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シラミズアキラの異世界遊び  作者: アーギリア
2/8

2 仲間を作ろう

一人だと寂しいからね☆

 私を助けてくれたのは魔法使いの男の子だった。彼はどこからかパンと甘い水を出して、お腹を空かせた私にくれた。


 だけど、どうしよう。代わりに本を読んでほしいと言われたけど、私は文字が読めない。……本って、神官様が読んでくださるあれよね?聖書ってやつ。


 彼が言うには、文字が読めなくても読める魔法の本だそうだけれど、仮に読めても理解できるとは限らない。神官様の話、私は一度だってわかった試しがないのよ。




 とりあえず、お家に上がってもらいました。しかし、改めて見るとこの男の子は綺麗な服と沢山の物を持っている。きっとお金持ちの子だわ。こんなボロボロな家に上げて良かったのかしら。


「いい家だね。壁があって、屋根がある。君のお父さんは働き者に違いない」


「わかるの?」


「わかるとも。お父さんが働き者だから、こうして立派な住み処があるんだろう。でも、この家の綺麗さを見るとそれだけじゃないね。君もなかなか細かいところに気がつく子なんじゃないか?床がこまめに掃除されている。こんな環境にあって、中々できることではないよ。将来、お婿には困らなさそうだ」


「私はともかく、お父さんが褒められるのは嬉しいわ」


 彼はとても聡明で、優しい人ね。彼は自分の事を語らないけれど、お話を聞いていればわかるわ。話しているときの雰囲気が神官様と似ています。


「……さあて、さてさてさて!早速本を読んでもらうね☆」


「ちゃんと言ったと思うけど、私は本を理解できるほど賢くないわ」


「だぁいじょぉうぶ!」


 彼は一冊の本を手渡してきた。すごく小さくて、細かな文字が書かれています。表紙にも字が書かれているけど、形が綺麗に整っているわ。これを書いた人はとても几帳面な方に違いない。


 私は緊張して本の表紙を一枚捲ってみる。ああ言ったけれど、結局読めなかったらどうしよう。多く貰った分は返せても、食べてしまった分は返せない。お金だって無いのに……。まだ文字も見えていない段階から、心配で心が張り裂けそう。


 だけれど、そんな心配は無用だった。私は確かにその内容を読んで、理解することができたのです。驚きもありませんでした。本の中身をみた瞬間、「ああ、これは読める」と何故か察することができたのです。


「読めました」


「おめでとう。これで君はヒロインさ」


「ヒロイン?この本に出てくる勇敢な女の子のことですね。私なんかが英雄には成れませんよ」


「英雄!そいつはいいや。よし、望むなら君を英雄にしてあげよう!僕と共に世の中をあっと言わせようじゃないか!」


「望まないわ」


「ああ、そう」


 私は英雄になんてなりたくないわ。お話の中の英雄様がどんなにかっこよくても、現実ではただの暴力の化身ではありませんか。そんなものになるくらいなら、慎ましくお米を育てていたいです。


 彼は私への興味を失ってしまったでしょうか。少し残念です。できたら、もう少し一緒にいたいななどと思っていたのですが。まるで手切れ金のように沢山のパンと甘い水を私の前にどっさりと置いて、退屈そうにあくびをもらしました。


「じゃあ、僕は行こうかな」


「もう行ってしまわれるの?」


「うん、ここに居るのは退屈だ。僕は常に放浪していないと気が済まないのさ」


 私は彼が家を出ようとするのを寂しい気持ちで見ていました。せめて、父が帰ってくるまで家に居てくださらないかしら。


「いるかっ、アルレーリヤ!」


「ぐはあっ」


 そんな事を考えながら彼の背を見ていると、驚くべきことが起こりました。彼の体が私の横を通過し、後方に吹っ飛んでいったのです。いったいどうしたのかと家の外に目をやると、慌てたようすの隣のおじさんが、怖い顔をして立っています。彼はおじさんが勢いよく開けたドアにに突き飛ばされたようです。


「逃げろ、アルレーリヤ」


 おじさんは息も絶え絶えにそう口にしました。逃げろとはどういうことでしょう。出口を塞がれては逃げようもないのですが。


 次の瞬間、おじさんは胸から鉄の刃を生やして倒れました。


「また一人。おや、もう一人いるね……ちっ、ガキか……外れを引いたな」


 おじさんの後ろから現れたのは重そうな鎧で全身を守る女騎士様でした。私を見たとたん、苦虫を噛み潰したような顔になって、銀に煌めく大きな剣を構えました。もう一人とは私のことでしょう。つまり、私はこれからおじさんと同じ目にあうということです。


「ひい!?」


「私だってやりたくてやってるワケじゃないんだ。恨んでくれて構わない」


「逃げろ、アルレーリヤ……、そいつ、お前の親父も……」


 おじさんの言葉に、全身がこわばってしまいました。父も……?なんですか?どうなったというのでしょう。


「ち、父が……どうしたのですか……」


「多分、私が殺した」


 頭が真っ白になりました。父が殺された?どうして。この苦しい境遇の中で文句一つ漏らさず、母のため、アルのためと汗を流して働いてくれたあの人が……


「どうして」


「上からの命令だよ。悪いね」


 女騎士様は淡々と剣を掲げました。その筋には一切の躊躇も感じられません。その影はどこまでも大きく見えて、小さな私をいっそう縮こませました。ああ、或いは。彼は神様が使わしてくださった天使様であったのかもしれません。私の定められた死を哀れにお想いなさって、最後にパンと水をくださったのでしょう。父にも天使様はやってきたのでしょうか。

 どうか、その最後が安らかであったことを祈ります。そして、私の最期が長く苦しいものにならないことを望みます。


「へえ、そういうのか」


「なんだ、もう一人いたのか……ああ、クソ。また子供か!」


 私の横に天使様が立ちました。その表情に怯えはひと欠片も見えません。勇ましく、堂々とした立ち姿で、恐ろしい女騎士様を見据えております。


「天使様……」


「天使?僕のことかい?言われてみれば、一応天使か。神の使いだもんな……よく分かったね」


「天使……教団の者か。ならば、子供とはいえ容赦しない」


「いや、さっきから教団云々関係なく容赦なかったじゃん、君」


 天使様に剣が向けられます。いけない……どうしましょう。このままでは優しく聡明な天使様が傷つけられてしまいます。せめて、この身を盾に逃がして差し上げられないでしょうか?どちらにせよ、父を失った私はもう生きていけないのですから。


 しかし、その試みは成せませんでした。すっかり腰が抜けてしまって動けません。なんと情けないことでしょう。私は恩人に礼を返すことすらできないようです。


 剣が天使様に襲いかかります。どうか避けて下さい!天使様!


「いってこーい、Ex-107-B」


「@あ゛※あ゛%ぁ゛/ぁ゛>!?」


 私の後ろで恐ろしい叫び声が聞こえたかと思うと、つぎの瞬間、女騎士様の首が消えてしまいました。一瞬の時間が過ぎて、切り口から血が吹き出し、暫くしてその体は倒れました。何ということでしょう。ですが、考えてみれば当然です。天使様に刃を向けて、無事でいられる筈がありません。


 叫び声の主はどろどろに溶けた体と、二つに裂けた右手、あまりにも大きく肥大化した左手を持つ、血の色をした髪の毛を蓄えた何かでした。服のようなものを身に付けているようですが、恐らく人では無いでしょう。天使様に従っていたようですが……精霊様かしら。


「騎士長がやられた?」


「どこにそんな戦力を隠していたんだ!?」


 天使様はニヤリと私に笑いかけました。天使の方のお気持ちを計るなどできる筈もありませんが、その表情を私は恐ろしいと感じました。


「やっちゃえ、奴らは自分達の幸せの為に無辜の民を殺しているよ」


「……£※◆_%@!?」


 精霊様が目に求まらぬスピードで駆け抜けて行きました。私はその後ろ姿を見送ることしかできませんでした。

 それからしばらくの間、人々の悲鳴が続きました。家から見える範囲だけでも、その大地が次々と赤く染まっていく様がわかります。恐ろしいことです。私はこの光景に神の怒りを感じてなりません。


「今の内に逃げよう」


「え?」


「行っただろう。君はもうヒロインだ。ここで死んでバッドエンドなんて神様は許さないぜ?」


 先程見た恐ろしい笑みではありません。まるで子供のように無邪気で楽しげな笑みを彼は浮かべていました。まるで、目の前で起きている凄惨な殺戮など気にも止めていないかのよう。天使様にとって、人の生死など取るに足らぬ事象なのでしょう。


 しかし、私は人間の小娘なのです。そう簡単に父の死を受けいれることはできません。せめて、その姿をこの目で見るまではこの村から出たくはないのです。天使様に対してお断りの言葉も言えず、もじもじしていると、天使様がひょいと私を肩に担ぎ上げました。


「さあ、アルレーリヤ!いまから君の運命は籠から放たれた鳥のごとく自由なものとなった!なくなったお父さんにかわって僕が面倒を見てやる!もう少し、生きてみようじゃないか!」


 担ぎ上げられている私に拒否権はありません、あれあれという間に村から出されてしまったのでした。天使様は力もお強いようです。

Ex-107『終わらぬ幸せを噛み締めて』

・人々の幸せの為に戦い続けた四人組の魔法少女の成れの果て。チームとしての名前は「ラブリーカルテット」。

・Bは真っ赤に燃え盛る髪の毛と、どろどろに溶けた体、そして、異常に肥大化した筒状の左腕が特徴。

・筒状の腕には鉄球のような重りが握られており、遠心力によって腕による攻撃の威力をあげているようだ。

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