4 4人パーティを組もう
待って!僕の行動がタイトルになってるのに結果しか書かれてないじゃないか!?ねえ、僕の活躍は!?
イグジストイチゼロナナノビイ。それが精霊様の名前なのだといいます。恩人の名前を覚えられないと言うつもりはありませんが、流石に厳しいです。あと10回は言ってもらいたいですね。
「ん?Exist、107、Bダよ。呼びニクイかもしれないケド、覚えにクイという程では無いノデは?」
流石は精霊様、記憶力も凄いようです。強くて頭がいいなんて、やはり天使様のお付きともなれば高い能力が要求されるということでしょう。
「い、イグ……イチゼ?ナ……様」
「あア、コトばを知ラないのか。なら、仕方がナイ。精霊様デイイよ。……ただ、何度モ言うケド、そんナタいそうなモンじゃなイカラね」
精霊様は寛大で、また謙虚な方です。あの鬼気迫る破壊の化身と同一の方だとは思えません。聞けば、先程の道具は人と会話をするのに必要な物だったそうです。なるほど、精霊様と人では意思伝達の方法からして異なるのでしょう。それを、わざわざ御自身を傷つけてまで人に合わせて下さるとは……。
「重ね重ね申し訳ありません。私などが精霊様のご意志を推し量るなど烏滸がましいにも程がありました。これからは、天使様と精霊様の行動に全て従います」
「そンナオモいセキにン、もちタクナいナア……」
精霊様が戸惑っておられますが、所詮貧しい村の小娘には天使様方の言葉に従うのが最善なのです。知識もなく己の判断で勝手をすれば、またいつ非礼を行うか分かりません。
「それはそうと、この衣装なのですが」
「あア。いまイマシいアクマのイショうだけど、ボロぬのよりはマシでしょう。セッカくカワイイのだから、少しクライおしャレしなさいな」
精霊様ははっきりと笑みを浮かべてそう言いました。悪魔の衣装という割には純白の綺麗な服です。それとも、悪魔とは案外こういうものを好むものなのでしょうか。
いえ、考えなければならないのはそこではありません。悪魔の服を与えられたということは、私は精霊様に敵と見なされたのではないでしょうか。勿論、自己判断はしません。少々恐ろしいですが、意を決して訊ねてみます。
「その、悪魔の服を私に着させるということは、やはりそういう意味なのでしょうか」
「いや、ワタしがアタエられるのがコレしかなかっタ。イヤかもダケど、えいせイテキニしばラクこれキテナ」
本当は、もっと自然に可愛らしい物を上げたかったと精霊様はいいます。……待ってください。悪魔の服しか与えられないと言うことは、つまり精霊様は悪魔なのでは?
「せ、精霊様はもしかして……悪魔、なのですか?」
「いヤ、ニンゲンです」
……人間?薬がないと下半身がドロドロにとけて、左手は大きな筒で、右手は二つに裂けていて細く、針金のよう。髪の毛は逆立ち、目玉は真っ白に塗りつぶされ怪しげな模様が浮かび、歯はノコギリのように鋭いものが一杯に並んでいる。
流石にウソです。これが人間だとは思えません。ですが、精霊様は御自分が人間ということにしておきたいのでしょう。そもそも、助けてもらった方に悪魔も何もありません。私にとっては恩人、それで十分ではありませんか。
「失礼しました、人間にも色々あるのですね。」
「まあ、ミンゾくとかシソうとカ、アルカらね。」
すると、精霊様は筒の中からコロリと櫛を取りだし、おもむろに私の髪をとかし始めました。揃いの服をくださったり、髪を整えてくださったり、なにやらお姉さんのようです。
「あの……」
「ケッこうカミがイタンでる。だいじニシナいとおんなのこでモハゲるかもヨ?」
精霊様はクスクスと笑いながら、私の髪を弄り続けます。楽しいのでしょうか。こんなことにお手を煩わせたくないと思いつつ、精霊様が楽しまれているのなら、されるがままになるのもいいかもとも思います。取り敢えず、なにもしない方針でゆきましょう。
「あア、ニンゲンってのハ嘘だったカモ。今はチョっとチガうから……今は、そう。悪魔の方ガ、近いのかも……」
「……精霊様?」
「薬がないとまともに自我も保てない。その薬だって、一ヶ月に一度、数分だけ効果がある程度。普段の私は薬を使うか使わないか以外の思考は本能に任せているから……精霊ってのは意外と的を射た表現かもしれないね、理性ではなく本能を主体に行動する知的生命体……よりによってアイツらと一緒かぁ」
先程から精霊様は私の頭を細い指で器用にわしゃわしゃしておられます。何故か私の頭が泡に埋まってゆきます。精霊様は何をしておられるのでしょうか。そして、何やら大切なことを仰っている気がしますが、聞き流してしまっていいのでしょうか。私は人の話を聞くのはそこまで得意ではありませんよ。
「魔法少女になって、皆のためにって戦って……手に入れたものは『終わらない幸せ』……ああ、これは未だに笑い飛ばせない。これに対する怒りのみが私の存在を今に留めているから」
「す、すみません。何を仰っているのか……頭の悪い私には理解できません……すみません」
精霊様は、手をピタリと止めました。そして、筒の中から水を放ち、私の頭に乗っていた泡を全て吹き飛ばしました。何をしているのか、本当によく分かりません。取り敢えず……その筒凄いですね?
「アルちゃんだっけ」
「は、はい。アルレーリヤと申します」
突然名前を呼ばれ、私は畏まります。まさか、名前を覚えて下さっていたとは。これで私は精霊様の名前を覚えられないとなれば、いよいよ恩知らずここに極まれり、ではないでしょうか。ええと、イグ……?イグ、ストイ……チゼロ?ビイ??ああ、ダメです!やっぱり覚えていません!
私の密かな動揺を余所に、精霊様は淡々とした口調で私に言葉を下さいました。
「これから何があっても、これだけは忘れないで。誰かが幸せになるということは誰かが不幸になるということ。皆が幸せになる方法は……無いわけではないけど、その道に未来はないわ」
感情がないように聞こえましたが、その奥に、確かな実感のこもった声でした。私には返す言葉がありません。……なにせ、言われていることの意味を理解していませんから。
「み、皆が幸せな世界なんてとても素敵な響きですね」
自分でも明らかにずれたことを言ったと思います。「未来がない」と言われたものを素敵だと言うなんて、余程の阿保でしょう。明らかな間違いです。でも、精霊様はそれを咎めはしません。
「そう、とても素敵な響きだった。皆がそれを望むし、それに近づこうと足を進める者は少なくない。けど、実現させてはダメ。不可能なことが実現するということは、何かに歪みが生じている証拠。お猿さんがキーボードを操作して見事言葉を紡いだなら、その奇跡を称賛するより先にお猿さんの正体を調査しなくてはならない」
あれ?さっきまで言葉自体はわかっていたのに、後半になって言葉さえわからなくなりました。『お猿さんがキーボード』ってなんでしょう。操作するものらしいので農具か何かでしょうか?
「そろそろ時間。薬の効果が切れるコロね」
そう言うと、精霊様はふわふわの布で頭をごしごし拭いて、水気を取ってくれました。櫛も布も使い終わると筒のような手の中に消えて行くのですが、あれは何なんでしょう。本当に便利そうです。
「あなたに一つだケ、アドバイス。あなたが天使様と読んでいる彼。別にあなたのみかタではないわ……敵でも……ないのだケド」
「え……?」
「全てが『幸せ』なのはおかしいと、あなたは気づけるかしら。どうか、私たちのようにならないでね、可愛いアルちゃん」
そう言うと、精霊様は優しい笑顔と……筒を私に向けた。いや、違います。正確には筒は私の後方に向けていました。何やら不思議な模様が浮き出て、だんだん光が集まってゆきます。眩しいです。
『ハートフル・ブラスター』
精霊様の謎の呪文と同時に、七色の光が私の頬を掠めて飛んでゆき、暫くして爆発しました。一瞬遅れて私が振り向いた時には、私の背後は木の一本も生えていない更地になっておりました。
余りにも自然に話すので忘れかけていましたが、やはりこの方は凄まじい力を持つ精霊様だったようです。
「ぐるるるるぅぅ……」
精霊様はもとの姿に戻り、煙を全身から立ち上らせながら静止しておりました。後で改めて振り返ってみた時、そこには焼け焦げた様々な生物の残骸が残っていて、私を野性動物から守ってくれたとわかったのですが……このときの私は、突然の攻撃と精霊様がピクリとも動かなくなったことに気を動転させて、天使様が帰ってくるまでひたすら泣きわめいてしまいました。
「ただいまっ☆……え、なんだいこの地獄絵図」
「お、おい。アル、泣いてるじゃないか……!おまえ、何した」
「知らないよ……うーん、まずは落ち着かせないとね。猫じゃらしで遊んであげれば泣き止むかしら?」
「アルをなんだと思ってるんだ、シラミズアキラさんよ?……うお、なんだこりゃ……森が一部吹き飛んでるぜ。とんでもない災害にでもあったんじゃねえか?」
天使様と聞き覚えのある声を聞いて、すぐに私の恐怖の涙は吹き飛びました。その代わり、歓喜の涙が溢れてきました。
「ターちゃん……おじさん……!」
天使様は、親友のタツリカユちゃんと隣のカブロさんを連れてきてくださったのです。あの村の生き残りは私一人ではありませんでした。
「アル……無事でよかった」
タツリカユちゃんとお互いの無事を喜び、抱き合います。ああ、やはり天使様は凄いです。私に沢山の希望をくださいます。これでは、先程までのように死んでもいいなどと二度と思うことはないでしょう。
『あなたが天使様と読んでいる彼。別にあなたのみかタではないわ』
そういえば、精霊様のあの言葉はどういう意味だったのでしょう?味方ではない……でも、敵でもない?まあ、今はおいておきましょう。それよりも、親友とお互いの無事を喜び合いたいです。
「……ねえ、僕の知らないところでヒロインが魔法少女になってるんだけど背景設定とか考慮しないの?」
天使様は、私にはわからない言葉でなにかを呟きました。
アルレーリヤ なんちゃってステータス
ステータス
攻撃力 農家の娘なので筋力はそこそこ。
防御力 年下の腹パンで痛そうに踞る程度。
敏捷力 小学5年生の平均くらい。
精神力 父の死を1日で乗り越える位には強い。
知力 実は本を読んでから少し上がった。
幸運 バグってるよ。
スキル
農業知識 E 見習いレベル。
幸運操作 A 本読んだら付いたスキル。
絶望耐性 E 意外とポジティブ。
魔法少女 C この世界に魔法なんてないよ。