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シラミズアキラの異世界遊び  作者: アーギリア
1/8

1 異世界で遊ぼう

よろしくね☆

 やあ☆僕はシラミズアキラ。おっと、シラミズとアキラで分けないでくれよ。僕に名字なんて無いからね。シラミズアキラでひとつの名前さ。


 僕はスッゴい発明家なんだ。ほら、見てごらんよ。イカした銃だろ。コイツは『ウルトラデスブラスター』!引き金を引くと、引いた奴の生命エネルギーを全て奪い尽くして圧倒的威力の光線をぶっぱなすのさ!


 こっちも見てくれよ。この本は主人公を作り出す本なんだ。読んだ奴は数奇な運命に巻き込まれる。それが短編になるか長編になるか知らないけど、見てる分には滅茶苦茶面白いのさ。ちなみに、僕が手放した瞬間にどこかの世界のどこかの本棚に勝手に忍び込むお茶目さんでもある。


 どうだい、僕の凄さを分かってくれたかな?だけど待ってほしい。僕の思い付きはこんなものじゃないぜ。今回はちょっと変わったことをしてみようと思う。あれだ、異世界転移って奴さ。


 お約束に習ってトラック型の世界線移動装置を作ってみた。この正面に思いっきりぶつかればランダムな世界に飛べるってワケさ!なに、運転手がいない?そんなの、きみ、タックルすりゃいいだろ。正面からぶつかればいいんだから。


「さあ行くぞ!夢も希望もあるかわからない素敵な新天地へ!」


 僕は全力で走り出す。その距離25メートル……何で僕はこんな遠くに置いたんだ?バカかな?


「見つけたぞ!シラミズアキラ!」


「あっ、なんかしてる!」


 えっ!?客?アポくらいとりなさいよ!天才でも物理法則には勝てない。僕の異世界行きはもはや止められない。そら、ガツンと。トラックといま接触したぜ。


「ちょっと異世界行ってくる!」


「ふぇ!?異世界……!?」


「クソ、止められないか!『ほたる』、『ウルハイ』に連絡を」


「『勝利の女神』、なんとかならんのか」


「私の性質、そういうんじゃないし……こういうのは『純愛』ちゃんの役目では?」


「いや、私パンピー枠なので……単純な運動能力の関係で『平和主義』のおじいちゃんが一番有利でしょ」


「責任の押し付け合いは結構!今日は撤退だ。……必ず追いかけるからな、シラミズアキラ」


 僕の意識はフェードアウト。結構長く意識を保ったもんだ。まぁ、折角のお客さんだったし、話くらいは聞いてあげないと。さあ、少しの間おやすみしよう。目を覚ましたときには新天地さ。




「異世界より召還されし者よ、私は神である」


「ふーん、神様なんだ!すごいね!」


 なにやら転移中に召喚に巻き込まれたらしい。目の前に、現れたのはデザインセンスの欠片も感じない醜い球状の生命体だった。神様なんだってさ。


「何で召喚なんてしたのさ」


「汝、礼を知らぬ者よ。咎めはするが、しかし赦そう。今は一刻を争う」


 なんだこいつ。一刻を争う世界の危機か何かを異世界の奴に任せようとしているのか?自分でやったほうが面白いだろうに。あれか、見る専ってやつか。


「……失礼致しました。異界の神よ。願わくば、御話を詳しくお聞かせいただきたい。事情の把握具合如何で、あなたが心を砕く地における私の行動も洗練されることでしょう」


「うむ。我が世界は実に美しい秩序のもとで成り立っていたのだが、魔王を名乗る某かに乗っ取られてしまった」


「その程度の秩序だったのですね。失礼を承知で大笑い申し上げます」


「お前、まさか悪魔の子などではなかろうな?」


 んなわけないだろ。あんな人間大好きな依怙贔屓連中と一緒にするな。僕はシラミズアキラだ。そんなこともわからないとは、神とやらも存外大したことはないね。


「そなたに特別な力を授ける。魔王とその一味を滅ぼし、我が世界に再び光を取り戻せ」


 ……めんどい。


「天命、確かに承りました。どうぞ、私をあなた様の世界へお送りください。必ずや、あなたの望む以上の結果を導きだして見せましょう」


「うむ、最初はとんだ不徳の者を呼んでしまったと思ったが、なかなかどうして忠義に厚い男よ。お前には私の加護を送ろう。それでは、頼んだ」


「あ、まって……いや、お待ちください。加護って何ですか」


「加護は、加護である。神に愛されし者の証明である」


 ……説明になっていない。神に愛される証明って何に使えばいいの?この程度の説明もできないんじゃ、小学5年生にすら劣る低脳具合としか言いようがない。白痴の神かな?


「その加護で、私は強くなったりするのですか?」


「何故、神の施しで強くなるのだ。人の身ならば、己の力で如何様にも強くなれよう。神の力は、人の理及ばぬところでのみ輝くのだ」


 ……あー。つまり、強くなったり、知識をつけたりは自分でできるのだから自分でやれと。そうおっしゃる?魔王攻略に何年かけさせるつもりなんですかね?一刻を争うっていったのどこのどいつだよ。


 そんなことを考えていると、僕の中に神様の力が流れ込んできた。……そして、それは僕の根幹の部分で呆気なく弾かれ、僕の外に飛んでいった。……いよいよタダ働きですね。


「ゆけ、異世界の者よ。必ずや、魔王を滅ぼし世界をあるべき形に戻すのだ」


 再び意識のフェードアウト。なんだこいつ。人の心がまるでわかっていない。魔王ってなんだよ。どういう歴史があって魔王は世界を乗っ取ったんだよ。そういう背景大事だぜ。


 まあ、神様なんて、どこもこんなもんなのかもしれないけどさ。




 僕はあまり豊かでなさそうな小さな村を歩いていた。


「新しい王の統治となって5年がたった。生活は苦しくなるばかりだ」


「全くたまらねえぜ。年々収穫料は減るのに税は増える一方だ。王は俺たちを殺そうとしているに違いない」


「そういえば、最近できたあのとんでもない高さの塔はなんなんじゃろうなあ。あんなもん建ててる余裕があるならもう少しこっちに金を回してほしいもんじゃわい」


 聞こえるのは不平不満の声ばかり。辛い辛いと繰り返し、いっそその境遇を自慢しているようにすら聞こえる。


 僕はこの世界にやって来て、自分の周囲の環境をひたすら整えていた。できるだけ楽しく生きたい、ただそれだけを願って。


 まず、この世界について解ったことを纏めておこう。一つ、魔王は人間。普通に新しい王様だった。これまでの伝統とか完全撤廃したいわゆる革新派。彼がトップになってこの国の宗教の影響力が非常に薄れたらしい。


 二つ、中央と郊外の格差が露骨。ここはみんなで鎌やら鋤やら降ってるけど、中央だとフツーに電気使われているからね。自動車とかテレビとかはまだないみたいだけど。


 三つ、魔王はこの世界全ての統治者ってワケじゃない。他の国には普通に他の王様がいた。多分、あの神様はここから自身への信仰が弱まるのを危惧しているんだろうね。この世界、宗教国家ばかりだったようだし。


「僕は、不変の石より変わりゆく彩りの花をみる方が好きだなぁ」


 僕は、空を見上げて、神様に聞こえるように呟いてみた。本当に聞こえたかはわからない。


 ……さて、頼まれたことをそろそろ始めようか。魔王討伐の始まりだ。まずは仲間がほしいけど、近くに酒場なんか無さそうだ。いや、こんな農村の酒場に行ったところで要るのは立派な体躯のおじさんだけだろう。そんな華の無いメンバー、嫌だよ。


「やっぱりかわいい女の子が必要だよ。こういうものには需要ってものがあるのさ。僕は可愛いけれど残念ながら男でも女でもない。強いていうなら男の子寄りさ。ルックス的に女の子が欲しいね、役に立つかは二の次にしても」


 ここで都合よく女の子の悲鳴が聞こえた。僕は呑気に声の聞こえた方向に向かっててくてく歩く。そら、見えてきた。あれは……女の子が男二人に食べ物を取られたところのようだ。ひどいなあ!


「返して……わたしたちの、だいじなご飯なんです」


 男二人は聞く耳を持たない。すたすた歩いていってしまう。可愛そうに。……助けないのかって?やだよ、あんな屈強な二人と何でやりあわなきゃならないんだよ。


 いい感じに男達が見えなくなったので僕は颯爽と女の子の前に現れて見せる。女の子は僕の姿をみて怯えたように肩を縮こませた。


「怯える必要はない。僕は君の味方さ。そら、パンをあげよう」


 僕は懐からパンっぽいものを出して女の子に与えた。僕の発明品、『イグジストリメイカー』でその辺の石を変化させたものだ。栄養も味もパンと変わらないので、問題はないだろう。


「本当に?」


「ああ、君が望むならおかわりもあげよう。……条件がひとつあるけどね」


「どうすればいただけるのですか?」


「簡単なことさ。この本を読んでくれればいい」


 Ex-008……『虚構のその先に』!最初にちらっと説明した主人公メーカーさ!これさえあれば、こんなぱっとしない女の子もたちまちヒロインになれるんだ!……「悲劇の」「救国の」「滑稽な」……形容詞が何になるかはわからないけどネ!


「私、文字なんて読めません」


 心配ごむよーう!この本は文字が読めない奴も、本が苦手な奴も関係なく読めちゃう!何でかって?知らない!そう言うもんだからだ!……ということを、僕は彼女に丁寧に伝えてやった。女の子は何も分かっていない様子で頷いた。


「それを読めば、パンをいただけるんですね?……あの、父の分もいただけたりは」


「ん~、強欲なんだからぁっ!」


「あっ、す、すみません!私にいただける分を少し残すことに……」


「だあれもあげないなんて言ってない!あげちゃーう!お父さんの分だけと言わず君の親戚友達赤の他人様のぶんまであげちゃう!」


「あ、はは、はぁ。で、では、読みます」


 交渉成立だ。僕の敏腕交渉術が功を奏してしまった。まあ、お腹ペコペコな子にパン食べ放題突きつけるとか選択肢無しも同然だけどね!


 僕は、こうして、可愛い……?かはわからないけど女の子に取り入ることに成功した。家に呼ばれたのでちょっと行ってくる。なに、パンなんてその辺のもの変換すればいくらでも出せるから。あ、そこの石拾っとこ。

☆Ex-008☆『虚構のその先に』レベル6

 シラミズアキラの七つ道具の一つ。書籍型イグジスト。読んだものに数奇な運命を与える。

 内容は風変わりなファンタジー小説。現実世界がだんだん夢の世界に侵食されるという内容である。

 一度読み始めると、その者は必ず最後まで読み終えることになる。読了にかかる時間は僅か1秒未満。ページ数は明らかに200ページを超えているため物理的に不可能なはずだが、これまでの効果対象者は、例外なくその内容を詳細に説明することができている。

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