夏の雪見草
麻衣は、綺麗で白い花をつけた木を道端で見つけました。
友達三人でいつもの通学路から少し遠回りをしていた時でした。
あまりにも白く心ひかれたので、お母さんに見せてあげようと、一輪ちぎってポケットに入れました。
友達も一輪ずつちぎりました。
季節は初夏で、もうすぐ夏休みでした。
その日は涼しいとは言い難く、麻衣はシャツの上に羽織をしていたので、歩くうちにじわっと汗が服について気持ちが悪くなってきました。
上着に汗がつかないように羽織を上手に脱ぎました。
脱ぐことに気を取られていて、白い花びらがひらひら落ちていったことに、麻衣も友達も気づきませんでした。
重ね着をなくすと、なんだか体が軽くなった気がして、それこそ綿毛のように風に乗れる気がして、麻衣たちは駆け出しました。
夏の雪見草を残して。
アスファルトの上の一輪の花が、純白さを道路の黒に引き立てられ、その儚さゆえに、今一番美しく見えていることに気づくはずもありませんでした。
走る麻衣のすぐ横を、トラックが後ろから抜いていきました。
その大きなタイヤのあまたのゴミの中に、紙くずのように白いものがついていました。