⑦スピーカー令嬢と、辺境伯
ランセットはルジャックの言葉に驚いたものの、一先ずベーデー公爵家の別邸へとたどり着いた。王太子の婚約者という立場にあったランセットはああいう風に真っ直ぐに嫁になるかなどと聞かれたのは初めてであった。
あと『スピーカー』スキルを思いっきり使ったランセットを見て、恐怖したり引いたりしていないルジャックに関心を持っているというのもある。
というわけで、
「辺境伯様、わたくしの返事は一旦保留にしますわ! わたくしはわたくしの『スピーカー』スキルを受け入れてくださる辺境伯様に興味はありますが、婚約破棄されたばかりですぐに選べませんわ!」
とランセットは言い放った。
ルジャックもそれを受け入れた。そしてルジャックは公爵家の別邸にたどり着いてから、ルジャックはランセットの『スピーカー』スキルを使わせてもらった。
配下の者に何も言わずにやってきたルジャックはベーデー公爵家の別邸にいることやランセットに嫁にならないか問いかけたことなど報告していた。本人の目の前でそういう情報を口にしているので、ランセットは何とも言えない気持ちになっていた。
「ベーデー嬢は『スピーカー』スキルを戦闘でも使っているのだろう。俺は是非ともそれを使って戦闘訓練をしたい!」
「あら、わたくしの『スピーカー』は簡単に避けられるものではありませんわよ?」
「だからこそ、戦闘訓練に良いのだろう!!」
屋敷でランセットとルジャックは会話を交わす。
どうやらルジャックは『スピーカー』スキルで戦闘訓練をしたいと思っているようだ。パーティー会場で『スピーカー』スキルの恐ろしさは存分に理解しているようだが、理解した上でそんな風ににこにこしているらしい。
ランセットは不思議な人だなと思いながらルジャックのことを見ていた。
「いいでしょう! わたくしの『スピーカー』が最強だということを是非とも痛感させてさしあげましょう!!」
「いいだろう!!」
「お嬢様、辺境伯様! お遊びになるのはいいですけど、遅くまではしないでくださいませね。あと近所には迷惑が掛からない程度でお願いします!」
「わかっているわ!」
「了解した!」
すっかりランセットの『スピーカー』スキルに慣れ切っている侍女は、ランセットとルジャックに慣れた様子でそう言い切った。
そしてランセットとルジャックは、ベーデー公爵家の別邸の庭に出る。
「では、覚悟してくださいませ!」
「ははは、いいだろう!!」
その場に舞うのは、沢山のスピーカー。
大きさはさまざまである。大きいものから小さいものまである。巨大なものなら一般人がぶつかれば大惨事なものもあるが、『頑丈』のスキルを持っているルジャックなので問題がないと思っているのかもしれない。
ドレス姿で不敵に笑いながらスピーカーを操るランセット。
スピーカーを次々と向けられても楽しそうに笑っているルジャック。
なんとも妙な光景である。ベーデー公爵家の鍛えられた使用人たちはそういうことを見ても動じることはない。
「おーほほほっ、わたくしのスピーカーは最強なのですわ!」
「くそっ、避けられなかった!」
最終的には高笑いをして満足気なランセットと、スピーカーを避けられなかったため悔しそうなルジャックの姿があった。ちなみに避けられなかったとはいっても二つほどのスピーカーだけである。ほとんど避けたというのだから脅威だろう。
そしてルジャックはその日は別邸に泊ったが、翌日には王都にある辺境伯の別邸に戻っていった。とはいえ、ランセットに求婚している身なので、王都にいるうちに何度もランセットに会いに来ることになった。
その間に国王夫妻が戻ってくる前になんとかしようとしているのか王太子の手の者が屋敷を訪れることがあったが追い返されていた。
「おー! その『スピーカー』にはそんな使い方があるのか」
「そうですわよ! わたくしの『スピーカー』はあらゆる可能性を内包していますもの」
ランセットは最早婚約破棄のことは忘れていると言わんばかりにルジャックと『スピーカー』スキルで戯れるのに忙しいのである。本人にとってもベーデー公爵家の使用人たちにとってもすっかり婚約破棄されたことは過去になっていた。
慌てて戻ってきた国王夫妻との会話もランセットは簡潔に済ませていた。慰謝料をがっぽりもらうという目標と、トモンを王太子から外すというランセットの目標は早急に叶えられた。
それもそのはずである。国王に関してはランセットのスキルの恐ろしさを十分に知っていた。ランセットを敵に回したらありとあらゆる秘密を国内外に暴露される可能性もあり、なおかつ物理的に『スピーカー』スキルで攻撃される恐れもある。
そういう恐ろしい令嬢を敵に回す気は国王夫妻には全くなかった。
次のパーティーが行われた時にはすっかり王太子の座は、第二王子に受け渡されていた。だがしかし、王太子であったトモンのことより、パーティーで盛大にやらかしていたランセットとルジャックのことのほうが噂に上がっているのであった。
ちなみにランセットの『スピーカー』スキルの恐ろしさを理解したものは、パーティーであまりランセットに近づいてくることはなかった。公爵家令嬢で、『スピーカー』という有能なスキルを持っているという点で、利点も多いが怖さの方が勝っているらしい。
「わたくしの『スピーカー』を恐れるとは、良い心がけですわ! わたくしを娶るというのならばあのトモン様のようなぼんくらではなく、わたくしの『スピーカー』を受け入れてくれる方がいいものですわ!」
そんなことを言い放っていたランセットがルジャックからの求婚を受け入れるのはそれからしばらく経った日のことである。
婚約し、結婚した後も『スピーカー』スキルを予想もしない方法で行使し続け、『スピーカー令嬢』から『スピーカー夫人』などと呼び名を変えていくことになるのはまた別の話である。
「わたくしのスピーカー拘束術の前では、盗賊など無力ですわ!」
今日も今日とて、ランセットは『スピーカー』スキルを行使して楽しそうに笑っているのであった。その隣には、ルジャックがいるのであった。
一旦ここで終わりです。
元々『スピーカー令嬢』という単語を思いついたので、想像してみたら面白そうなのでと書いてみた短めの話になります。
婚約破棄される→スピーカースキルを行使する→辺境伯出現みたいなざっくりとしたストーリーで書き始めたものですが、こういう変わったスキルをかわった使い方する登場人物が好きなので書いてて楽しかったです。
婚約者になった後の話とか、結婚後とか、『スピーカー』スキルを行使して思う存分人生を楽しんでいるランセットは書くのが楽しそうなので気が向いたら続きを書くかもしれません。
『スピーカー吊り』とか『スピーカー包囲網』とか謎単語が思いついているので、色々単語考えるのも面白そうです。
ではここまで読んでいただきありがとうございます。
少しでも何か感じていただければ嬉しいです。
2021年9月23日 池中織奈