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またあの神様は…!
…失礼しました。わたくし、大天使でございます。
今はアイレという街に生まれ、リリア・イル・シュチェルという名前をもらい、人間界にいます。
神様はどうしているのかって?…それはわたくしが聞きたいです!
私たちは生まれた時から意識がありますので、近くに神様がいないか目視ですぐに確認ができます。
…案の定いませんでした。
なので、年の差で生まれるかもしれないと思ってずっとこの街で待つことにいたしました。
…待っているうちにわたくしが人間界に降りて19年も経ってしまいました。
―――あの神はまたわたくしを困らせようとしているのです。前まではなかなか記憶を思い出してもらえずに困りましたが、今回はまさかは離れて人間界に降りることになるなんて…どれだけわたくしを困らせたいのでしょうね、あの神様は!
ですがわたくしもこの19年を無駄に過ごしたわけではないのですよ?
実はわたくし、今回はいい家の娘に生まれることができまして、小さい頃から礼儀作法を仕込まれてきました。…何年もこの世界の大天使やっているのでこのくらいわかるんですけど。
そしてわたくしのこの見た目。この世界は金色の髪や青い目の者は魔力が強いのですが、それに見事に一致しているものですから、魔法の勉強もバッチリさせてもらえました。
昔降りて来た時は神様を行動不能にさせることでキッチリお勉強していただけるとと思って、攻撃魔法を鍛え上げたのですが、神様があまりにも強くて結局使い物になりませんでしたので、今回は回復などの支援系の魔法をひたすら勉強しました。神様が今回は真面目にお勉強してくださると言っていましたので、それの助けになるかなと。そのせいで街では聖女と呼ばれるまでになったのですが、肝心の神様がいないものですからそんな呼び名など意味が無いのです。
そうでした、この世界についてまだお話していませんでしたよね。
この世界は日常的に魔法が使われている世界です。料理をしたり、明かりをつけたりするような簡単な魔法なら誰でも使うことができまして、使えない人はほとんどいません。但し、高度な魔法を使うにはそれに値する魔力を持たなくては使うことはできないのです。強い魔力を持つものほどこの世界において有利な位置に立つことができるのです。高度な魔法を使えて何になると?…それは後々説明いたします。
そしてこの世界は絶対的な最低位と最高位があります。最高位の者は神の祝福が与えられた者として『神の贈り物』と呼ばれています。最高級の魔力を持つのでとても大切に扱われ、将来は王都で最高位の魔法使いとして宮廷で活躍することになるのが約束されていますね。共通して見た目が白髪の赤い瞳で、神と同じ特徴を持っているのでわたくしの探す神様もどこかで大切に育てられていることでしょう。
最低位は魔法を使えない者なのですが…まぁ、後ほど。どちらも滅多に生まれてきませんので見かけることが奇跡でしょう。
なので神様を見つけるのは簡単だと思っておりました、『神の贈り物』が現れれば国中大騒ぎですからね。田舎の方で生まれてしまうとその事を知っている人が少なく見つかりずらいのですが…生まれて10年経つと存在証明書を得るために自ら王都に赴かなくてはいけないきまりがあるので見つかるでしょう。この街にも風のうわさで流れてくるはずなのです。
―――なのに神様は見つからない。
わたくしは痺れを切らしました。…ええ、もう待てません。
この街に神様は現れないと分かったので、見つけに行くことにいたします。見つけたら即刻記憶を思い出してもらい、今回こそしっかりお勉強していただかないと困るのです!
わたくしは旅に出ることにしました。そして街を出る日。
「行ってしまわれるのですか、聖女様!」
「…すみません。わたくしは多くの人を癒して差し上げたいのです。神が私にこう告げたのです、多くの者をその力で救えと。」
「でしたらどうか従者の一人や二人、連れて行って頂きたいのです!聖女様一人ではあまりにも心配で…最近は魔物が活性化していると噂になっていますよ。」
「この信託はわたくしに告げられたもの、それに誰かを巻き込むなんてことはいたしません。魔物に殺されてしまうならそれも運命、それを受け入れ、わたくしは旅立つのです。」
「あぁ、聖女様…!覚悟をお持ちなのですね…!」
「えぇ…。生半可な覚悟で言っておりませんよ。」
やっとここまでこぎつけたのです!
…まぁ、ここで聖女の名が邪魔になるとは思っていませんでした。わたくしがこの街を出ると言った途端、街中が反対したものですから。特にお母さまには必死で止められました、お見合い相手はどうするんだ、こんなに名乗りを挙げている人がいるのにーとか言ってましたが、わたくしの知ったことじゃありません。
わたくしは神様を早く見つけなければならないのですから!
「では、行ってまいります。街の皆様に神の祝福がありますように!ごきげんよう!」
「さようならー!聖女様ー!いつまでもお帰りをお待ちしていますよー!」
「絶対にお戻りになってくださいねー!」
街の人総出でお見送りされたものですからちょっと恥ずかしかったのですが、そんな感じでやっと街から出ることができ、神様を探す旅へ。
道中、『神の贈り物』について聞きながら旅をしましたが、その噂は全く流れていなかったのです。
そして旅に出て1年が経とうとしていたころ、ついにわたくしはある噂を耳にしたのでした。
噂の種は辺境のド田舎にあるそうで。
「ここがその村ですか…。」
イナ村。
ここは本当に田舎ですが昔から魔法に頼る場面も多く、魔法の技術が他の村や街より優れている人が多いそうです。そしてこの村には『神の祝福』であり、4年前に引退した宮廷魔法使い長様がいらっしゃって、ただでさえ森の奥の村なのにそのさらに奥でひっそりと暮らしているというのです。
…いかにも怪しいと思いませんか。
普通『神の祝福』ならそれを利用して王都で贅沢しているでしょう!それをしないなんて絶対に怪しい…―――神様がわたくしから逃げたくて必死に隠れているようにしか考えられないのです!
わたくしより先に生まれているという発想はあまりありませんでした。いつも私より年下か、同い年でしたし。それに神様はわたくしよりも後にここに来ているので、年上だとは考えなかったんです。神様なら何でもできるので確かにわたくしよりも何十年も先に生まれることもできますよね。
とりあえず村の人に話を聞いてみることにします。街や村に来たら聞き込みをするのは常識ですからね。
「ん?元宮廷魔法使い…?それってツァムナー様のことかな?四年前からやってきて週一回この村で魔法の先生をやってるんだよ。どうしてそんなこと聞くんだい?…もしかして貴方は宮廷のお使いかな?お嬢さん?」
「…失礼しました。わたくしはリリア・イル・シュチェル。アイレという街からきました。宮廷のお使いなんてそんな偉いものではありません。」
「でもお嬢さんからは強い魔力を感じるな、身なりもしっかりしてるし随分偉い身分なんだろう?―――そういえば今日はツァムナー様は来ない日じゃなかったかな?会いたいなら直接行くことをお勧めするよ。」
「そうですか、それでは道を教えていただけませんか?」
「お安い御用だ。えっとな、この道を…」
そのツァムナーという人の家までは結構時間がかかるようでした。大体2時間弱だそうです。そして道は複雑。うう、気が遠くなります…。道を教えてくれる親切な村人がいてくれて本当に良かったです、教えてもらってなかったら一日はかかっていたでしょう。
「ありがとうございました、このお礼は必ず。それでは。」
「気をつけてなー!」
わたくしは今日こそ神様に会うために頑張ります。
―――そしてリリアが行ってしばらく。
「…ツァムナー様!お待ちしておりました!」
「やぁ、一週間ぶりだねー。今日の講義はどこで開けばいい?」
「公園でお願いします、もう皆待ってるんじゃないでしょうね。一緒に行きましょう。―――そういえば、随分と身なりの良い女の子がツァムナー様を訪ねてきたんですよ。すれ違ったりしませんでしたか?」
「…?誰ともすれ違ってないけど…?」
「またツァムナー様を王都に帰らせようと企んでるやつかなと思って、今日は村には来ないって嘘ついて遠回りの道を教えましたよ。しかも行き先は空き家の方です。家に行ったらもぬけの殻だったら諦めて帰ってくれると思いましてね。帰るときも道が違うので彼女に会うことはないでしょうし、安心してください」
「…なんだって!?空き家に向かった!?その子はいつ行ったんだい!!」
「えっ…一時間位前ですけど…もしかしてお知り合いでしたか…?」
「…いつもなら感謝するけど今回はちょっとね!君はみんなに今日は僕が急用で来れなくなったって伝えておいてくれ、じゃ、よろしく!」
「はぁっ!?ちょ、ツァムナー様ーー!?」
「…これはちょっとまずいことになったなー、最近は誰も訪ねに来なくなったからって油断してたかも。強化魔法かけて走っても間に合うかどうか…くそっ、間に合ってくれよ…!」
この小説は大天使様の視点で書くことが多くなると思います。