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第2話 ようこそ穴倉へ

「えっ!? 貴方単独であの化け物と戦ってきたの!?」


 エミと名乗ったこのコロニーのリーダーらしきその女性に、今まで俺がどうやって生き抜いて来たのかを教えたら、それはもう大層驚かれた。

 どうやら、あの化け物は人間が相手にしていい部類の生き物ではないとのことだ。

 そうはいっても、他には何にもないこの大地、俺にはあれを狩って命を繋いでいくしか方法が無かったのだ。


 では、このコロニーの住人はいったい何を食って生きているのかというと。


「うん! うまい!」


 俺は、目の前に並べられたネズミかモグラらしき生物の干物に食らいつく。干物といえども、あの化け物に比べたら国産牛肉A5ランクの肉質だ、何と言ってもあの長年放置したゴミ箱みたいな臭みが無いのがいい。


 久しぶり、いや、初めての客人という事で、大盤振る舞いのメニューだそうだ。食堂にはこのコロニー中の人間が集まってきても物珍しそうに俺の顔を除いている。

 このコロニーの総勢はわずかに23人、子供から大人まで様々だが老人の姿は無い。それは現実世界とは違い、この世界での平均寿命の著しい低下を意味しているのだろう。


「それで、人類は敗北したって……」


 俺はデザートの幼虫に下積みを打ちつつそう尋ねる。


「言い伝えよ」彼女はそう前置きしてから口を開いた。


 今から数十年、あるいは数百年前、人類はこの星を支配していたそうだ。

 だが、ある日突然現れた奴らによって、その勢力図は瞬きの間に奪われた。

 築き上げた文明社会は奴らによって文字通り食い滅ばされ、僅かに残った人類は、奴らの目から逃れるために、こうしてモグラのように穴倉の中に引きこもっているという事だ。


「なるほど、地下にいたのか。そりゃあ何処探しても見つけられない筈だ」


 俺の視線は地平線ばかりを向いていた。だが灯台下暗し、探し物は地面の下にあったのだ。


「私には貴方の方が驚きよ」


 彼女はそう言って肩をすくめる。

 自己紹介の際に話した俺の半生だが、現実世界での事については彼女たちにとって理解不能な事ばかりだったようだ。

 こっちに来てからの事にはようやく頷いてくれたが、それでもかなり危ない橋を渡っていたらしい。


「たとえ一対一でも、あの化け物と相対するなんてこと考えたら自殺したくなるわね」


 彼女の発言に、周りの人たちも苦笑いで頷いた。どうやら俺はとんでもない事をしでかしていたらしい。


「それに、お前さんはこんなものを振り回していたんだろう?」


 エミさんの隣にいた男性が、俺の相棒を両手で抱えながらそう言った。


「何とか持ち上げる事は可能だが、とてもじゃないがこんなもの持って戦えやしない、どう考えても重荷でしかない」


 ふーむ。比較対象が無かったので分からなかったが、どうやら俺の筋力は人並み外れたものになっていたらしい。

 パッと見はそう言う男性の方が筋肉モリモリのマッチョマンなのだが、よく分からないものだ。


「チートスキル……なのか?」


 極々シンプルな筋力増加スキルが発動しているのか、あるいはこの世界の重力的なものが地球より低くて相対的に俺が怪力キャラになっているとか?

 まぁ、どちらにしてもここは俺が元居た世界とは遠くかけ離れた場所という事だろう。


「やっぱり、異世界転移って奴なのかな……」


 しかもとびっきりのハードモード。神様って奴は俺をこんな所に連れて来て、一体何をさせたいというのだろうか?

 奴らを駆逐して、人類の栄光を取り戻すとか?

 ムリムリムリムリかたつむり、全力でNOと言わせてもらおう。

 全長20m近くの人型機動兵器でもあれば話は別だが、ちょっと力が強い程度のガキに、無限に湧き出すあいつらを何とかするなんて、不可能を通り越して笑い話だ。いや20mじゃ心細い、200mは欲しい所だ。


「まぁ、ともあれ長旅ごくろうさま。今日の所はゆっくりとお休みなさい」


 俺は彼女の言葉に従って、槍を抱いて地面にごろりと寝転がった。もうすっかり習慣になってしまい、そうしないと寝付けない体になったのだ。


 ★


 穴倉にも朝は来る。

 うっすらとした朝日のおこぼれが、岩の隙間から差し込んでくる。

 俺が薄闇に目を凝らすと、すでに朝の労働の真っ最中だった。


「あらおはよう、目が覚めたのね」


 エミさんは額にうっすらと汗を浮かばせながら俺にそう挨拶をしてくれた。


「いやすみません。なんせ数か月ぶりの熟睡なので」


 いつ、奴らに襲われるか分からない野宿生活とは違い、この世界に来て初めての屋根と壁のある場所での睡眠だ、気が緩んでも仕方がないという事だろう。

 俺は、目をこすりながら彼女に挨拶を返す。


「ふふ、構わないわよ、貴方は初めてのお客様だもの」

「いやいや、そう言う訳にもいきませんよ。なにか手伝えることは無いですか?」


 一宿一飯の恩という言葉もある。いきなりよそ様の家に転がり込んだのだ、何もせずにぼーっと座っているだけでは落ち着かない。


「そうねぇ、それじゃあ」


 彼女は意地悪そうにニヤリと笑って俺に仕事を振ってくれた。


 ★


「へー、結構工具が揃ってるんですねー」

「ああ、遺跡から取り出した一級品だ」


 倉庫には、ツルハシやバール、シャベルなどのごく単純な工具が転がっていた。

 ここの責任者であるハムドさんは、我が子を自慢する父親の様に、にかりと笑ってそう言った。

 ハムドさんはこの倉庫の責任者であり、また発掘の責任者でもあるという。

 彼の話によると、ここのコロニーの地下にはまだまだ手つかずの領域があり、生きのいい発掘要員が欲しかったという事だ。


「力仕事は得意みたいでしてね、頑張りますよ」


 まだまだ実感はわかないが、俺の力は人並み以上らしい。化け物相手に槍を振るうより、地面にツルハシを突き立てる方が色々な意味で建設的だろう、多分。

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