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店長なんて知らない




 外に出ると、辺りはすでに暗く、大きな満月が顔を覗かせていた。わたしはどれだけあの部屋にいたんだろう……。確か、朝のうちから駆けつけてたはずだったよね?


「この指輪、どんな効果があるかわかる?」


「………」


 唐突な問い。答えられないでいると、それもあまり気にしてない様子で刹那さんは続けた。


「この指輪は『光色水晶のかけら』でできているの。かけら、って割には大きすぎるんだけどね。きっとあまりにきれいなんで、大きいまま加工されちゃったのね」


 独り言のように話されるので、わたしは聞き役に徹することにした。


「水晶に関わるオーナメントって、効果が違っても種類が多いんだけど、月の影響を最も受けやすいもののひとつなの。潮の満ち引きが月の引力に関係しているって話は知ってる?」


「それなら聞いたことがありますよ」


「水晶は別名『水の結晶』って呼ばれるくらいで、水と同等と考えても支障がないくらいに月の影響を受けやすいの。いくら幸運を運んでくれるような効果をもつ強力なオーナメントでも、その媒体となるのが水晶だったら、逆効果ばかりが働くときがあるから、時期に合わせて反発する効果のものも持ってないと危ないの」


 こんなきれいな満月のときなんて特にね、水を呼び寄せすぎるの。

 そう言いながら、刹那さんは頭上を見上げながら指輪を掲げた。


「そこで必要なのがこれと対になる、めぐみちゃんに頼んだ『闇色水晶のかけら』だったの。こっちは不運を運んでくるような働きがあるから、月の影響下だとその反対ね。めぐみちゃんの収穫が、思ってたよりも強いヤツだったから、小さく加工してたら、駆けつけるのも遅くなっちゃった」


「来週にその指輪は溝口さんに返しても、もう平気なんですか?」


「どんなものにも相性ってものはあるのよ。反発してばっかりだと、少しずつだけど効力も弱まってくるから、一週間もあればほとんどこれも普通の指輪になると思うわ」


 だったら安心ですね。と、言いかけてため息をついた。深いやつをひとつだ。


「どうかしたの? めぐみちゃん」


「今ってもう夜じゃないですか……」


「そうね、否定しようがないくらい夜ね」


 それがどうかしたの? と、先を催促。


「……わたし、今日のお店を臨時休暇にしちゃったんですよ、許可もなく。これで店長から起こられたり、お給料を減らされちゃったりしたらどうしようかと」


 わたしが真剣に悩んでいるのに、傍らを歩く彼女は大きく笑い飛ばした。


「なんで笑うんですか、切実な問題ですよ! わたしの信頼度に関わるんですから」


「心配しなくても大丈夫よ、このくらいで減給したりするほど心も狭くないから」


「え?」


 刹那さん、わたしの店の店長をご存じなんですか? 口にこそする前に顔に出たのだろう、刹那さんは真顔で答えた。


「あら、知らなかった? あたしがめぐみちゃんのところの店長よ?」


「知りませんよそんなこと! 本当ですか?」


「ほんとよ、あたし正直者だもの。……それじゃついでにカミングアウトしちゃおうか。めぐみちゃんの部屋の家賃、ほかに比べると、特別安いのよ。なんでだと思う?」


 刹那さんの口元が、今にも悪戯をするんじゃないだろうかという具合に持ち上げられる。


「なんでなんですか? ……まさか刹那さんが大家さんだから、なんてオチじゃないですよね?」


「おしいっ! それもあるけど、あの部屋に来た人は自動的にあたしの助手になることが大前提なの。だから、あたしのアシスタント代を差し引いているのです!」


 ……えっと。わたしの聞き違いでしょうか。


「刹那さん、ワンモアプリーズ?」


「めぐみちゃんの生活はあたしにかかっているということです。なので、これからも協力よろしくね?」


 にっこりと差し出されたこの手を取らなければ、わたしは路頭に迷うことになるのだろうか? ためらいながら手を伸ばしつつ尋ねる。


「これって、軽く脅迫じゃないですか?」


「そんなことないわ。すでに決定事項だからめぐみちゃんに拒否権とかないもの」


「脅迫以上にタチが悪いですよね?」


 それも笑顔で、ついでに半年以上付き合ってから、そんな重要なことをやっと知らせますか?


「オーナメントを扱う者と引き寄せる者。これ以上に素敵な組み合わせなんてないと思わない? 世間ではオーナメントの存在を知る者は多くはいないから、あたしの行動を理解してくれる人もほとんどいない。怪しい人として見られることも少なくないわ。あたしはめぐみちゃんが好きよ、大好き。だからこれからもパートナーとして、共犯者でいてくれない?」


 必殺、首かしげと上目づかい! わたしがこれに逆らえないとわかってやってる、この人絶対に確信犯だ…って、そこに確信をもってどうするの! やっぱりわたしは彼女の手を自分から取ってしまうのだ。


 こうして今もわたしの日常は、オーナメントと主に刹那さんに振り回されている。

 ――今日もまた、『古都』の表札の前に飾られた一輪挿しの花びらが舞い散る。


ひとまず、完結です。

お付き合いいただきありがとうございました。

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