漫才「警察官と泥棒」
漫才・コント33作目です。よろしくお願いいたします。
駅前広場。二人の男性がすれ違う。一方が振り返って声をかける。
警察官「よう、泥棒じゃないか」
もう一方が振り向く。
泥 棒「だ、旦那。人聞きが悪いじゃないですか。ちゃんと名前で呼んでくださいよ」
警察官「厽山〆男、だったかな」
泥 棒「そうですよ。まったくもう。通行人がみんな振り向いちゃったじゃないですか」
警察官「お前の困った顔、けっさくだったよ、ははは」
泥 棒「こっちは笑えませんよ。おー、冷や汗かいた」
警察官「刑務所からは、いつ出てきたんだ?」
泥 棒「今日の朝です」
警察官「脱獄してきたんだろ?」
泥 棒「ちゃんと正面から出てきましたよ」
警察官「なんだよ、面白みのない奴だなあ」
泥 棒「すみませんね、つまらない奴で」
警察官「まあ、出てきちゃったものはしょうがないや。それで、ヤサ(家)はもうきまってるのか?」
泥 棒「それがまだなんですよ」
警察官「だったら、中に戻ったほうがいいんじゃないか?」
泥 棒「せっかく出てきたんですよ、戻るのは勘弁してください」
警察官「ははーん、わかったぞ。空き巣に入って寝泊まりするつもりだな?」
泥 棒「しませんよ。しばらくはビジネスホテルかなんかを利用しようかと」
警察官「ホテル? お前を泊めてくれるところなんかないだろう」
泥 棒「やっぱり旦那もそう思います? そうなんですよねえ。ホテル、民宿、ほとんどのところには盗みに入ってしまいましたからねえ」
警察官「入ったことのないホテルを見つけて、当たってみるしかないだろうな」
泥 棒「金持ちの集まりそうなホテル、まだ残っていたかなあ」
警察官「おいおい、まだ懲りてないのか?」
泥 棒「いやだなあ、冗談に決まってるじゃないですか。さっき驚かされたお返しです」
警察官「余裕見せてくれるじゃないか。困っているようには見えなかったぞ」
泥 棒「困ってますって。助けてくださいよ。助けてくれなきゃ、旦那の家に泊まりに行きますよ」
警察官「構わないけど、泊り賃は有り金全部だからな」
泥 棒「ひどい。泥棒から全財産ふんだくろうっていうんですか?」
警察官「タダで泊まりたけりゃ、留置場にいくんだな。なんか悪いことするか? 俺が目撃者になってやるぞ」
泥 棒「旦那あ、ちゃんと考えてくださいよ」
警察官「新築のホテルを探してみたらどうだ? お前の面は割れていないんじゃないかな」
泥 棒「なるほど。名前はどうしましょう? 宿泊者名簿に署名しなきゃならんでしょ」
警察官「そうだなあ、ブラックリストが出回っているかもしれないからなあ」
泥 棒「偽名を使って泊まろうかな」
警察官「それじゃあ昔のお前とおんなじだ」
泥 棒「そうですよねえ。・・・そうだ、旦那の名前、貸してもらえませんかね?」
警察官「俺の? 俺のは嫌だよ。そうだ、こうしよう。署長の名前を使え、教えてやるからさ」
泥 棒「いいんですか?」
警察官「さっき署長に呼び出されてさあ、減給処分をくらっちまったんだよ。仕返ししなきゃと思っていたところなんだ。遠慮せずに名前使っていいからさ、ホテルで大いに暴れてくれ」
署長の名前を書いたメモを渡す。
泥 棒「ありがとうございます、これでひと安心だ」
警察官「制服貸してやるからさ、それで万全だろう」
泥 棒「助かります」
警察官「そうだ、拳銃も持っていくか?」
泥 棒「それは遠慮しておきます」
泥棒の肩に手をやって、
警察官「そうかあ、おまえが出所したとはなあ。おめでとさん」
泥 棒「ありがとうございます。その節は大変お世話になりました」
警察官「たしか、刑期は二年だったかな」
泥 棒「一度脱獄に失敗しちゃいましてね。それで三年に延ばされちゃったんですよ、ははは」
警察官「なんだ、ちゃんと期待に応えてくれてたんじゃないの。よくやった」
泥 棒「ありがとうございます」
警察官「少し休んだら、あとは仕事探しだな」
泥 棒「はい、頑張ります」
警察官「あてはあるのか?」
泥 棒「いえ。とりあえず、自分の経験を活かせる仕事をしたいなあとは思っているんですが」
警察官「仕事はなんだったっけか?」
泥 棒「泥棒ですが」
警察官「泥棒になる前だよ」
泥 棒「詐欺師です」
警察官「その前は?」
泥 棒「ペテン師です」
警察官「おんなじじゃないのか? その前はなにしてたんだ?」
泥 棒「恐喝師」
警察官「出てくる出てくる。その前は?」
泥 棒「横領師」
警察官「なんでおしりに師をくっつけるんだ?」
泥 棒「プロ職人でしたからね、職業名にはこだわりがありまして」
警察官「なるほどね。まあ、なんにしろ、立派な履歴書が書けそうだなあ」
泥 棒「いや、お恥ずかしい」
顔を赤らめる。
警察官「でもさあ、こんだけいろんな悪さをやってたら、刑期が二年っていうのは短かすぎやしないか? 白状してない事件がいっぱいあったんじゃないのか?」
泥 棒「そうやって、昔のことを蒸し返そうとするのは、警察の悪い癖ですよ。直してもらわなくちゃ」
警察官「悪くはないだろう。警察の仕事の大部分は、過去にあったことを調べることなんだしなあ、大事なんじゃないのかなあ」
泥 棒「とにかくですよ、とにかく、一人の人間が前を向いてやり直そうとしているんですから。後ろを振り返らずに応援してあげないと、ぐれちゃうかもしれませんよ」
警察官「なんかごまかされてるような気がするけどな」
泥 棒「立派な履歴書って言ったところで話が止まったままですよ。さあ、続きをお願いします」
警察官「お前はさあ、警察学校に行ったらいいんじゃないかと思ってさ」
泥 棒「ええ? どういうことです?」
警察官「履歴書を持っていけば、スカウトされると思うぞ」
泥 棒「なんででしょう?」
警察官「犯罪心理学とかを、警官に教えるんだよ」
泥 棒「へ?」
警察官「警察学校に、教官として就職したらどうかって言ってんの。犯罪全般のノウハウに詳しいんだろ」
泥 棒「まあ、プロですからね、しかも一流の」
胸を張る。
警察官「つかまっちゃったけどな」
泥 棒「しゅん」
警察官「まあ、なんにしろ、お前がめったにいない逸材だということに間違いはないんだ。罪滅ぼしとして、といっちゃあなんだが、警察の力になってはくれないかな」
泥 棒「わかりました。警察の方々を、いっぱしの泥棒にしたてあげてしんぜましょう」
読んでくださり、ありがとうございました。