13.冒険に出よう➁
「はぁはぁ……おい、今ここどこなんだ……」
「……そんなの知らないわよ。道もろくに出来てないんだし……」
「……だな」
俺たちはろくに整備もされていない場所を歩いていた。
太陽が輝いていて、暑苦しい。
正直に言ってこれじゃあ干からびそうだ。
もう出発してから何時間たったかも覚えていない。
それほどまでに時間が経ったと思う。
「ちゃんとこっちの合ってると思うんだよな……ていうかあってなかったら普通にキレるレベルだぞ……」
向かう途中の看板にこっちの方面に王都と書いてあったのを見た。
これ自体が間違っているなんて最悪なことはないだろう。
……本当に大丈夫だよな。
さらに進んでいく。
全然、道は終わらず王都もまだ見えない。
そりゃそうか。だって約一日かかるもんな。
そう思うと、お腹がぐぅ……と鳴った。
「ああ、もう限界だ! ご飯にしよ! ご飯!」
「……そうね、そうしましょう。確か鞄にあるんだっけ?」
「ああ、何日間あっても大丈夫なように、あんまり腐らないものを持ってきた」
「へぇ……」
俺たちはその場で座り込み、鞄の中を開いてあるものを取り出した。
「みろ。ビスケットだ」
「おお……」
大きな袋に入れてあるビスケットを取り出す。
お菓子とは言っても意外にお腹に入る。
修行中とかによく食べすぎて夜ご飯を食べれなかったこととかあったっけ。
思い出が蘇ってくる。
「ほらよ」
「……ありがと」
渡すと嬉しそうに受け取り、小動物のように何度も噛んで食べ始めた。
こういうところは見ていて可愛いと思う。いつもこんな感じならいいんだけど。
「……何見てんのよ」
「いや、別に」
ずっと見つめていたら怒られた。
……まあそんなことよりも問題なのはその量だ。
元々一日分の食料のつもりだったから、これを二人で分けたら半日しかもたない。
つまり夜食べるものがない。
……どうしようかな。お金もないし。
そんなことを考えていた時だった。
「ねえ、なにあれ」
「どうしたんだよサクヤ」
「どうしたもこうしたもないよ。なんなのさ、あれ」
奥の方を指さす。
「え、なにもないじゃん」
「よく見てよ。見えるでしょ!」
言われて、目を細めてみる。
「うわ、ホントだ。なんか黒い点々みたいなのが見える」
「そうでしょそうでしょ。不思議だなって思って声かけたんだよ」
つぶつぶのような黒い球が見えた。
なんなんだろう。あんなものこんなところにあるとは思えないんだけど。
見ようとするが、遠すぎて見えない。
「ん? なんか大きくなってないか」
「大きくなってる?」
「ああ、ほらどんどん点が大きくなってきて……」
「大きくなってきて……」
「え……近づいて来てないか!?」
点が大きくなるっていうより動いて来てるような気がする。
「あ……よくみたら牛じゃないあれ。肉にしたら美味しい奴よ!」
「おいおいまさかあの牛なのか!?」
記憶がよみがえる。
嘔吐するという最悪の記憶が。
「こんなビスケットだけなんて意味ないわよ。あの牛、食べましょうよ!」
「いや、無理。絶対無理。あんな化けもの食べたくないよ!?」
「前から思ってたけどレンって結構臆病なの……」
「これ俺がおかしいの!?」
そんな会話をしているうちにあの点は大きくなっていき、やがて体を感知できるような距離に来る。4本足で爆走していた。
「でか……」
やっぱり大きいな。
前見た時よりも、もっと大きいかもしれない。これは早く逃げないと……
「おい、とりあえず離れるぞ」
「え~なんでよ。あれ倒せばあんなに大きな肉が食べれるのよ。私の魔法であぶって食べればきっとおいしいわよ」
「おいしいのは否定しないけど……どうやってあんな大きなのに勝つんだよ。俺たちだけじゃ無理だ」
「無理ってなーに最初から諦めてんのよ。私が居るんだから大丈夫に決まってんでしょ」
「お前のその自信はどこから出て来るんだ……」
そんなことをしているうちに。
ぐおおおおおおおおおおおおおおおお。
「き、きたああああああ!!」
牛というよりクマのような雄たけびが後ろから聞こえて来る。
前を向くと奴がいた。
見たらわかる、威圧感が半端じゃない。なんだよ、これ!!
「よし、戦闘だ! まずは……我が体に導かりし、炎よ。聖なる力で汝を焼き尽くせ! 【フレア】」
サクヤの手から赤く光った球が出てくる。
前のような小さな炎なんかではない。手からはみ出るほどの炎だ。
「行け!」
それを奴に向かってぶつけた。
ぶつかった衝撃で煙が出て来て、周りが見えなくなる。
「やったか?」
「あ、それフラグ!」
ぐああああああああああああおおおおおおおおお。
しかし、煙が消え去って中が見えると全くといっていい程効いていなかった。
「ダメじゃん。こんなんじゃ全然ダメじゃん!」
ビンビンに動いている。というか怒って暴れている。
結構強い威力のはずなのになんなんだよこの怪物は!
ぐああああああああああ!
雄たけびを上げながら腕を振り回してくる。
「うわ、危な!」
腹すれすれのところで避けられた。
「っち、これじゃあ死ぬ。一旦逃げるしかなさそうだ。【ウィンド】」
俺は魔法を使い、足を速くする。
「サクヤ、行くぞ」
「え?」
そのままサクヤをお姫様抱っこで持ち運び全力疾走する。
「ええええええええええ!? ちょ、ちょっとなにやってんの!?」
「う、うるさい。仕方ないだろ。こうするしかなかったんだから」
「……ふん」
恥ずかしい。
こんな風にして持たなきゃよかった。
「……いや、そんな事よりも状況の確認だ」
後ろを振り向けば、奴が俺たちの方に走ってくる。
くそ。こっちは魔法を使ってるっていうのに、あいつは普通に追いついてきそうだ。
なんなんだよこの化け物。
「だけど、このままじゃやられるのも時間の問題だよな……」
追いつかれれば間違いなくやられるだろう。
「……やるしかない」
即座に決断する。
俺は強くならなくちゃいけない。
こんな奴に負けているようじゃ強くなれないと思う。勝たないと!
「【ウォーター】」
手から水を出し、攻撃する。
当たったもののやはり効いていないようだった。
だが、俺の目的は注意を俺だけに絞らすことだ。
「行くぞ!」
「え? ちょっと?」
サクヤをゆっくりとその場でおろして奴の方に走って行く。
「当たんねーよ。そんな攻撃!」
もちろん速いままだ。
奴の遅い攻撃を避けていく。
まあ、図体がデカいから足が速かっただけなのだろう。避けるのは案外らくだ。
「俺が今一番火力を出せる技をお前にお見舞いしてやる」
奴の足をすり抜け、腹の下の方に入る。
この技は前から試してみようと思っていた。
「超至近距離【エアー】」
右手で空気弾を放つ。
威力は絶大なはずだ。
しかし。
ぐあああああああああああああああああああおおおん!
「ぐ……」
体重をかけ、俺を押しつぶそうとして来た。
なんでだ。これでもダメなのかよ。
「ああああうぅぅ……」
力は相手の方が圧倒的に強い。どんどん押しつぶされていく。
「……なら、これで終わりだ! 【エアー】」
左手の方でも空気弾を放つ。
「ふっっとべえええええええ!」
そう叫ぶと爆発音が響き渡った。
空気弾が俺の攻撃で圧迫され、爆発したのだろう。
奴は空中を舞い、そして落ちた。
「……はぁはぁ。今度こそ終わったか」
全く動かない。起き上がる気配はなかった。
倒せたらしい。
「……ごい。凄いわ! やっつけた!!」
「……サクヤ」
サクヤが俺の方に向かって走ってくる。
何事も怪我することなく勝てた。
本当に良かった。安心した。
「私だけじゃなくてレンも強くなっていたのね……私ももっと強くならないと!」
「ははは……」
俺は疲れ果て、そのまま倒れた。
「……ねえ、これご飯にして食べましょうよ」
「……食べないから!」
俺は寝っ転がりながらそう突っ込んだ。
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