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朝からドタバタ



 刹那さんから預かった地図を頼りに、溝口さんの家の前まで来た。渡された紙の住所に間違いはないから、この部屋だろう。けれど、呼び鈴を鳴らしても返事がない。


 刹那さんの『命に関わる』発言を思い出して、不安になった。ノブをひねって、驚いた。引っかかりなく開いたことに、ではなく、開いたとたんに流れてきた水の量に、だ。


「なにこれ……」


 部屋中が水浸しだ。足首までだぷだぷ。


 通路まで水浸しになることを懸念して、一応玄関は閉めた。けれど、中の水は大して変わっていない。家中の蛇口という蛇口が力いっぱい開かれていた。


 一面の水浸し。これが彼女の持つオーナメントの効果? というか、肝心のその人はどこだ?


 蛇口を閉めて回っていると、流れが止まったはずの水が、奥の部屋の隙間に吸い込まれるように流れている。

 何かある。そう思って開けてみると、寝室らしいそこは他の部屋と違って、ひざ下まで水がきていた。


 溝口さんは低いベッドにうつぶせになっていた。このままだと寝室で溺死するぞこの人。

 さて、一体全体この水浸しはどうすればいいのか。この部屋の扉は開けままだが、さして量が減ったようにも思えない。この人も心配だけど、下の階にまで水が溢れないかが心配……


 と、そこで刹那から預かった陶器のオーナメントのことを思い出した。だけど使い方聞いてない……


 とりあえずこの壷で水、除けるかな。容器だし、他のところから探してくるにしても動きにくいし。

 すると、いくら汲んでも一杯にならなかった。汲み上げて、逆さにする、こぼれない。

 へぇ、こういう使い方するんだ、これって。水が吸い込まれていくって、今みたいなときには便利なんだろうけど、花とかをこの壷で活けてたら大変なことになるな。まさにブラックホール。


 面白がって作業を繰り返すうちに、すっかり部屋中の水がなくなった。

 文字通り、水分がまったくない。濡れていたはずのカーペットまで乾いている。どうなってるんだろう。


「ご苦労さま~。めぐみちゃんが間に合ったみたいでよかったわ」


 刹那さん参上。乱れていた髪もしっかりといつものくるくるになっていた。もしかして、髪巻き直すために私を先に寄越したとかないですよね?

 と、タイミングよく溝口さんもお目覚め。あ、この人の存在忘れてた。


 彼女は汗びっしょりで、なにがあったのかよくわかっていないみたいだった。夢の延長と思っているのか、わたしたちがいることにさほど不審を抱いていない。


「…あぁ、よかった」


 溝口さんは自分の肩を抱いてつぶやいた。


「出張サービスに来ました、古都です。何かありましたか?」


 刹那さんが聞くと彼女はうなずいた。


「夢を…見ていたんです。誰もいない海辺で空を見上げていたら、月が次第に近づいてきて…。逃げても、逃げても追いかけてくるんです。押しつぶされて、窒息するかとおもいました」


 実際にもう少しで溺れて窒息死するところでしたけどね、あなた。


「そうだったんですか。でも、もう大丈夫です、依頼の遂行に来ましたから。これを」


 と、刹那さんは小さなかけらを取り出した。


「これをどんなことに遭っても、一週間身に着けておいてください。そして一日と違わずに返却に来てください。でないと、今回の悪夢が現実になるかもしれません。一週間後には、身の回りの不幸もなくなっているはずです」


 約束さえ守られれば保障します、とわたしが持ち帰ったときよりもさらに小さくなった『闇色水晶のかけら』を溝口さんに握らせた。


「これが今回の元凶になっているようなので、しばらくの間だけ、こちらの指輪をお預かりしますね」


 刹那さんは返事も聞かずに枕元にあった指輪を手にして、小さく付け加えた。


「あなたには強すぎたみたいだから。持ち主を選び間違えたのね」


 そのまま部屋から出て行こうとする。当然、わたしも慌ててついていった。



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