救出作戦終了
「おい! モンスターだ!」
金髪男は手元にあった剣を片手にすぐに立ち上がる。
慌てて隣にいた髭男も斧を片手に腰を重たそうに上げる。
「マリーナ。ここを任せるぞ。俺達はちょっと行ってくる」
「はぁ、めんどくさいわね。さっさと戻って来るのよ」
マリーナと呼ばれた女はローブを着たこの女だろう。
さっきから俺をコロコロしながら覗き込んだり、回したり、上に上げてみたりしている。
『ダウル! 男が二人そっちに行くぞ!』
『大丈夫だ! これも作戦のうち! これで我一人で二人を相手にすればよくなった。そっちは主に任せるぞ!』
ダウルは口にはさんだクシをカミカミしながらゆっくりと遠ざかっていく。
敵を分断する作戦か。ぬぅぅ、こやつ思ったよりできるな。
さて、俺の方はどうしようか……。
「おい! カミーユ! ちょっときな!」
いきなり怒鳴った女はそばにいた首輪人の方を見て声を上げる。
ゆっくりと近寄ってきた首輪人は女の隣までやってきて、正座する。
「ちょっとこの球を持って、魔力を込めな。私から少し離れるんだよ」
「ま、魔力を込めたらどうなるんですか?」
「それを知る為の実験じゃないか。爆発しても、お前さんなら問題ないだろう?」
ひどい事を言いながらも、そんなことを言われたカミーユに俺は手渡された。
目を閉じた獣人の子は俺を両手でしっかりと握り、胸の前で抱きかかえる。
手のひらの感触が伝わり、ほのかに温かいぬくもりが伝わってくる。
フードから少し見えるその顔に俺はびっくりした。
まるで殴られたかのような顔。そして、手は傷が多く、腕にも足にも傷が。
少女のような、少年のようこの子は頬もコケ、髪もボサボサ。
首輪もつけており、やっぱりこの子は奴隷なのかな、と考える。
なぜか、胸が締め付けられる(胸もないけどね)。
女は警戒しながらもしっかりとこっちを見て観察している。
「で、では魔力を込めますね……」
「ドワーフ族の魔力を買ってやったんだ。それなりに魔力を込めな!」
「は、はい……。いきます」
この子はドワーフなのか。見た感じ人とほぼ見た目は変わらないな。
そしてカミーユは力を入れてくる! な、何だこの感覚は!
カミーユから流れてくる魔力が俺の中に流れこみ、俺の中が熱くうぅぅぅ!!
――ともならず、何も起こらない。何か起こる予定だったのだろうか?
それでは、やらせてもらいましょう。俺は心の中で叫ぶ。
『エアカッター!』
『エアカッター!』
『エアカッター!』
『エアカッター!』
『エアカッター!』
『エアカッター!』
もちろん目標はあの女だ。
ちょっと遠くにいるが問題ない。射程範囲内であり、対象は動いていない。楽勝楽勝。
空間が若干歪み、女に対して飛んでいく。
「っへ?」
その一言を最後に女の息は止まり、無残にも地面へ倒れる。
そして、動かなくなったことを確認し、俺はちょっと安心する。
ミッションコンプリート!
「わ、私が? 私がやってしまったの? 私が……」
カミーユの手から落とされ、俺は地面に転がってしまう。
おっと、顔に傷が着いてしまったらどうするんですか? 責任とってくれるんですか?
と、一人突っ込みをしながら、カミーユに声をかけてみる。
「おいっす。カミーユさん」
きょろきょろとあたりを見渡すカミーユ。
しかし、一向に俺の方を見る気配がない。
「おーい。下だ、下。ここですよー」
俺は再度カミーユに向かって声をかける。
やっと気が付いた。
「た、球がしゃべった!」
確かに俺は球ですが、ただの球じゃございません!
「そう。俺だよ俺、俺俺。分かるか? 俺だよ?」
新手の俺俺詐欺か。
カミーユは再び俺を手に持ち、たき火の方に移動し始める。
「本当に球がしゃべってるんだ……」
「おう。すごいだろ。あと、さっきの女には魔法をぶち込んだ。俺の仕業だ」
「良かった。私の魔力に反応して、魔法が飛び出てしまったかと……」
「タイミング見て俺が放った。だからカミーユは何もしていない」
「そうだったんですね。もし、私が原因であれば私も死んでいましたよ」
ものすごい気になる事を言っている。
カミーユが原因だったら死ぬ? いったいどういう事だ?
「何故カミーユが死んでしまうんだ?」
「主人への反逆は死。この首輪が一瞬で縮まって……」
おぅ。なかなか怖いアイテムだったんですね。
ただの首輪かと思いました。
「で、その首輪はこれからどうなるんだ?」
「主人が不慮の事故で無くなったので、無効化されますね。いつでも外せます」
喜ぶかと思いきや、そうでもない。奴隷が好きだったのか?
そんな事を一人で考えていると、暗闇からダウルが帰ってきた。
『戻った。こっちは問題なく処理できたが、そいつは?』
『お疲れさん。この子はカミーユ。こいつらの奴隷だったみたいだ』
少しだけダウルにこの子の事を話す。
カミーユにもダウルの事を味方だと告げ、たき火を囲う。
さて、敵対戦力はなくなったし、リムルを呼びに行って、馬車を解放して、ちょっと忙しくなるな。
ダウルは一匹リムルを迎えに行く。そして俺はたき火に残り、カミーユと話をして待つ。
「じゃぁ、その首輪とったらいいんじゃないか?」
「で、でも……。私、一人になっちゃう……」
いままで奴隷としてこの人間についてきたが、最低限の食事と睡眠はとれていたらしい。
しかし、その保護者代わりの人間がいなくなった。正確には俺がやってしまった。
そもそも、処理する必要があったのか? 話せば分かる人間もいるだろ?
もしかして、俺は早まった行動をしたのか?
「ち、ちなみに、カミーユの主人ってどんな人だった?」
きくのが怖いが、俺には知る必要があると感じた。
今後、この世界で契約を進めていく上で、必要な事になるに違いない。
カミーユの話だと、主人と他二名はギルドで傭兵を数人雇い、亜人を保護し、ギルドに連れて行く仕事していたらしい。
保護の対象はエルフ、ドワーフ、獣人、ドラゴニア、海人など人間以外の亜人に限っていたそうだ。
そして、保護する時には力まかまかせに村などを襲い、数日にわたり王国へ移動させる。
保護した亜人たちは目隠し、手錠、足に重り、魔力封じの腕輪、さらに声を出せないように何か飲ませているらしい。
王国には深夜、裏の方から入り、とある建物で引き渡しが行われる。
その際に、多額の報酬を貰い、契約書などもなく、さっさと解散するそうだ。
……。人身売買じゃね? 保護とかしてないよね?
どう考えても亜人を勝手に捕まえて、王国に売ってるんじゃないか?
でも、もしかしたら本当に保護しているだけかも……。
「そっか。そんな仕事だったんだな」
沈黙の時間が流れ、たき火も次第に小さくなってきた。
しばらくすると闇からダウルとリムルが現れる。
「お待たせしました!」
元気に登場したリムルは、今回の作戦にほぼ参加していない。
頑張ったのはダウルと俺だ。まぁ、女の子に戦闘はさせたくないよね?
リムルは早速馬車に駆け寄り、中にいた人達を確認する。
遠くからでもここまで歓喜の声が聞こえてくる。
どうやら予定通りに事が進んだらしい。
そして、そのままとらわれたエルフたちを解放し、念のため一夜その場で休む事にする。
幸い人間の残した食料や水もあるので、問題なく一晩すごる事ができた。
俺は終始見張りとしていたが、特に何事もなく時間だけが過ぎ去っていった。
そして、夜が空ける……




