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リターナーズ/異世界よりの帰還者たち  作者: まさひろ
第2章 異世界転移帰還者問題
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第7話 再会

「お兄ちゃん!」

(かえで)……」


 俺の妹――工藤楓(くどう かえで)は、そう言ってベッドに寝ている俺に抱き付いて来る。

 久しぶり……、本当に久しぶりの再会だった。


 ゴクリとつばを飲み込んだ後、慎重に、慎重に、繊細なガラス細工を触るように、柔らかく(かえで)の背中に腕を廻す。

 俺の力は重機並だ、ぞんざいに扱えば人間程度容易く引き裂いてしまうだろう。


「まったく! 何処に行ってたのよ一か月も!」

「……え?」


 一か月?

 あの世界で過ごしたのは少なくとも4カ月以上の筈だ。

 あの世界とこの世界では時間の流れが違うのか?


「なぁ(かえで)、今日は何月何日だ?」

「10月23日よ。父さんも母さんも凄く心配してたんだから!」


 10月23日……確か俺が少女を助けた時から一か月ほどだ。


「まぁ……そう言う事もあるのか……」


 あの星では自転が短かったり、転移した時に時空の流れが歪んだり、物理学やSFにさほど造詣が深いわけではないのでよく分からんが、無い話では無いのだろう。


「なにが、そう言う事よ」


 ()目の端に浮かんだ涙を、ごしごしと袖で拭きながら、うっすらと笑みを浮かべる。


「あーまー、ごめんな?」

「ごめんじゃないわよ、まったく!」


 ようやく落ち着いて来たのか、(かえで)は俺の胸から離れると、腰に手をあてながら俺を指さしそう言った。


「それで? 放蕩お兄ちゃんは、今まで一体どこをほっつき歩いてたの?」

「あーうー、まぁ色々だ」


 異世界に行って化け物と殺し合いの日々でした、なんて言っても信じちゃもらえないだろう。

 その後、今までの時間を埋めるように、(かえで)と長いおしゃべりをした。

 家族の事、友人たちの事。

 俺が助けた少女が家を訪ねて来た事もあったとか。


 そうこうしている内に、病室のドアがノックされた。


「父さん、母さん!」


 久しぶりに見る両親の顔は、記憶にある物よりほんの少しやつれたものだった。

 まぁ、息子が一か月も行方不明だったんだ、それも無理はないだろう。


「おお、隆一(りゅういち)、お前が無事で何よりだ」


 父さんはそう言って、一瞬困ったような顔をして、優しい笑顔を浮かべた。


「あっああ、心配かけてごめんね」

「いいの、いいのよ、貴方が帰ってくれただけで母さんは満足だわ」


 母さんは目に浮かんだ涙をハンカチで抑えながらそう言った。

 俺は、ふたりの様子に何か違和感を覚えながらも、今までの留守を詫びる。


 とりとめのない話がしばらく続いた後、父さんがこう切り出した。


「すこし、大事な話があるんだ。(かえで)は席を外しなさい」


 父さんの真剣な表情に、(かえで)は少しむくれながらも母さんに連れられ病室から出て行った。


 父さんはふたりが出て行ったのを確かめると、カバンから一枚の新聞を取り出した。


「……これは?」

「いいから目を通してみろ、隆一(りゅういち)


 訳も分からず、その新聞に目を通してみる。

 すると、新聞の一面にこんな事が書いてあった。


『帰還者対策協議会発足、国連にて採択』


「帰還者対策協議会?」


 なんだろう、俺がいない間にどこかで大きな戦争でもあって、その被害者に関する事とかなんだろうか?

 俺は記事本文へと目を進める。

 するとそこにはこんな事が書いてあった。


『昨今世界規模の社会問題となっている異世界からの帰還者にまつわる諸問題について――』


「異世界!?」


 俺はつい声を荒げる。俺が目を通しているのは新聞の一面だ、新聞の後ろに掲載されている連載小説なんかじゃない。

 異世界なんて荒唐無稽な単語は、まかり間違っても新聞の一面を飾るような話題では無い。


「なぁ隆一(りゅういち)、お前は今まで、何処で何をしていたんだ?」


 先ほどの他愛のない雑談では出てこなかった核心に、父さんは切り込んできた。


「その記事をよく読めば分かる事だが、今世界の話題と言えば異世界からの帰還者だ。彼らはこの世界にかつてない混乱を巻き起こしている」

「……どういうことなの?」


 背筋に冷たいものを流しながら、俺は恐る恐るそう尋ねる。


「彼らは、まるでアニメやゲームの登場人物の様に超常の力を振る舞い、自分勝手、思うままに行動する。

 器物損壊、金品略奪、はては……殺人まで」


 父さんは悲痛な顔でそう言った。

 父さんの職業は警察官だ、今言ったことは正に現場であった事なんだろう。


「俺は……」

「気絶したお前の精密検査の為に、病院では色々と良くしてもらった」


 俺の言葉が終わる前に、父さんが話を続ける。


「……異常なんだ」

「異常?」

「ああ、MRI検査をしたところ、お前には未知の臓器が確認された。メッケル憩室などの遺損残器官では無い、医学書のどのページを紐解いても確認できない、全くの未知の器官だ」

「未知の……器官」

「それだけでは、ただの先天性の奇形というだけで話が住むかもしれない。

 だが、重要なのはそんな事じゃない」

「……」

「針が……通らないんだ」

「針が?」

「ああ、血液検査を行うため注射針を刺したが、お前の皮膚は貫けなかったそうだ」

「……」


 レベルアップの弊害だ。

 俺は筋力が上昇しただけでは無く、防御力も上昇していたのだ。

 身に覚えが無いわけでは無い。化け物たちとの最後の戦い、俺は小型の化け物の攻撃に対してかすり傷一つ負わなかった。

 岩を砕き、大地を切り裂く奴らの攻撃に比べれば、注射針のひとつやふたつ、まさに蚊に刺された程度だろう。

 もっとも、今の体じゃ蚊に刺されることすらなさそうだが。


「俺は……行ってたよ、異世界に」


 ここまでの異常が確認されている以上、嘘をついても仕方がない。謎の臓器については心当たりはないが、皮膚の硬さ、筋力の激増については自明の事だ。


「だけど! 犯罪なんかに手を染めるなんて思っちゃいない!」


 折角生きてこの世界に帰って来れたんだ。そんな下らないことで、自分の道を閉ざしたくない。


「ああ、もちろんだ隆一(りゅういち)


 父さんは優しく微笑んでれる。


「父さんはお前をそんな下らない人間に育てた覚えはない」


 うちの家庭環境は良好なものだと思う。仕事が忙しい父さんに反抗期のひとつやふたつあったけど、それは中学生の時の話だ。

 あのコロニーの様に、家族仲睦まじくやっていた。


「だがな、隆一(りゅういち)


 父さんはそう言って口を濁す。


「今現在問題になっている帰還者たちだが、その大半はいわゆるニートや引きこもりといったものに分類される人間が多い」

「……それが?」

「彼らは……この世界を恨んでいる、あるいは絶望している」


 まぁ、それはそうだろう。この世界に満足している様な人間が引きこもりになる訳がない。様々な理由で正規のルートから脱落してしまったのが彼らだ。


「彼らが、この現実世界に帰還して何を思うか分かるか?」


 帰還して何を思うか。

 俺の場合は、あの地獄のような世界から帰還したい。それだけを糧に頑張って来た。

 だが、全ての異世界が、あんな地獄のようなところではないだろう。

 剣と魔法のファンタジーだったり、夢と光のSF世界だったり、男女逆転の過去世界だったり。

 数えきれないほどに、色々な世界があるだろう。

 現代社会に適応できない人間がそんな世界に行ったら……。


「帰り……たくない?」


 のではないだろうか。もちろん、行った世界によるだろうが。


「そうだ」


 父さんは重々しくそう頷いた。

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