異能バトロワ
俺は多々見輝。ごく普通の高校一年生だ。ある日、突然目の前が光ったかと思うと、ピンク色の髪の美少女が現れて、すごく可愛い声で俺にこう言った。
「私は貴方の従者です。たった今、貴方を含む百人の人間が進化の光を浴び、異能に目覚めました」
最高だ。理想の美少女が従者になった上、俺は異能に目覚めたのだ。
「ただ、異能使いが他の異能使いの命を奪えば、相手の能力も奪うことが出来るのです。他の異能使いが貴方の命を狙ってくる……かもしれません」
それは嫌だ。折角有り得ない程の幸運を手にしたのに。
「どうすればいいんだ」
「こちらも能力を使いましょう。貴方に与えられた異能は……」
半年後。
双眼鏡を覗くと、倒壊した母校の上で巨大なぬいぐるみを連れた幼女と、赤い髪の美青年を連れた女が対峙している。
ここだけじゃない。今や世界の半分近くが、異能使い同士の戦いで瓦礫の山だ。
幼女と女は10日前からバトルアニメのような激しい攻防を繰り広げていたが、一瞬の隙を見せた幼女が巨木に体を貫かれ、ようやく終わった。
「やった。もう力を持ってる奴は他にいない…!!」
女は瓦礫の山の上で大の字になり、勝ち誇った笑いを浮かべる。
「どう?秀介。私こそが唯一無二の超能力者よ」
美青年が女に囁きかける。
「ご主人様。まだ一人残っています」
俺は素早く女に近寄り、ナイフで心臓を貫いた。
「『自分への敵意を消滅させる力』。それが俺の能力だ。俺は最後までこの力で自分を守り続けて、最後の1人になるのを待っていたんだ」
俺のタネ明かしに、女が返事をすることは無かった。
「輝様。たった今をもって、貴方が最後の異能使いとなりました」
淡々と告げられた。今までは何か良い事がある度に喜んでくれたのに。『おめでとうございます』くらいは言ってくれてもいいんじゃないか?
「やはりこういう結果になったか」
突然、目の前に白い髭を生やした仙人のような老人が現れた。
「試しに100人の人間を進化させた上で、理想の姿で誘惑をかける天使達を遣わせてみたが――」
誰だお前は、と騒ぎ立てる俺と、荒廃した風景を、冷ややかな目で代わるがわる見つめ、最後に老人は言った。
「人類を進化させるのは、まだ早かったようだな」
老人は俺に向けて光を放った。そこで俺の意識は永遠に途絶えた。