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神様は忘れてしまった  作者: 蓮歌恋
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小さい頃から口癖のように言っていた言葉があった。

それはただ一言。


「帰りたい…。」


どこに行ってもその言葉を言っていたらしい。

旅行に行っても、母や父の実家に帰っても、家にいるときでさえ。

ボーっとしながら遠くを見つめて呟くそうだ。―――まるで、何か忘れてしまったことを思い出そうとしているように。


高校生になってある悩みがついに爆発してしまった。その悩みは自分が周りから浮いているということだった。そんなことで、と思う人は沢山いると思う。でも、僕の浮き具合は尋常じゃなかった。

まず僕の見た目が一番の原因だったように思う。アルビノだったため、髪の毛は艶やかで白く、綺麗な赤い瞳。顔は端整で美青年。アニメキャラがそのまま出てきたような見た目なのだ、浮かない訳がない。

そしてアルビノであるはずが不思議なことに体は丈夫だった。勉強も普通にできたから、まさに文武両道である。

―――言ってしまえばできないことなど無かった。それが、見た目のせいで元々遠かった周りとの距離をより一層遠くしてしまった。

そして両親も完璧な僕をかわいがってくれたが、行き過ぎていて居心地が悪いと感じてしまうのだ。

弟にそんな風な扱いはしないのに。


常に周りからの好奇の目線が刺さる、生きているだけで息が詰まるほど苦しい。


ここまで生きてこれたのは幼馴染の存在があったからだ。

彼女は何故か僕を特別に見ることは無かった。そして、僕が何かうっかりしていれば、彼女は必ず助けを入れてきた。…気持ち的には自分の補佐官のような感じだ。

…だが彼女はある日突然いなくなってしまった、失踪したのだ。―――真面目な彼女が失踪するなど信じられなかった。


彼女がいなくなってしまったら、僕はもうこの世界に一人ぼっちになってしまう。

もうわかっていた、ここは僕がいる場所ではないと。

でもどうしても思い出せなかった、僕が何なのか。



―――だから、自殺しようと思った。



≪間もなく二番線に準特急、××行が到着いたします。黄色い線の内側でお待ちください。≫


…母さん、父さん。ごめん、折角産んでくれたのに。愛情を注いでくれたのに。簡単に散らしてしまって。でもこれしかないんだ、僕が誰なのか思い出すには一番簡単な方法はこれだから。

ゆっくりと一歩ずつ確実に線路の方へ歩いていく。電車の音が近づいてくるが、僕に恐怖という感情は少しも沸いてこなかった。


「…?おい、そこの君。何でそんな前に出て…駄目だ!危ないぞ!やめろ!」

「きゃあああああ!危ない!!」

「やめるんだ!」

「誰かその子を止めろ!」


…うるさいな、今から僕は帰るんだ。

―――絶対、誰にも邪魔なんてさせない。


「う、ごけっ、ないっ!な、んだ?これ…?」

「はぁ…何故か近づけないわ…。」

「…なんだ、この感じは…。」

「…ああ!彼を邪魔してはならない…!」


それでいい。いい子のみんなは僕の邪魔なんてしちゃだめだよ?

電車がやってくる、迷わず線路に飛び込んだ。電車のライトがまぶしく僕を照らす。段々と強くなっていく光はやけに懐かしく感じた。


―――あ。思い出した。僕…


「…神様じゃん。」


次の瞬間、僕の『体』は電車によってぐちゃぐちゃに吹き飛んでいった。




―――懐かしい光が僕の意識を浮上させる。瞼をゆっくりと開けば大きな羽を持った美女おさななじみが僕を覗き込んでいた。


「おはようございます。お目覚めになりましたか、神よ。」

「…あー、またか。おはよ、幼馴染さん。―――全く、今回は最悪な結果だったなー。」

「…貴方様が毎回お忘れになるのが悪いのでしょう?わたくしは悪くありません。」


ここ天界。

住人はたくさんの天使とそれをまとめる大天使が一人、そして神が一柱。

つい最近まで無意識に帰りたいとよく呟いていたが、僕が帰りたい場所とはここだったのだ。


「ちゃんと教えてくれればもしかしたら思い出すかもしれないだろー。…全く、使えない大天使様だ。」

「貴方様が前前々回の時にわたくしがうっかり神について呟いたことで自分を思い出されて、結局生きるのがつまらなくなって自殺したのを覚えていらっしゃって言っているのですか。」

「へいへい、すみませんでしたねー、簡単に自殺しちゃってー。」

「…少しは命を大切になさってください。」


僕にとって命の重さはあまり重いものだとは感じていない。…だって神だから死ぬこと無いし。


話は変わってしまうが、神である僕が何故こうして人間になっているのか疑問に思うだろう。

ぶっちゃけ気分転換である。

この世界が始まってから常に同じような仕事の繰り返し、いい加減疲れてしまった僕は、息抜きも兼ねて200年分の仕事を一気に済ませた後、人界生活を楽しむことにしたのだ。所謂、休暇で旅行に行くって感じかな。

わざわざ人間になる目的?…人間の気持ちわかるようになるかなー?って思って。

そして今回幼馴染として僕の隣にいた美女が、天界の大天使様。僕の護衛としていつも一緒に人界に来る。


「…なぜいつも記憶が維持できないのですか?私だってできることなのです。神にとってはお手の物でしょう?」

「あはは、なんか苦手なんだよねー。」

「…嘘ですね?」

「嘘じゃないよー、ホントホント。いっつも忘れちゃうの。」

「はぁ…。私が人界でどれだけ苦労していると思っているんですか。」


どうやら彼女は、いい加減僕に人間界の事を真面目に学んで欲しいと思っているらしい。

…休暇なのにどうしてお勉強する必要があるのか、いや、ないねっ!


「…いやー、今回は本当に失敗だったなー。すごい暗い人だったよねー、僕。」

「…話を逸らしましたね。…もう、いいです。―――では言っておきますが、私が今回失踪した理由は急な仕事が入ったので一旦こちらに戻っていたからでございました。わたくしが戻れなかったのは、降りた先がまさかの異世界の人界でしたので、神がいないとどうしようもなかったのです。…何故異世界にわざわざ飛んだんですかね。神?」

「だってこっちの世界の見学したって、大体の事は知ってるしもう飽きたんだもん。」

「…お遊び気分で異世界に飛ぶなんていい度胸ですね。もっと自分の世界も大切になさって下さらないと困ります。」

「んー…、すっごい大切だよ?でも何億年も見てきたからもういいかなーって。」

「本当に貴方という人は…。」


大天使は困り顔、でもどこか仕方ないと言っているような顔で―――この顔が僕は大好きなのだ。


だから困らせたくて次も忘れてしまう。


「次はちゃんと僕の世界に飛ぶからさ、安心して?」

「…絶対に記憶は維持しておいてください。休暇はあと70年しか残っていないんですから。それと、今回はこちらの体をお使いになられてください。…天使たち、あれを。」


大天使に命じられた天使たちが体を運んできた。…あれ、僕のやつもあるじゃん。しかも首がすごいことになってる。


「…これもしかして首ちょんぱして死んだときのやつ?傷痕がすごいな、ちょーくっきり。…えーっと、新しいやつちょちょいと作っちゃ駄目?」

「神にとっては簡単な事ですが、普通はおいそれとできることではありませんよ。資源の有効活用です、体を大事にすることを覚えてください。どうせ顔は全て同じなんですから。」

「はぁ、わかりましたよー、これ使えばいいんでしょ。」

「では早速、わたくしを飛ばしていただけますか?」

「オッケー…そいっ。」


僕が手を一振りすると大天使は粒状になってキラキラと人間界へ流れて行った。その後に大天使の体が分解されてまた粒状になってついていく。


「また、懲りずについてくるなんてね。誰か別の天使に任せればいいのに。…ホント、どんだけ僕のことが心配なんだか。」


天使たちが飛んできて僕の周りを漂い始めた。


「かみさま、まただいてんしさまからかうのー?」

「なんでからかうのー?」

「なんでー?」


まだ生まれたばかりの天使たちはタジタジな言葉で僕に話しかける。…子供の方がこういうの察しやすかったりするよね。


「んー?そりゃあ勿論、彼女が好きだからだよ?」

「すきなのになんでこくはくしないのー?」

「しないのー?」

「…残念だけど僕から告白する気は無いよ、だって神様が個人に愛を示すのはあまりよくないからねー。神様は全てを平等に愛さなきゃ。」

「わたしたちもかみさまにあいされてるー?」

「…それは当たり前だよ、この世界のもの全てを愛してるさ。」


只、彼女への愛は特別なのだけれど、それを簡単には言えないのがもどかしい。神とはそんな物だ。全てを愛し、全てに愛される。

…その代償に誰の”一番”にもなることができない。

―――それでも僕は彼女に引かれてしまった。彼女の一番になることはないのに。


「かみさま、わたしたちへのすきと、だいてんしさまへのすきはちがうでしょ?」

「うっ、はぁ…君達はホントに困った子だなぁー…誰にも言わないでくれよ?」

「わかったー、いわないでおくー!」

「いわなーい!」

「ありがとね、じゃあそろそろ行ってくるよー。お留守番は頼んだよ、僕の愛しい天使たち。」

「かみさま、いってらっしゃーい!」

「いってらっしゃーい!」


…さてさて、今回はちょっと気合いを入れてみようかな。

僕が人間界に行くのはもう一つ目的があった、それは…


「一時の夢でいいから…君と夫婦になってみたいんだ。」


子供っぽい理由なのは充分わかっている、これでも世界ができてからずっと存在しているのだから。

でも、それでも…初めて好きって気持ちを抱いたんだ。

叶えるには神様の立場だとできないんだよ。…神様だって何でもできるわけではないんだ。

だから、記憶がないなら、結ばれたって許されるだろ?

神様だったことの記憶が無かったので愛しちゃ駄目だと知りませんでしたって言い訳できるだろ?


だから、また忘れるんだ。


「もう時間がないからなー…それじゃ、今回は呪いも入れちゃおうかな。丁度この体には傷痕があって呪いがかけやすいからね。そうだ、どうせ恋するなら運命的にしたいよねー!だったら、生まれるところも大天使とは凄い離れたところにしてー…よし、これで行くかな。えいっ。」


―――君と結ばれるためなら僕はまた君を困らせる。










恋愛ものです。

こちらは暇なときに更新していきます。

よろしくお願いします。

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