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防具屋と白魔術師はどっちが幸せ? 後編

「分かりました、私……やっぱり白魔導士になります!」

「え!そっち?」


 思わずズッコケる。


「はい!みなみさんと話して気持ちがスッキリしました」

「叶わない夢かもしれないよ」

「そうかもしれません」

「失敗したら一文無しになるかも」

「これが私の生きる道です」


 PUFFYかよ……

 でもその声にはしっかりとした決意が感じられた。


「もう決めたんだね」

「はい!」

「もったいないけどなあ……でも、あんたの人生だ。好きにしたまえ」

「はい!ありがとうございました!」


 アリッサは何度も礼を言いながら電話を切る。


 番組終了後ブースを出て副調整室に入ると、エミリオがニヤニヤしながらこちらを見ている。


「良かったな、今日は高得点だ」


 こいつが褒めるなんて珍しい。


「どのくらい?」

「8ポイントだ。これで残り1000ポイント切ったぞ」


 相談者の人生に与えた幸福影響度がポイントとしてすぐに算出される。

 ポイントは10点満点で、相談者が幸せを感じれば感じるほどポイントが高くなる。


「それで、あの子はどうなったの?」

「ローゼン、話してやれ」

「えーとですねえ……」


 ローゼンちゃんは手持ちのタブレットを慌てて操作している。


「アリッサさんはその後無事白魔導士になって、ドラゴン討伐のメンバーに入りました」


 相談者のその後の人生が瞬時に分かるなんて、このスタジオの時間軸はいったいどうなっているのか。

 これも誰も教えてくれない。


「そして……最初の討伐の時に名誉の戦死を遂げました」

「え、どういうこと?アリッサすぐ死んじゃったの」

「はい、残念ながら……でもドラゴンは無事討伐できたそうです。最後に命がけでライフを復活させた勇者が無事ドラゴンをやっつけました」

「ポイント間違ってるんじゃないの?幸せにするどころか、殺しちゃってるじゃん、私」


 エミリオはあきれた顔でため息を吐く。


「分かってるようで分かってないな。テグジュペリの『人間の土地』読んだことないのか?お前の世界の小説だろ」


 こいつはホントなんでも知ってる……

 ロジタニア人の脳は私たちの100倍の記憶容量があるらしい。

 『人間の土地』か……なるほど……そういうことか。


「目的のために生き、そして死んだ……」

「死に値する目的を持てたってことは、すごい幸せなことじゃないのか」

「たとえ短い人生になっても?」

「幸せを感じるには必ずしも長い時間は必要ない」


 そうかもしれないけど……。


「続きいいですか?」


 ローゼンちゃんが話を続ける。


「エミリアさんが倒したのは過去にお兄さんを殺したドラゴンでした」

「え?お兄さんって、エミリアの?」

「はい。エミリアさんが10歳の時にドラゴン討伐に行って戦死しました」

「それであんなに白魔導士に……」

「どうしてもお兄さんの敵が討ちたかったんだと思います。そして、最後にその願いを叶えた」


 彼女は悲願を果たしたわけか……

 でも、私が話したことが原因で彼女は死んだ……


「……防具屋のままの方が幸せだったかもしれない」


 エミリオはまたため息を吐いた。


「それは、誰にもわからない。たらればの話は無意味だ」


 それでも、もっと何か、彼女に伝えられたんじゃないか、後悔が残る……


「それに最終的に決めたのは彼女自身だ。お前じゃない」

「……イヤな仕事だね、これ」

「辞めたければ、ポイントを溜めろ。そうすればお前は解放される」

「あと1,000ポイント近くもあるけどね」


 心配そうな顔でローゼンちゃんがこっちを見ている。


「みなみさんは頑張ってると思います」

「……」

「明日に備えてよく休んでください。あまり考えすぎないで」

「……ありがとう」


 ローゼンちゃんにはいつも癒される。

 思わずギュッと抱きしめる。


「ちょっと、みなみさん」


 ローゼンちゃんは私の腕から逃れようとバタバタしている。

 ふんわりと香る森の匂いが、私を癒してくれる。


 自分の部屋に戻って、ベッドに横たわったが、全然眠くならない。

 ラジオでは偉そうに喋っているけど、私に幸せの何が分かっているのか。

 結局ただの自己満足で、人の役になんか立ってないんじゃないか。

 そんなことばかりが頭を回る。


 この世界に来てからもう2年か……

 あの時、エミリオに出会わなかったら、ここに来ることはなかった。

 あの疫病神め。

 おかげでここにずっと閉じ込められている。

 この世界が何なのかろくに説明もないまま、毎日生放送を続けさせられている。

 とにかく早くポイントを溜めないと、そうすれば自由になれる。

 それまでは何も考えず、ただ頑張るしかない。

 そんなことを考えているうちに、ようやく眠りに落ちることができた。

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