5.初めての魔法
「うぅ……」
目が覚めた。
体が痛く、麻痺していた。
ゆっくりと起き上がり、前をみる。
「ってか、もう夕方かよ……そんな時間経っていたのか……」
窓の外には夕陽が見えた。
あのところにいた感覚ではそんな時間が経っていなかった気がするんだけどな。
それにしても、魔法ね……
使えばスキルがわかるとか言っていたけど本当なのか?
というかミストのことを信用してもいいのか?
疑問がどんどん増えて来る。
「……まあ、こればっかりは考えても意味ないや。それよりも」
周りを見渡し、歩き、人を探す。
「あ、いた。おーいサクヤ! 何してるんだ?」
「げ、レン」
サクヤを見つけ、声をかけた。
手を後ろに回り、口笛を吹きだした。
「ん? サクヤ後ろになに隠してんだよ」
なんだろう。なにかを隠しているような気がする。
勘だけど。
「え? な、なにも隠してないよ。本当だよ……」
「本当か? なら見せてみろよ」
「うーん、えーっと……」
「ほら見せてみろ」
後ろに回している手を無理やり取ると。
「……なにこれ」
本があった。
俺はゆっくりとサクヤの方を見た。
「べ、別に借りたいとかじゃないからね」
ツンデレみたいなことを言い出す。
というかなんだろうこれ。
本を見る。
題名は『これを見たら君もお絵描き博士だ!』だった。
下の方には『対象年齢:3歳』と書いてある。
……いや、なにこれ。
というかどこからこんなもの……
少し前を思い出す。
俺が指さした『児童向け特集! 対象年齢3歳児』のことを。
「やっぱ、お前は子供だな」
「子供じゃないもん!」
結局、もう時間も時間なので、その本は一日借りることになり、明日返すことにした。
俺たちは書庫を後にし、宿舎に向かって歩き出す。
辺りはさっきよりも人がおらず、早く帰ったほうが良さそうだ。
「ほら、借りたんだからちゃんと明日返すんだぞ」
「ふん!」
不機嫌そうに返してくる。
不安だ。きちんと返せるのだろうか。
こいつのことだから、「あ、忘れてた。てへぺろ!」とか言ってそのまま持ち帰る気がする……
まあ、なんとかなるかな。
そんなことを考えながら歩き、宿舎の前に着いた。
意外と早く着くことができた。
というのも、俺のこのユニークスキルとやらで昼に歩いた道を覚えていたからだ。
案外、道案内とかには役立つらしい。
職業、ガイドとかならなれそうだ。
……なる気はこれっぽっちもないけれど。
「君たちの場所は3番目のここだよ。後は好きにしな」
「ありがとうございます。助かります」
宿舎の人に聞いて、場所を案内してもらった。
どうやら、この部屋が今日の泊まる部屋のようだ。
いい感じの部屋ならいいんだけどな……
そんな期待を浮かべる。
「よし、これで帰れたし。後はゆっくりと寝たりでもしてようかな」
「え~もう寝るの? 早いよ。もう少し遊んでから寝ようよ……」
「遊ぶって言っても、なにもないだろ。ほらこの通り……」
ドアを開けると。
「ウェェェェェェェェェイ!! 楽しんでるか野郎ども!!」
「「勿論だぜ、クソゴミが!!」」
男3人の変な人たちが机の上に登ったりして酒を飲んでいた。臭い。汚い。
俺はそれを見た瞬間、ドアを閉じた。
「今の何だろうね……」
「さあ、俺にもわからない……」
……おっと。
部屋を間違えていたらしい。全く、案内する部屋を間違えるとか止めて欲しいよね。迷惑極まりないからね。
「3番の部屋はっと……」
もう一度、どこにあるのか確認する。
あれ、おかしい。なにかがおかしい。
「おいおい、嘘だろ。3番ってこの部屋じゃねーか……」
番号は間違えていなかった。
ここで合っていたのだ。
つまりさっきのは……
「おばさんたちってことなのかよ……」
ドン引きだよ。超ドン引きだよ!
さっきのって多分、おばさんたちの言ってた冒険者の時の仲間だよね。
……こんなのが冒険者なのかよ。
入りずれぇ~。ていうか入りたくねぇ……
「くそ、どうしようもないのか」
「どうしようもなにも入ればいいじゃない。ここが部屋なんでしょ」
「違う、そう言う事じゃない。サクヤはさっきの見なかったのか?」
「見たわよ。それが何か問題なの?」
頭がぽかんとしてくる。
こいつはなにを言っているんだ。
「だって、相手は冒険者なのよ。あの冒険者よ。ならこれくらいになって当然じゃない」
「お前の冒険者の感性はどうなってるんだ……」
「レンは知らないようだから教えてあげる。冒険者ってのは剣と魔法でモンスターを倒して、夜は酒場で酒をがぶがぶ飲むのよ。どう憧れるでしょ!」
「いや、全然。全く」
「……ふん、分からないならいいわよ。とりあえず、さっさと入るわ」
「ちょ、おい!」
俺のことを無視してドアを開ける。
「「あはは、俺たちゃみんなでバカ騒ぎ! お酒をがぶっと飲んだら~べろべろによって女と夜過ごす!」」
ゴミみたいな歌をバカみたいに歌っている男どもが目の前にはいた。
肩を組んで、手には酒を持ち、歌っている。
中には全体で4人いて、そのうちの二人は歌い踊り、一人はそれを見て、もう一人は馬鹿をみるような目で残り四人を睨んでいた。
「うわぁ……なにこれ」
引く。さっきより引いた。
よくもまあ、こんなことが出来るものだ。
そういう点では見習いたいものだね。うん。
すると。
「お? なんだこいつら。子供か?」
「グレイさん。この人たち多分、ジンさんたちの子供っすよ。前、話していたでしょ」
さっきまで踊っていたおっさん二人が話しかけて来る。
匂いがキツイ。鼻がビーンとする。
でも、おばさんたちの知り合いなんだよな。
……挨拶はしておくべきか。
「グレイさんですか。ど、どうも。レンです。こっちはサクヤです……」
「おお、なんだよ、こいつら。俺たち相手に挨拶してきやがったぞ! 一体どんな教育したらこんな真面目になるんだよ!!」
「こらこらグレイさん。嫌がっているでしょ。ちゃんとしましょう。ちゃんと」
「あはは……」
苦笑いするしかない。
なにこの茶番。早くこの場所から離れたい……
「こんにちは、レン君。僕の名前はレイン・シリス。気軽にレインと呼んでくれて結構だよ。そして隣にいるのが……」
「グレイ・ジャピリッダ。この場にいる冒険者の中じゃ、俺が一番強いと言われている」
「言われてませんから。嘘ですよ。それであそこでまだ踊ってるのが、ウィーン・グラス」
ウィーンの見るとガッツポーズをしていた。
ノリが良さそうだ。
「そしてあそこで座っているのがアオサ・バランだよ君たちのお父さんお母さんも含めて、元々は一緒の冒険者で仲間だったんだ。今はジンとセリカが抜けて4人で活動しているんだ。本来なら昼で解散する予定だったけど、結局こんな感じに……ごめんね。迷惑かけて」
「いえいえ、全然……」
レインさんは比較的優しそうだけど、このグレイって人もそうだけど、みんなおかしな感じがする。
冒険者ってみんなこんな感じなのか……
「そ、それで……おじさん――ジンさんたちってどこにいるか知ってます?」
一応聞いておく。
「ジンの野郎か? あいつなら多分、セリカと一緒に買い物に出かけたぞ。俺たちはその間に飲んでるって感じだ。あはははは」
ってことは俺たち知らない奴らとずっと一緒で逃げ道がないってことかよ。
最悪だ。
「……ねぇ、気になったんだけど、あんたたちって本当に冒険者なの!?」
すると、サクヤがグレイに話しかける。
「お? なんだ、お前、興味あるのか?」
「うん! もちろん!」
「威勢がいいな……よし、なら俺のとっておきでも見せてやろうか」
「とっておき? もしかして魔法かしら!?」
「ああ、そうだとも。魔法だ」
「見たいみたい!」
なんだ? 魔法だと……
確かに、おばさんも【クリーン】って魔法を使っていたし、こいつらが使えてもおかしくはないか。
……それにしても魔法ね。
なんかミストの野郎も使えばわかるとか言ってたし、とりあえずは見てみようかな。
「ちょっとグレイさん、流石にやめときましょうって危ないですよ……」
「大丈夫だよ、レイン。ちょっと見世物をするだけだから」
「……もう、怒られても知りませんかね」
はぁ、とため息をついて、少し離れる。
「じゃあ行くぜ」
腕を掲げながら、詠唱を唱えだす。
「我が体に導かりし、水よ。聖なる力で汝を打ち砕かん! 【ウォーター】」
そう叫ぶと、水が瞬間的に飛び出し、近くにあったツボを破壊した。
威力はそこまで強くなく、当たれば痛いくらいだろう。
まさに見世物としては最高だった。
綺麗に水が出て来ていたし、神秘的に感じた。
それくらい魔法が上手な証拠なのだろう。
「おお、凄い! これが攻撃魔法なのね! カッコイイ!!」
「ふん、だろ? これが俺の力よ!」
キリっと決め顔をする。
「私もやってみたい。いい?」
「ああ、お嬢ちゃんには早いと思うけどな」
ニヤッと笑う。
そして、サクヤが詠唱を唱え、手を広げるが全く水が出る気配がなかった。
失敗だ。
「残念だな。お前さんにはまだ魔力が足りてねぇ。もう少し歳をとれば、行けるようになるさ」
「うーん、ダメか……なら、レンがやってみてよ。一度でいいからさ。私に出来なくてもレンにならできるかもしれないよ!」
「……そうだな。……しょうがない。一回だけだぞ」
「うん!」
笑顔で俺をみる。
少しやる気が出て来た。
「ふん、やる気だな。面白れぇ。見せてみろ」
「なんだなんだ? 一発芸か? 酒覚ましにはいいな!」
踊っていたウィーンも俺の方を見て来る。
ちょっと緊張してきた。
……正直に言えば、魔法には興味があって、一度挑戦してみたかったからちょうどいい機会だった。
それにミストの言ってたことも気になる。『あなたが魔法を行使することがあれることがあれば――このスキルの使い方がわかるでしょう』か。
なんにしろやってみないことには変わりはないな。
グレイと同じように手を広げ、詠唱を唱えだす。
能力のおかげで覚えているため、やりやすかった。
「我が体に導かりし、水よ。聖なる力で汝を打ち砕かん! 【ウォーター】」
そう唱えた瞬間。
『ユニークスキル《完全記憶能力》の【能力記憶】を使用します』
またあの声が聞こえて来る。
しかし、今度は頭が痛くなることはなく、ただひたすらに力が湧き出て来た。
体に電気が流れたような感覚を覚える。
これは痛いとかではなく、力の流れだった。
そして、手から。
「な……」
水が勢いよく発射され、近くにあったドアを完全に破壊した。
これが俺にとって、初めての魔法だった。
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