01 転生者と吸血鬼。
ハロハロハロウィン!
吸血鬼に追われて最終的にイケメン吸血鬼リレロに事故で捕まる夢を見ました。10/26。
それをもとに書き上げましたよ! 吸血鬼もの!
ハロウィンのおともにどうぞ!
R15で踏みとどまりますように!←
私は転生者である。
それはついこの間、思い出した。
鏡を見て、ふと思ったのだ。
前下がりのボブは、黒い髪。黒い瞳は丸く大きい。ちょっとキリッとした印象の親譲りの整った顔立ち。
他の人生をしていたはずだと。別の顔があったと。
夜見た夢を、急に思い出した時みたい。
ハッと思い出したのだ。
正直、幸せな人生とは言い難い。
何故なら父親に生まれる前に捨てられてしまったからだ。
欠陥品のように生きてしまった。すごく生きづらい人生だった。
生まれ変わりたいと強く願っていた。
幸い、生まれ変わったら両親が健在。そして愛情たっぷり育てられた。
幸せな転生だと言えるだろう。
ただし、大きな大きな問題が一つあった。
前世の世界は地球というところだった。
現世の世界も地球というところ。
違うところと言えば一つ。
吸血鬼が実在していることだ。しかも共存している。
幼馴染の男の子が、吸血鬼であるくらい身近な存在だ。
学校ではヴァンパイアクラスが設けられている。
吸血鬼だけれど、太陽にはそれほど弱くない。十字架に弱いどころか、身につけているところを目撃したことある。ニンニクも怖がらない。噛んでも人間は吸血鬼にはならない。でも吸血鬼の血は治癒力が高い。不老不死ではない。
高校に入ってから、女子達は騒いでいる。高校では吸血行為が許されているそうで、イケメンな吸血鬼に吸われたいときゃあきゃあ騒いでいるのだ。
吸血鬼は、皆が美人美形揃い。幼馴染も例外ではなかった。それに吸血行為は、快楽的らしい。女の子達が話していた。美形な異性と親密になれるからと、吸われたい女子は多い。
女子である私はというと、抵抗があった。
前世からホラー系の映画が好きで、ハロウィンでは吸血鬼の仮装だってしたことあるし、ヴァンパイアラブストーリーも好きだったけれど、血を差し出すことに抵抗を覚えた。
だって血は生命の源じゃないか。
それを奪われるなんて、冗談じゃない。
幸せになりたい私にとって、命はとてつもなく大事だ。
だから寿命を奪われるわけではなくとも、私は拒んだ。吸血はちょっとでいいらしいが、それでも嫌なものは嫌だ。
幼い頃、転んで怪我をした際に、止まらない血を幼馴染の吸血鬼に舐められた時も、平手打ちをして怒ったことがある。以来、険悪ムード。
しかし同じ高校に入学。そして私の血を狙っている。
「キララ!! 今日こそは吸わせろ!!」
「断るっ!!!」
ちょっと恥ずかしいけれど、私の名前はキララ。
音宮キララ。
キラキラネーム。この世界では、割と普通だ。
幼馴染の名前なんて、岡本ライトである。
昼休みになるとヴァンパイアクラスから、ライトはやってくるのだ。
吸血目的。
私は逃走するために開いていた窓から飛び降りる。
深紅色のハイウエストスカートが捲れるが、下には黒のスキニーを履いているので下着は見られない。
私とライトのリアル鬼ごっこは、学校中が知っている。もうイベント化してしまったのだ。
校舎のあらゆる窓から視線を感じながら、私は着地した中庭を走った。
遅れて追いかけてきたライトが窓から飛び降りてくるが、決して振り返らない。走った。今日もランチ抜きで、昼休みは逃げ回らなくてはいけない。
かれこれ一ヶ月はやっている鬼ごっこだ。
そろそろ逃げ惑う場所が、なくなってきた。
捕まるのは、時間の問題だ。
でも逃げるが勝ち。大体、吸血行為は合意の上ではなくてはいけない。無理矢理なんて、罰が下る。教師に注意されても、ライトは追うことをやめない。味を覚えたからなのだろうか。獲物と認識されていると思うと、ゾッとする。
「追い詰めたぞ! いい加減オレの専用ランチになれ!!」
「断るって言ってるでしょうが!! 他の子にしなさいよ!」
「ハッ! 一回吸われればそんなこと言えなくなるぜ!」
「アンタに吸われる気はさらさらない!」
ライトはこういう性格だが、他の女子生徒に言い寄られていることを知っている。度々見かけているし、ライトに吸血されたい子達に「いい加減にして」なんて言われている。
いやこっちのセリフだ。
いい加減嫌がる私を追い回さずに、望んでいる他の獲物にかぶり付けばいい。
ライトファンの女の子達の不満が溜まりつつあるが、私の不満も爆発寸前である。
選択ミスをして、校舎の行き止まりに来てしまった私とライト。
「お。ついに食われるか?」
二階の窓から覗き込む男子生徒が笑った。
牙が見えたので、吸血鬼だ。
冗談じゃない。
ジリジリ迫り来るライトに向かって駆け出す。
「!? っ! キララ、てめっ!」
ライトの肩に足をかけて、勢いを殺すことなくジャンプした。
開けられた窓に手をかけて、腕の力で這い上がる。なんとか二階に逃げれた。
窓はスパンと閉める。
伊達に一ヶ月、吸血鬼から逃げ延びていない。吸血鬼は人間より身体能力の高い。私は引けを取らないけれどね。
「ん!?」
そのまま逃走を続けようとしたが、腕を掴まれた。
笑っていた吸血鬼の男子生徒だ。
「追いかけるくらい血が美味しいの君? 味見させてよ」
ゾワッと鳥肌が立った。
世にも美しい顔を持っているからって、誰もが血を寄越すと思うなよ!
くそ! クラッとはするけれどね! 前世から面食いなもんで!
「すみませんが、お断りします!」
手を振り払って、私は逃走に戻る。
すぐに窓に張り付いたライトを、視界の隅に捉えた。軽くホラーだ。
廊下を早歩きで去ろうとしたが、窓を開けて校舎に入ったライトが来る。
教師がいないことを確認して、私は走った。
階段を上がって三階へ。隣の校舎に行こうと渡り廊下を駆けたが、前方に音楽の教師。癖のある黒髪をハーフに束ねた彼は、吸血鬼である。
寡黙な先生だが、吸血鬼である以上信用出来ない。
私は右を見た。
昇降口の天井がある。そこに飛び移るしかないと考えた。
二階分の高さがあるが、二階の縁に掴まれば怪我をしないはず。
私は躊躇なく飛び降りた。
しかし計算外なことに、そこに人がいたのだ。
横たわって昼寝でもしていたのだろう。
一度縁に掴まったが、運が悪いことに彼の上に落ちる形になる。
うまい具合に避けて着地することも出来るけれど、彼が起き上がってしまた。
衝突してしまう。そう思った瞬間、がっと受け止められた。
「おっと!」
私を抱えるように受け止めたのは、吸血鬼だ。
吸血鬼の男子生徒。それも学校ではちょっと有名な人だった。
キスだけ食事を済ませるから通称・キス魔と呼ばれている二年生の生徒。
名前は確か……リレロ。リレロ先輩。
華やかなオレンジ色の髪をしている彼の顔立ちは、韓流スターばりに整っていて綺麗。ブラウンの明るい瞳を間近で見つめてしまった。そう見惚れている場合ではない。
「キララ!」
ライトの声にビクッとなる。
「キララ? ああ、君が例の鬼から逃げ惑っているって噂の黒兎ちゃんか」
噂。噂か。
黒兎はそういうあだ名がついたのか。それとも先輩が言っているだけだろうか。
逃亡したくとも、先輩がしっかり両足と肩を抱いているので、ジタバタもがいてもだめだった。ビクともしない。
吸血鬼は力が強い。流石に力では叶わない。
ストン、と目の前にライトが降ってきた。
「やっと捕まえたぜ、キララ!」
ステーキを見るような目で見ていたものだから、思わず先輩にしがみ付く。
そして頭が過った。
誰かに噛まれて吸われるくらいなら、このキス魔の先輩の方がマシじゃない?
「ライトくんだっけ? 捕まえたのは、俺だよ。君じゃない。だから」
先輩は言葉を続けようとしたけれど、その前に私は先輩に抱き付いた。
「私はリレロ先輩の専用に決定!!」
「!?」
「はっ!?」
リレロ先輩も、ライトも驚愕した顔をする。
私はプルプルと震えていた。それはリレロ先輩にも伝わっただろう。
あやすように、片手で頭を撫でられた。
「ーーーーということだ。ライトくん。キララちゃんは今日から俺専用のランチになったから、諦めて」
「なっ……!」
リレロ先輩はそう言った。ひょいっと二階の渡り廊下に私を抱えたまま飛び込むと、歩き始める。絶句したライトは置き去りだ。
リレロ先輩に連れて来られたのは、多分二年生が使う空き教室。
そこで私は降ろされた。
「……話を合わせてくださりありがとうございます、リレロ先輩」
ライトがついてきていないことを確認して、口を開く。
吸血鬼は聴覚も優れているから、気をつけなくちゃ。
しかしリレロ先輩は、魅惑的な微笑みを浮かべたまま近付いた。
「話を合わせた? 違うよ」
「っ」
両腕に挟まれて、壁ドン状態になる。
「キララちゃんを本当に俺専用のランチにしたんだよ?」
韓流スターばりにイケメンの微笑だが、目は獲物を捉えた鋭い光が宿っていたものだから、私は強張った。