作戦その一
――馬車を追いかけ二日が経過した
日が暮れ始め、はるか彼方に見える山に太陽が沈みかけている。
俺達はこの先にいると思われる馬車をひたすら追いかけている。
「リムル、出発してから数日経過したが、まだ追いつかないのか?」
「馬車はそんなに速度が出ないはずなので、そろそろ追いつくと思うんですが……」
リムルは風の加護により、普通に走るよりもはるかに早く移動している。
ダウルもその脚力を生かし、リムルについてくる。
俺はそんな中、リムルの首の下にぶら下がったままだ。
『主よ、この先に人間の匂いがするぞ』
どうやらダウルは鼻もいいようで、風下にいた俺達にその匂いが届いたようだ。
「リムル、この先に人間の匂いがするそうだ。何か感じるか?」
「私はまだ何も……。もう日が落ちます。恐らく野営をすると思うので、可能な限り近づいてみましょう」
空に星が見え始める。あたりは次第に暗くなっていき、視界も悪くなってきた。
本来であれば、俺達も野営の場所を探さなければならないが、今回は先を急ごう。
そして進む事、数時間。辺りは真っ暗になり、星と月の光で足元を何とか確認しながら進んでいく。
「リムル、ずっと向こうに火が見える。あそこに人がいそうだ」
「確かに。まだ良く見えませんが、きっと野営をしているのでしょう。気を付けながら進みますね」
『ダウル。もし、人間がこっちに近寄ってきたら分かるか?』
『問題ない。においがだんだん強くなってきているからな。もし、誰かきそうであればすぐに知らせる』
次第に火が大きく見えるようになり、その火の隣に馬車が見えた。
平原ではなく、街道から少し外れた所に林があり、その辺りには木でできた柵も見える。
恐らくここでは野営ができるように、予めスペースを設けているのだろう。
馬車は一台しか見えない。人の影が数名見る事ができる。
しかし、魔力感知ではもっと人がいそうに感じるが、見渡す限りそんなに人は見えない。
「エリクス様。あの馬車見覚えがあります。村にあった馬車と同じ形をしています」
ビンゴだ。やっと追いついた。若干強めの魔力反応を感じることができる。
俺の感知が正しければ四名。馬車の中から感じることができる。
他には微弱な魔力が二名。馬車の外にいると思われる。
目視できる範囲では、少なくとも外に四人の人影が見える。
二人は魔力が無いって事か?
「リムル。どこまで近づける?」
「相手に魔力感知出来る人間がいなければもっといけますが、感知できる人間がいると、そろそろ難しいと思います」
俺は少しリムルより感知能力が良いらしいので、そろそろ止まった方がいいか……。
「よし、一度止まって、作戦会議をしよう」
俺達は数本並んでいる木の陰に隠れ、作戦会議をする。幸い相手はまだ気が付いていないと思われる。
こちらの切れるカードは限りなく少ない。人数もいない。相手は魔力もち二名、他二名は確実。こちら一人と一匹に球一個。
なかなか厳しい戦局だな。優位性があるのは、こちらが一度のみ奇襲をかけることができる。
移動する速さは、こちらが上。純粋な戦闘能力は未知数。失敗は許されない。一回限りの戦闘だ。
「リムル。連れて行かれた人数は分かるか?」
「全部で四名ですね。村に残っていた人を考えると、間違いありません」
うん。では、さっき感知した四名は恐らく村人で、馬車にいれられたままだな。
外のメンバーはすべて敵と考えていいだろう。
「前回みたいに、俺を空へ投げての奇襲はできるか?」
「無理ではありませんが、ここからはちょっと距離がありすぎます。もう少し近づけばできますね」
「では、もっと近寄って俺を投げて前回と同じような魔法の乱れ打ち作戦で」
一度経験しているから、きっと何とかなるだろう。
『ダウルはルエルと一緒に行動して、ガードを。万が一と言う事もあるからな』
『わかった。ルエルをガードすればいいんだな』
俺達は手荷物をその場に置き、ゆっくりとターゲットに近づいていく。
「クェーーーー」
空から変な声が聞こえた。
見上げると大型の鳥が、馬車の方に向かって飛んでいく。
「な、何だあのでっかい鳥は」
「あれはウィンドウバードです。魔法を使ってくる怪鳥で、結構厄介な魔物ですね」
ウィンドウバードは三匹編成を組んで、たき火をしている方へと飛んでいく。
もしかしたら外の人間をそのまま追い払ってくれるのか?
そんな棚から牡丹餅な事を期待しながら、俺達はゆっくりと馬車の方を近づいていく。
「クェェェ―――――!!!」
「クェェェ―――――!!!」
「クェェェ―――――!!!」
三匹の怪鳥が同時に同じ声を上げる。
そして、その大きな翼を広げ、空中でホバリングしている。
ん? 目の錯覚か? 怪鳥の翼付近で空間がゆがんだように見えた。
さっきまではっきりと見えていた星の光が一瞬ゆがんだ気がしたのだ。
次の瞬間、たき火を中心とした半円のドーム状の薄い光が見えた。
そして、たき火のそばにいた人間が棒を振って、怪鳥めがけ火の玉を何個も飛ばしていくのが見えた。
「エリクス様、一度戻りましょう。あれは非常にまずいです」
「どういうことだ?」
「障壁が張ってあり、弱い魔法攻撃が弾かれています。さっきの作戦だと、失敗する可能性が高くなりました」
それはまずい。まったくの予定外だ。魔法を弾く障壁だなんて。
危うく作戦が失敗するところだった。
怪鳥たちに火の玉が当たり、そのまま無残にも地面までまっさかさまに落ちて行った。
怪鳥に近づいた人間は、怪鳥の首を切り裂き、そのまま解体を始めている。
『主よ。あの鳥は結構うまそうだ。できれば我も欲しいのだが』
『今は無理だろ。もし、手に入ったらやるからもう少し我慢してくれ』
俺達はさっきまでいた地点へ戻って来た。
作戦その一は無理っぽい。作戦二を考えなければ……。




