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オーナメントとは


 日曜日、わたしは朝から刹那さんに呼ばれた。

 つまり、東の方に探し物をしてきてね! とお願いされた翌日だ。


「こんな感じのやつね…めぐみちゃんになら見つけられるよ。オーナメントを引き寄せる才能があるから頼りにしている!」


 一体どこから見つけたのか、丁寧に印刷されている写真を手渡された。

 コピー用紙であるところからみて、物好きなものを扱ったサイトからだろうか。


「わたしのことなのですぐに見つけると思いますけど。今回はどんな相談事だったんですか? また事後報告になるようなら、わたしはこのまま動きませんよ」


 ちょっと意地悪のつもりで不機嫌な顔をしたら、刹那さんが思いのほか慌てた。


「え、どうしよう。それは困るかもしれない」


「ここで教えてくれたらすむことですよ。簡単なことじゃないですか」


「それはそうなんだけど…今回はちょっと人命がかかっているっていうか、急を要するっていうか……。あの女性、幸運のアイテムって信じて身に付けてる指輪が実はオーナメントで、その効力が強すぎて逆に不幸になりつつあるというか……。実際に効果自体に誤りはないんだけど、このままだと大きな事故も招きかねないというか……。とにかくもう身から離しても止めようがないくらいだから危ないかな~って」


 指をせわしなく組みなおしながら話していて、いまいち言葉の切れが悪い。

 刹那さんがこういう物言いをするのは、本人的にはオブラートに包んでるつもりのときだ。


「……それって実はものすごく危ない状態なんじないんですか?」


「だからそう言ってるじゃない」


 何をいまさら、と言わんばかりに首をかしげられた。


「はじめから、というか昨日の時点でそんな大変なことなら教えておいてくださいよ!」


「だってめぐみちゃんが聞かなかったから」


「それはいつまでも名前で呼んでくれないからいじけていただけで……ってそんなことはどうでもいいです! 急がないといけないならそれなりにわたしだって少しは焦りますよ!」


 わたしはそう叫ぶと、かばんともらった写真を持って立ち上がった。

 後ろから刹那さんに呼び止められた気がしたが……気のせいだったことにしよう。




 わたしは毎回、刹那さんからの頼みごとを渋々といった風に引き受けているけど内心、実は楽しんでいたりする。

 どこか放っておけそうにない雰囲気をかもしている人に、私は手を貸さずにいられない性格らしい。

 いつも要領を得ない会話が交わされているけど、たわいもない会話、というものができることがうれしい。

 ここに越してくるまで、わたしには関わりないものだったから。



 ところで『オーナメント』と呼ばれるものを知っているだろうか。

 直訳すれば『装飾品』だ。かんたんな英単語。こんなものがどうしたと思われるかもしれないので、少しだけ説明しておく。


 ここで出てくる『オーナメント』とは、決して『装飾品』なんてもののことではない。『日常に紛れ込んだ異次元の鱗片』のことだ。

 眺めているだけなら、充分に飾りもので通用することから、こう呼ばれるようになったらしい。

 このオーナメントは、わたしたちの日常に関わると妙な役割を果たすらしい。使われ方によっては善にはたいたり、悪にはたらいたり。

 

 日常のなかで、オーナメントの効果を知っている人は少ない。ほとんど存在しないんじゃないだろうかとわたしは思っている。

 だから怪奇現象と呼ばれるものの原因の大半が、オーナメントの効果によるものだと理解できる人はいない。なにかにつけて責任転嫁をしたがる人種であろうともだ。実は日常のいたるところに転がっているにも関わらず、だ。


 刹那さんは、このオーナメントの扱いに長けている。

 潜在的に、どんなものにどんな効力があるのかを知っているようだ。そしてそれをいちばんに有効に活用するための使い方も。


 いままでにわたしが刹那さんに頼まれて見つけてきていたものも、すべてこの『オーナメント』らしい。


 らしい、というのも、わたしにはよく分かっていないからだ。


 正直言って、どれも同じようなものに見える。わたしが少し違和感を覚えるくらいのものが、刹那さんに言わせると『力の強いオーナメント』になるらしい。


 それでなくとも、わたしはオーナメントとの遭遇率が異常なほど高いとのこと。


 これがわたしの特技、といっても、刹那さんに対して以外いばれるものでもなんでもない。

 知らず知らずのうちにわたしはこんな体質であって、昔は周囲で理不尽なこと起こるとすべてわたしのせいにされてきた。

 オーナメントが原因とは誰も、わたし自身も知らなかったから『疫病神』と呼ばれたこともあった。災いを引き寄せてくるのだと。


 わたしはそんな環境から逃げたかった。だから、実家から遠い今のアパートはわたしにとっての楽園だと思った。


 実際に、『疫病神』と呼ばれていた原因も分かったことだし、新しい地で心機一転。今ではこんな体質も捨てたものじゃないなと思える。


 災いの種も、正しい育て方を知ればきれいな花を咲かせてくれると分かったから。


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