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9.もう一つの能力③

「よし、これで……」


「ここで倒れてたまるか!」


 そんなことを思っていると、奴が着地する直前に拳が飛んできた。


「ぐは……」


 見事に俺の顔面に命中し、吹っ飛ばされる。

 その場で倒れ、奴はそれを見下ろす。


 油断していた……

 力が入らない。手が動かせない。 

 しかし、それが悟られないように気を張る。

 

「全くだよ。人間なにがあるかわかんねぇな。子供が魔法を使えたり、子供相手に本気でやらないと勝てなかったりとかな」


「……もうお前のスキル《無効化》は使えないだろ……いい加減諦めろよ」


「おお、お前さん。俺のスキルの制限を知っていたのか。本当に子供なのか?」


「うるせぇ」


 勝ち誇った顔でそんなことを言われる。 


「……なんのためにこんなことをするんだよ。わざわざ人なんかさらってなにがしたんだ!」


「ふん、別になにか企んでるってわけじゃねぇ」


「企んでない? なら一体なぜ……」


「簡単だよ。ただの金稼ぎだ。お前のような贅沢な暮らしをしてきて、夜中に追いかけっこするような人間にはわからないと思うけどよ。この世の中には飯もろくに食えねぇ。水も十分に飲めねぇ。そして、そのまま苦しんで苦しんで死んでいく……そんな奴らが大勢いるんだ」


「だから、それがなんだよ!」


「わからねぇのか! 俺たちにはな、金が必要なんだよ! 生きるための金が!」


「……!?」


 いまの言葉には覇気があった。

 苦しみが直に伝わってくる。体がビクッとして鳥肌が立ってくる。


「だから、簡単にさらえて高値が売れる子供。特に女を選んだ。たくさんの人数を売って売って売りまくって、その金でどうにか飯を買ってきた。なあ……わからねぇなら考えてくれよ。俺たちの気持ちをよ」


 訴えかけて来る。

 こんなことを聞かれるのは初めてでどう反応したらいいのかさっぱりわからない。

 

「……ふふ。なーに、子供相手に熱く語っちまってんだよ俺は……馬鹿な野郎だぜ」


 呆れたように自分に言い聞かせていた。


「……もういいだろ。そろそろ終わらせよう」


「……」


 そう言って段々と近づいてくる。一歩一歩足音が聞こえて来る。

 俺はそのまま伏していた。


 このままじゃ、やられる。負ける……

 

 そう思うと、一番大切なことが頭によぎる。


「サクヤ……」


 サクヤの笑顔だった。


 なんで、こんなことを言われて、俺はなにもしていないんだ。

 俺のせいで、サクヤはとらえられて、殴られて。

 こうしているうちにもサクヤは傷つき、こいつの言う通り売られて、奴隷のように扱われているのかもしれないのに……

 なんで、なんでなにもしていない……


 力が湧いた。


「……ざけるな」


「あ?」


「ふざけるな!」


 俺は立ち上がる。

 足に力が入らず、一度倒れるが、俺は諦めずに立ち上がった。


「さっきからごちゃごちゃと御託を並べやがって。ふざけるのも大概にしろ」


「……いまの話を聞いて、そんな答えがでるのか?」


「ああそうだ」


「……そうか、それは残念だ。お前には人の心というものがないのか」


「人の心だ? 笑わせんな。お前の方こそ罪の自覚はしているのか?」


「罪? これが罪!? 生きるためにやることが罪としてなるのか!」


「そうだ! 罪だよ! 生きるためだろうが何だろうが人の命を奪おうとしているんだ、それが罪じゃなくてなんだっていうんだ!!」


 怒鳴った。子供ながらに名一杯に大声を出し、奴に向けて言った。

 真っ暗でなにも見えない道に俺の声が響き渡る。


「……なんにもわかってねぇ。お前は子供だ。だから世界のことなんかなにも知らないくせに余計な口出ししてくんじゃねぇ!」


「余計なんかじゃない。誰にだって生きたいって気持ちはある。だけど、それは被害者の方だって同じだ! みんな仲良く暮らしたいんだよ!」


「もういい。お前の話を聞いていると虫唾が走る。ぶっ殺してやる」


 走りかかってくる。


「我が体に導かりし、水よ。聖なる力で汝を打ち砕かん! 【ウォーター】」


「だから甘いんだよ!」


 止めようとするが、避けられ、蹴りを食らわされる。


「クソガキが!」


 さらに攻撃を入れようと、殴りかかってくる。


「……我が体に導かりし、水よ。聖なる力で汝を打ち砕かん! 【ウォーター】」


「……っち」


 痛みに耐えながらもう一度詠唱を唱えてそれを追い払った。

 奴は後ろの方にジャンプして避け、距離が離れた。


「はぁはぁ……」


 ゆっくりと立ち上がる。

 痛みが酷い。大人との喧嘩はここまで痛いものなのか。


「……本当ならこれは当たれば死ぬ可能性があるから、あまり使いたくなかったんだが……まあ仕方ないよな」


 すると、奴は詠唱を唱え始める。


「我が体に導かりし、気よ。聖なる力をもって汝を吹き飛ばせ! 【エアー】」


 奴が拳を振りかぶり、その手を下ろした瞬間。


「なんだ!?」


 空気弾のようなものが俺の方に向かって飛んでくる。見たことない魔法だ。

 だけどわかる。これは間違いなくヤバい。当たれば死ぬ……


「……!?」


 直撃を間一髪のところを空気弾は通り過ぎた。

 頬に少しかすったらしく、ポタポタと血が流れ出ていた。


「もうわかっただろ。これが実力の差ってやつだ。終わりだよ」


「……終わるのはお前の方だ。絶対に勝ってお前に罪をわからせてやる」


「口だけは達者だな! もう一発、【エアー】」


「詠唱がない!?」


「【エアー】は2回使うまでが魔法だ。一度詠唱を唱えればもう一回は免除される」


「……クソが!」


 空気弾は俺に向かってどんどん迫ってくる。

 なにも対策をしていないためこのままじゃ当たる。


「我が体に導かりし、水よ。聖なる力で汝を打ち砕かん! 【ウォーター】」


 その空気弾をなんとか【ウォーター】で耐えた。

 水と空気がふれあい、そのまま硬直している。


「ッ!……」


 しかし、空気弾の方が優勢で水は押されていく。


「なら……我が体に導かりし、気よ。聖なる力をもって汝を吹き飛ばせ! 【エアー】」


 もう片方の腕で放つ。

 ユニークスキルのおかげだ。


「なに!? 【エアー】だと。何故お前が!?」


 俺の空気弾は触れあっているところにぶつかり、一瞬ですべてが爆発し、魔法が解ける。


「これで最後だ。いままでの人の思いを受けろ! 【エアー】」


「しま……」


 当たった。

 腹に直撃し吹っ飛び、倒れる。

 その衝撃で顔のマスクが外れて、おっさんの姿がみえた。


「ぐは……ああ、これじゃあ3本は骨が折れてる音だ。くそ……動けねぇ」


 倒れこんだまま動かない。

 口からは血が出ている。


「っち、俺の負けかよ。」


 潔く負けを認めた。

 俺は奴に近づき、尋ねた。

 

「……どこにサクヤがいるのか教えろ」


「約束だからな。一応言ってやる。馬車だ。馬車が置いてあるところにいる。そこから逃げるつもりだった」


 馬車……ああ、朝おばさんたちと一緒に降りた場所のことか。

 なら道はわかるな。早く行こう。


「おい、行く前に一つだけ聞かせろ」


 【ウィンド】を使おうとしたところ止められた。


「……なんだよ。負けたくせに文句か?」


「ちげーよ。もっと単純なことだよ」


「?」


「お前、名前は?」


「……そんなことかよ。レンだよ。レン・クロニクスだ」


「……肝に銘じておこう」


 その言葉を聞いて、するに詠唱を唱え、【ウィンド】を使う。

 

 ……もしかして今のって後々、俺を突き止めやすくするためだったのかな。

 焦ってて、普通に言っちゃったけど、大丈夫なんだろうか。心配になってきた……考えすぎだといいんだけど。


 そんなことを考えながら前へ進む。



-------------------------



「あ、いた!」


 馬車の付近まで近寄ると黒装束の二人組を発見する。

 俺はそこで足を止めた。

 近くには少女が横たわっており、間違いなくサクヤだろう。


「げ……なぜこの子供がここに。リーダーは?」


「リーダー? もしかしてあのおっさんのことか? それなら倒してきたぜ」


「倒しただと、あの強いリーダーを……」


「……それが本当なら俺たち2人で息を合わせるしかないみたいだな」


 奴らが構える。


「望むところだ。今度こそ、サクヤを取り戻させてもらう!」


 俺も構え、一触即発状態になった。


 そんな時。


「――そうはさせないわよ」


 空から声が聞こえて来る。


「……アオサさん!?」


 そっちの方を向くと、浮いているアオサの姿があった。


 助けに来たのか。

 それにしてもなんだ、あれ。

 浮いてるぞ。魔法か?


 そんなことを思っていると。


「【フローゼルスプラッシュ】」


 アオサが詠唱もなしに魔法を使った。

 手から氷が出て、二人組を襲う。


「……は?」


 すると、頭だけが氷漬けにされた二人組が目の前にはいた。


「溶けなさい」


 その声で氷が解け、氷だけでなく頭も無くなった。


 つまるところ。

――死んだのだった。

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