プロローグ2
難しい
授業が終わり、僕は家に帰った。
「ただいま、帰りました。」
お帰りなさいませ。グレーの髪が決まっている。執事長が出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ。お早いご帰宅で。」
所作がキリッとしている。出来る男である。
「父さんたちは、今日は戻りますか?」
歩いていた執事長が止まり、恭しく応える。
「旦那様方は遅くなるそうです。」
父は、とても忙しくしているみたいだった。
「帰ってきたら、話があると伝えておいてくれるかな?
大事な用事なんだ。」
「畏まりました。旦那様にそのようにお伝えいたします。晩御飯はどのようになさいますか?」
「部屋でとります。持ってくるように伝えておいてください。」
僕は執事長背を向けて、部屋へと歩き出した。
部屋に入ると、真っ先に目に入るのが三人の人物が書かれた絵だった。
額縁に入ったその絵の三人は、笑顔だった。
そこに描かれているのは、僕と、僕の両親だ。
僕の家は元々裕福で、文句の付け所の無い様な家だ。
なにせ、公爵家なのだから。
僕は、公爵家の四男として生まれた。
両親は、四人の息子、それぞれに求めるものが違った。
長男には、後継になるための教養。次男には王家に婿入りするための品格。三男には、もしもに備える為の器用さ。そして、四男の僕には、ただ、愛される息子である事を求めた。
両親は、貴族であると同時に人間だった。
貴族としての責務を果たすと同時に、普通の幸せな家庭を欲した。その象徴が、僕だった。
しかし、最近は両親共に帰りが遅く、食事を共に取ることも無くなっている。帰ってきても、両親はひどく疲れた顔をして、楽しそうに笑う。
僕はそれを、見るのが辛く、部屋で多くの時間を潰している。
僕はベットに入り、目を閉じた。
コンコンという、ノックの音で目を覚ました。
扉の外側から、
「旦那様がおかえりです。すぐに書斎の方へ。とのことです。」
執事長が呼びにきてくれた様だ。
「すぐに行くよ。先に行って、お茶の用意をしておいてください。」
足音が遠ざかっていった。
僕は、ボサボサになった髪を整え、衣服を正し、部屋を出た。
しばらく歩くと、一際豪華な扉がある。
その扉をノックし、中からの返事を待つ。
「入ってこい。」
ずっしりとした、重たく、低い声が中から聞こえてくる。
「失礼します。」
なかにはいると、黒い髪に、やつれた顔の父親が椅子に腰掛けていた。
艶のあった髪や、顔には、少し前まであった覇気が消え失せていた。
「見ない間に、また少し、成長したか。
父さんを越えるのも結構近いかも知れないな。」
その声にも、覇気はともっていなかった。
「父上、もうすぐ、選抜が始まります。
必ず、上り詰めますので、どうか、その時は、母様と、一緒に、休暇を取り、見に来られてください。」
父は、複雑そうな表情を浮かべた。
「無理のない範疇で努力せよ。」
父上は、そう返した。
「失礼します。」
僕は部屋を後にした。
父上は、僕を思っていってくれたのだろうが、僕には、なにか他の意味がある気がしてならなかった。
できたら、次話もご覧いただければ幸いです。