魂の契約
男達は数人。時間は夕方前位で、森の中にいるらしい。
集落から少し離れており、男たちは武器を片手にエルフ狩りと称して、森に放ったエルフを狩っているらしい。
捕まったが最後、男どもにに殺されるか、生きながらもっとひどい事をされるか。
あまり想像はしたくないな……。
『お願い球さん。私はどうなってもいいの。妹を助けて……』
彼女のその一言で脳内にアラートがなった。
――ピッコーーン
魂の契約ができます。魂の一部契約と同時に、スキルの取り込みもできますが、実行しますか?
初めての事にどう対処したらいいかわからない。
契約したらどうなるのかもわからない。スキルの取り込みってなんだ?
でも、何もしないよりましか? もしここで全滅したら、俺は再びその辺の転がっている石になってしまうだろう。
もしかしたら、二度と誰かと会話をすることもないかもしれない。
俺は賭けに出る。ダメでもともとだ。イケイケゴーである。
『保証はないが、切り抜けられるかもしれない。最悪、俺達死んでいいか?』
『何もしないで死ぬより、何かして死ぬ。でも、出来れば妹を助けたい……』
『運が良かったら助けられるさ。ところで君の名前は?』
『私はリムル。エルフ族のリムルよ』
『リムル。俺はリムルの魂と契約する! さぁ、契約の時間だ!』
――
真っ白な空間に俺は一人立っている。
姿が高校生の時のままだ。おぉう! 体があるってすばらしぃ!
見える! 聞こえる! 肌で色々と感じるぅ!
思わず声に出して歌ってしまった! それほど五感があるのが素晴らしい!
生きてるっていいね! 最高だよ! と、ここはいったいどこなんだ?
周りは真っ白。次第に床が緑になっていき、草が生えてくる。
上を見ると青空。大きめの太陽と小さい太陽の二つ空に浮かんでいる。
数本の木が目の前で高速成長していく。
少し木陰ができ、大きめの石も数個転がっている。
座るのにちょうどいいサイズだ。
久々に陽の光を感じ、心地よい風を身に受け、背伸びをしていると後ろから声がかかってくる。
「球さん?」
目の前には十代前半くらいの少女が俺を見ている。
淡いグリーンの髪を後ろで束ね、サイドから出ている耳が少し長く先がとがっている。
思っていたエルフ像とほぼ同じで、ちょっとだけドキッとした。
だって、リムルったら薄布一枚を巻いているだけで、きっとスッポンポンなんだよ。
肩も太ももも細い腕も露わに出しており、目のやり場に困ります。ハイ。
「リムル? えっと、初めましてかな?」
この空間がなんなのか? 何をしなければいけないのか?
俺は理解しないまま、リムルとの会話を楽しんでしまった。
今までの事を全て話した。家族の事、白髪男の事、事故前に戻る為に転生した事。
全てを理解した上で、リムルが俺を抱きしめた。
「つらかったんだね。球さんは頑張ったね。私で良ければ力になるよ!」
俺は球という名前ではないがこの際名前はどうでも良い。
肝心なのは、薄布一枚で抱きしめられている事だ。ここは重要ポイント。
きっと試験にも出るから赤ペンの二重線を引いておこう。
「ありがとう。でも魂の契約を行った後のリスクとかどうなるのかは俺にも分からないんだ」
「いいよ。さっきまでの状況を考えると、きっと私は助からないし。球さんもきっと……」
次第に空が暗くなってきた。
木陰を作っていた樹木も風化を始め、小さくなってきている。
地面に生えていた草花も枯れ、次第に世界が鮮やかな色からモノクロームの色へと変色していく。
「リムルの世界では契約する時はどんな風にしていいるの?」
「それぞれの種族でも異なるけど、エルフでは魔力の交換かな」
魔力の交換とは? 互いの右手親指にちょっとだけ傷をつけ、契約の内容をお互いに声に出してから、血を交換する。
指相撲みたいに互いに指を組み、親指の腹同士をくっ付けるだけだ。
「条件はリムルの妹を助ける。報酬はリムル魂!」
「条件は私の妹を助ける。報酬は私の魂!」
「「魂の契約!」」
次第に世界が黒くなっていき、目の前にいたリムルも消えてしまった。
これで良かったのだろうか?
そして、俺の体も黒くなっていき、全てが黒一色に染まった。
――ピッコーーン
魂の契約が完了しました。スキルの取り込み完了まで、三、二、一。
スキル取り込み完了です。スキル登録しますか?
俺は何も考えず。登録! と思ってしまった。
――スキル登録完了です。パッシブスキルを発動しますか?
何がスキル登録されたのか分かりませんが、とりあえず発動します!
――パッシブスキルを発動しました
脳内アナウンスが聞こえたと思ったら、周囲の状況が分かるようになった!
見えるし、聞こえる! やったー! これで何とか生きていけるかも!
しかし、俺は騒いで受けれてしまった事を公開する。
見上げたそこには傷だらけで目の焦点が合っていないリムルの姿が。
服は粗末なうえ、ボロボロで素足。両手には手錠のような木枠が付けられており、その傷だらけの手に俺は収まっている、
くそ。何なんだ。リムルが何か悪い事をしたのか?
「おい! お前ら! この子が何か悪い事でもしたのか!」
「だ、誰だ! どこにいやがる!」
ざわつく人間どもは声のする方に目線を配るが、人影はどこにもない。
「お前か! お前が何かしたのか!」
一人の男がリムルに近寄り、持っているこん棒でリムルの頬を殴りつける。
「んぐぅぅ……」
勢いが強く、そのままリムルは数メートル先まで飛ばされてしまった。
「っち、まだ声が出ないのか。ここで悲鳴の一つでも上げれば、ちょっとは楽しめるんだがな!」
体を引きづりながら人間たちから距離を取ろうとするリムル。
俺はスキル? のおかげでリムルがいなくても辺りの状況がわかり、聞こえるようになった。
声も出るようになった、 さぁ、俺に何ができる。
パッと見た感じただの球らしい。大きさは手のひらサイズ。
敵は四人。いかつい男性で粗末だがそれぞれ武器を持っている。
俺は何ができるか、自身のスキルを確認できないか模索し始める。