① スピーカースキルと出会う。
「ではこれより、スキル顕現の儀を行う」
その言葉を聞いて、今年五歳を迎える子共たちは緊張した様子を見せていた。
――その中の一人に、のちにスピーカー令嬢だとか、スピーカーの悪魔だとか言われるようになるランセット・ベーデーの姿もあった。もちろん、この時の彼女はそんな未来を当然知らない。
ランセットはその緑色の瞳を不安そうに揺らしていた。
というのも、五歳の時に分かるその自身のスキルは人生を左右するものである。
ランセットはベーデー公爵家の娘として、有益なスキルを手に入れたいとそう思っていたのだ。
(どんなスキルが手に入るかしら……。どんなスキルでもお父様たちは問題ないって言ってくれていたけれども、それでも……やっぱり家のためになるスキルが欲しいわ)
緊張した面立ちのランセットは、現在かわいらしい藍色のドレスを身に纏っている。
この場にはランセットと同じ年の子供が沢山いるが、ランセットが一番目立っていた。ちなみにだが、スキルの顕現の儀式に関してはその地域ごとに神殿か教会でおこなわれている。
それは彼女がその土地の領主の娘であるからだ。それでいてランセットは聡明な少女として有名だった。そんなランセットだからこそ、きっと素晴らしいスキルが手に入るはずだと思われている。
ランセットが手にするのは、どんなスキルだろうかとそんな風に皆がささやきあっている。
――ランセットが素敵なスキルを手に入れるはずだと、それを当たり前のように周りは認識している。
(……その期待が恐ろしいわ。もし私が、周りが思うようなスキルじゃなければ)
小さなランセットは、そんな風に不安な気持ちになってしまっていた。
期待されることというのは、重圧がかかるものである。
まだ五歳のランセットは、自分のスキルが何であるかという楽しみよりも、その期待に対する重さを感じていたのだ。
だけれども、領主の娘としてその不安を外に表に出さないようにはしていた。
凛とした表情で前を向くランセットは、順番を待っていた。公爵令嬢なので、権力を使えばすぐにスキルを見てもらうことだってできる。しかし事前に並んでいるものもいるので、ランセットは順番をちゃんと守っている。
身体能力の関連のスキルだったり、魔法のようなスキルだったり、言語のスキルだったり――本当に世の中には様々なスキルが存在している。そのスキルの中には本当に使い勝手が分からないものだって沢山あるのである。
ランセットはただ願っている。
――自分のスキルがどうか、使えるスキルでありますようにと。
「では、次はランセット・ベーデー様」
ランセットは名を呼ばれる。
緊張した面立ちで、足を進める。
そしてにこにこと笑い、ランセットのスキルに期待した様子の神官の視線を受け、心臓をバクバクとさせる。
そのスキル顕現の儀は、特別な道具が使用される。
その魔法具がどういう仕組みで人のスキルを認識しているかはランセットは知らない。本人さえも知らないスキルをどうやって認識させているかなども知らない。神様の力が使われているとか一説には囁かれているらしい。
ランセットはその球体の魔法具に、手を伸ばす。
心臓がバクバクしているランセットは、神官の言葉を待つ。
「ランセット様のスキルは……え?」
ランセットは、神官の反応にびくりと身体を震わせる。神官はランセットのその反応を見て、慌てたように口を開いた。
「ランセット様のスキルは……『スピーカー』です」
「すぴーかー??」
その聞きなれない単語に、ランセットは聞き返す。
そのスキルはどういったものなのだろうかと、神官を見る。しかし神官は首を振った。
「申し訳ありません。ランセット様、私はこの『スピーカー』というスキルを存じあげません。神殿内に蓄積されている情報にあるかどうか……それは調べてランセット様にお伝えしますね」
ランセットはそう言われて不安になった。
『スピーカー』という、どういうものか分からないスキル。調べてくれるとのことだが、本当にそのスキルの概要が分かるか分からない。
……ランセットは、この『スピーカー』スキルは意味の分からない役に立たないものではないかと思った。
家族はどんなスキルでも気にしない、使い方を考えようと言われたものの現状よくわかっていない。
ひとまず屋敷に戻りスキルを使ってみようと念じたところ、よくわからない箱のようなものと小さな棒みたいなものが現れただけである。それが何なのか、まだランセットはよくわかっていない。
そしてその後、ランセットは同じスキルを手にした者は神殿の記録には居ないことを知り、頭を抱えるのだった。
のちにスピーカー令嬢と呼ばれるランセットが、自らのスキルに出会った瞬間だった。
書きたいなと思い、ランセットがスピーカースキルを使いこなすまでの道のりです。