21.黒渦の中で
『どうもこんにちは。お久しぶりですね。約2年ぶりといったところですか』
「……ああ、2年ぶりだな。この中で元気にしていたかよ」
『ええ、おかげさまで』
「それはご丁寧にどうもだ」
本当に久しぶりの会話をする。
体が覚醒すると、目の前にはあいつ――ミストがいた。姿はみえないが、ミストで間違いないだろう。
つまり、この中は黒渦の中ってことのようだ。
この空間は相変わらず、なにも見えず、なにも触れない、不思議で気持ちの悪い世界だった。
「……今回もやっぱり記憶容量ってやつの限界が来たからこうなったのか?」
『はい、そのとおりです。中級魔法【ドラゴンバースト】によって記憶容量に過激な負荷がかかり、一時的に黒渦の方に飛ばされることとなってます。なおすぐにこの拘束は解除されることになってます』
「はぁ……やっぱりな。まえは本とかをたくさん読んでいたからなったけど、まさか魔法を使っただけでなるとは思わなかったぜ」
本を読んでなったから、そういうものでしかならないと思っていたんだけど、予想とは違っていたらしい。
『あくまでも記憶容量ですからね。本とかだけなるとかそういうものではありません。そして、いままでならなかったのは初級魔法ではほとんど記憶容量に負担はないからです。それに比べ、中級魔法は爆発的な威力だけでなく、多くのモンスターをなぎはらい、なにも残らないほど破壊する。これだけで情報の量がどれくらいたくさんなのかは頭の悪いあなたでもわかるでしょう』
「最後の一言は余計だけど大体わかったよ!」
余計なことばかり言いやがって。しかも理屈っぽすぎる! 絶対嫌われるタイプだぞこいつ……
まあそれはいいとして、中級魔法を1回使っただけでこれなのは事実なんだ。
もう、とうぶんは使わない方がいいな。
「……それで、いまこの間暇だし雑談でもしようぜ。結構まえから聞きたかったこともあるし」
『いいでしょう。許可します』
どや顔のような風に言う。
顔はみえないがなんとも言えないがどうにも偉そうな態度だ。
教えてもらう立場だからこうなって当然なのだが、どうにも腑に落ちん。
「……色々とツッコミたいところはあるが、おいておいて……この能力っていうのは一体何なんだよ。詠唱を唱えたら急に魔法を使えるようになるし、記憶容量は増えていくは……よくわからん」
『なるほど。ではまずそこから説明していきましょう』
続けて言う。
『記憶容量はあなたの記憶が増えるたびに増加していきます。つまり、時間が過ぎれば過ぎるほど増えていくということです。最終的には無限のような形になることでしょう。こういうふうに私と話すのは、この後ほとんどないかもしれませんね』
「話す? スキルの説明とかの時に話しているじゃないか」
説明のときの機械のような声を思い出す。
あれも一応は話をしているのと同じだ。
『いいえ、あれは私であって私ではありません。今のこちらには意識がありますが、あちらにはありません。あれはただ単にこの能力の自動化に過ぎず、実体はないということです。つまり実質的には私とあなたは話していないのですよ』
「はぁ……よくわからんが、話していないってことか」
やっぱりこいつの話は長ったらしいくせに全然理解できない。
もっと簡単にして欲しい……
『それで話を続けると、今現在の中でユニークスキル《完全記憶能力》によって使えることは主に3つあります。第1に〈瞬間記憶〉です。見たものをすべて記憶できるあれです。しかし、あまりにも情報が多いとこのような感じで異次元空間、黒渦に招かれます』
「ほうほう、なるほど」
この忘れることのできない忌々しい能力は〈瞬間記憶〉というのか。
能力はあれだが……なんか響きがカッコイイ!
こういうのを俺は待ってた気がする。……知らんけど。
『第2に〈能力記憶〉です。魔法の詠唱を見ることで、その詠唱ごと記憶から掘り出し、魔法を発動させる能力です。これは記憶から魔法を想像することで詠唱を無くすことが出来ます。まあいわばコピーができるみたいなものだと考えてくださるとわかりやすかと』
「コピー……」
『さらに記憶からの掘り出しなので魔法を使うとは少し違うため魔力も消費しないので様々な場面で使えます』
簡単に言ってしまえば、魔力なしで相手の魔法を俺の魔法としてできるってことか。
……それって強くね、今考えると超強くね!?
しかも魔力が必要なくて、詠唱も要らないとか意味わからんほど強くないか!?
俺最強なんじゃね。
『ですが、記憶容量の限界すなわち黒渦などの制限がありますので格別に強いかと聞かれれば、いいえと私は答えます』
「なんだよそれ……まあ確かに中級魔法でこれだもんな。もっと上の上級魔法とか絶対に記憶容量が飛ぶしいざというときにしか使えないのか。そう考えると普通に魔法だけとかを鍛えているやつには勝てないかもな……」
アオサのことを思い出す。2年前、俺が王都にいた時のあのことも。
あの人の魔法は別格だった。
間違いなく、あの威力なら中級魔法だろう。
それにあの魔法は――綺麗だった。
鮮やかに一瞬で敵を全員殺した。躊躇もなにもなくだ。
あんなものに勝てるかと言われれば、無理かもしれない。
いいや無理な可能性の方が高い気がする。
それくらい難易度が高い。
それに空を飛べるしな。
攻撃がそもそも当たらないのが落ちだろう。簡単に想像がつく。
倒された後罵倒されることもな……
だけど……一度でいいから戦ってみたい気持ちもある。
いまの俺がどれくらい強いのか知りたい。
あのことがきっかけで強くなりたいと決めたんだ。こうなるのも当然だ。
俺の考えていることを無視し、ミストが話を続けた。
『そして、第3に〈記憶解析〉というものです。相手が使ったスキルを記憶を媒体として調べることができ、能力がどういうものなのかを研究するものです』
「スキルの解析ってあれのことか……頭の中に急に情報が流れて来る奴!」
『そう、それのことです』
「あれ嫌なんだよな……本当に急に入ってくるからビックリする上にちょっと気持ち悪いし」
『嫌でしたら、いっそのこと解除しますか? そうすればわざわざ驚くこともないですし、お勧めかと。しかし、スキルの解析はしませんので相手の力がわからず負けてしまう……というのもありそうですが』
「……そのままで大丈夫です。いやそのままでお願いします!」
『それならよろしいです』
にっこりと笑っているような感じがする。
やっぱこの人嫌いだ……苦手過ぎる……
『というわけで能力について解説しましたが、なにか他にも質問はありますかね。そろそろ時間も近づいて来ているので早めにした方がいいですよ。こんな機会めったにありませんし。来たくてもこちらに来れないことの方が多いですからね』
「……じゃあ最後に一つ」
『なんでしょう』
「これから俺はどうしたらいい。この能力をさらに強くするにはなにをしたらいいんだ?」
最後の質問をする。
さっきのよりもこっちの方が聞きたかったことだ。
強くなる理由。いま最も知りたいことだった。
『……強くなる方法ですか、いいでしょう。私が思っている答えをお教えします。それは――』
それを聞き、ごくりと固唾を飲んだ。
緊張が俺をおそう。
そして、ミストは軽々と。
『ダイヤモンドになることです』
そう言ったのだった。
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