枡に葉を敷き詰めていると、ついに料理長は口を開く。


「皇帝にお出しする料理を考えてみるか?」


 それは農民流の作り方だ。やり直せと言われるかと身構えたが、男の口調は想像よりも柔らかい。


 それよりも、驚くべきは発言内容だ。言葉そのものの意味は受け止めたが、あまりに唐突で雨蘭は思わず質問に質問で返してしまう。


「どういうことでしょう?」

「昨日呼び出され、皇帝訪問時のお品書きを考えるよう命を受けた」


 料理長は盛大なため息をつく。


「まさかお前が候補者の一人だったとは」

「あ、はは……」

 

 隠そうとしていたわけではないが、使用人の真似事をする以上、知られない方が良いと思っていた。


(ど、どうしよう。追い出されてしまうかも!?)


 苦笑いをしながら、必死に言い訳を考える。残念なことに何も浮かばなかったので、素直に頭を下げて懇願する。


「私もどうしてそうなってしまったのか分からなくて。何かの手違いだと思うので、今は使用人として雇われることを目指しています。なので、どうかお手伝いを続けさせてくださいっ……!!」

「好きにさせてやってくれと梁様に言われている。皇帝に出す料理を少し作らせてやってほしいとも」


(梁様〜!!!! もう一生ついていきます。私を雇ってください!!!!)


 料理長の言葉を聞き、雨蘭は心の中で梁を拝んだ。


 雨蘭のように身分の低い者にも分け隔てなく優しくて、本当に素晴らしい人だ。彼のような人こそ、国の頂点に立つべきだと思う。

 

「ぜひ! やらせてください!」

「言っておくが、恵徳帝は食にうるさい方だ。心してかかるように」

「はい!」

「本来ならまだ任せられる域に達していないが、梁様の頼みであれば仕方ない」


 料理長はもう一度深い溜め息をつく。渋々、という感情が眉間の皺によく表れている。


 彼が長年築き上げてきた料理人の矜持を、素人の雨蘭が傷つけてしまったのかもしれない。それからというものの、料理長の視線を感じるたびに申し訳なく思った。


(皇帝にお出しする品かぁ。どんなものが良いのだろう)


 梁の心遣いが嬉しくて、勢いよく引き受けたが、時間が経つにつれ無謀な挑戦だったかもしれないと弱気になってくる。


 畑を耕すことと、野菜を育てることは本業だ。きっとここにいる誰よりも、荒地を立派な畑に変貌させることができるだろう。


 一方、料理に関しては目の見えない母を手伝い、幼い頃から経験を積んできたが、宮廷で出るような豪華な食事とは程遠い。


(食にうるさい方と料理長は言っていたけど、本当なのかな)


 燕の話を聞く限り、皇帝は庶民的で寛容な人物に思える。その人が食事にうるさく口出しするのだろうか。


「アンタさっき朱様と何を話してたの? 怒られたわけではなさそうだけど」


 萌夏は鍋に余った炒めものを玉杓子を使って豪快に食べながら、雨蘭に尋ねる。

 どうやら彼女には話の内容まで聞こえていなかったようだ。


「実は皇帝にお出しする前菜作りを担当することになりまして」

「えええええ!! すごいことだよ!?」


 萌夏の声が大きいせいで、新しく調理場に入った見習い数名が一斉にこちらを見た。


「どうかご内密に!」

「自慢したらいいのに」

「色々事情がありまして……」


 このことが他の候補者たちの耳に入ったら、また厄介なことになる。


 雨蘭が嫌がらせを受ける分には仕方のないことだが、調理場が荒らされでもしたら困る。ここで働く人たちに迷惑をかけるのは避けたい。


 萌夏や他の見習いたちとも、できる限り対等な関係でいたいと思ってしまう。


「アンタって本当に不思議な子ね」

「そ、それより! 萌先輩は皇帝がどのようなものをお好みか、何かご存知ですか」

「あっちにいた頃はまだウチも、皿洗いしかさせてもらえないような下っ端だったからなぁ」


 恰幅の良い彼女は腕を組んでうんうん唸る。記憶を呼び起こしてくれているようだ。


「どんなものを作れば良いのか悩みます。皇帝ともなれば、きっと毎日豪華なものを召し上がっていますよね」

「そういえば、朱様は皇帝の食事を任されていた時、全然召し上がってもらえないって苦労していたなぁ。毎日すこぶる機嫌が悪くてさ」

「ひぇ……」


 朱料理長の技量の高さなら間近で見ていてよく分かる。皇帝の食事を作っていたということは、この国一番の料理人と言っても過言ではないだろう。


(そんな人の料理でも食べてもらえないのだとしたら、私が作ったものなんて犬にでも食わせておけ! と地面に捨てられてしまうかも……)


 二週間後に梁たちに味を見てもらう機会があるらしく、それまでに考えをまとめなければならない。


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