第六話 -潜む者達-
「ここは…」
てっきり岩盤の間に落ちたのだと思っていたが、どうやら違うらしい。
見渡す限り暗く、視界は無いに等しいが、地面に触れた感触は確かに人工物のものだった。
「コンクリート…なんだってこんなものが学園の地下に」
随分高くに光の点が見える。
どうやらかなりの距離を落ちてしまったようだ。
突然室内を明かりが照らす。
同時にガシャっと、鉄のような音がした。
「誰か居るのか?!」
「?!」
幸い、四方を何かに囲まれて姿は隠れていた。
規則正しいラインの四角い物体。
コンテナのようにも思えた。
それがいくつもあり、全てのコンテナの上からブルーシートが被せてある。
障害物の向こう側で男の声が聞こえる。
「あぁ〜、さっきの衝撃で地盤が緩んだのか」
「落盤でもあったのか。面倒だなったく」
足音と声から察するに、男は二人。
徐々に近づいてくる。
足音とは別の音も聞こえる。
鉄の擦れるような、とても無機質な音。
二人とも長身の銃を手に持っていた。
「ほんっとに丁重に扱えっつの。もし」
「ばーか石に言っても仕方ねぇだろ」
「それもそうだな」
ゲラゲラと下品に笑う男達。
足音は次第に大きくなる。
そして二人の足音がやんだ。
彼らの持つ照明がコンテナの裏を照らした。
「たく、後で天井も修理するか」
「へいへい、どうせこういう雑用は俺ら下っ端の役割ですよっと」
悪態をつきながら石のようなものを退かしていく。
その様子をコンテナ一つ分離れた場所から観察していた。
(なんだあいつらは…。軍人?だが正規の軍服じゃない。それに学校の地下にこんな部屋があるなんて聞いたことが……)
ノブはコンテナに被せてあったブルーシートに体を隠し、彼らの様子を見ていた。
天上のライトの位置から推定するに、地面から30mはあろうか巨大な空間だった。
特に装飾も無く、出入り口も男達がやってきた一カ所のみ。
石を退かし、一人がブルーシートをめくった。
コンテナからはみ出した物体が見える。
ノブは遠目を凝らして見るが、その正体に驚愕した。
「ふむ…。傷一つ付いてないなんてな」
「流石は月の石製だ。これで伯爵のヤローに一泡吹かせてやるぜ」
コンテナの中から覗く黒光りのもの。
明らかに銃身であった。
それらがおもちゃを片付けた後みたいに、山積みになっている。
「まったくめんどくせぇなぁ」
「ま、これも仕事のうちだと思ってあきらめるしかねぇだろ」
そんなことを愚痴りながら二人は部屋を後にした。
遥か上部にぽっかりと口を開けた部屋に残されたのは、大量の兵器の山と、それに埋もれたノブ。
先ほど自分が落ちてきたらしい場所へ行く。
手近なところにあった銃を手に取った。
この武器の山がクッションになって怪我を免れたようだが、その武器にも自分すらも無傷だと言うのが不思議だった。
今まで見たこともないような型ではあるが、握るグリップ、レバー部分と長く突き出た銃身から明らかに銃だと分かる。
銃身の下に刃物が付いてるタイプもある。
「なんだここは・・・。何故で銃が?いや、それよりどうして学園の地下にこんな場所が」
この部屋は軽く見積もって30メートル四方はある。
その部屋いっぱいにコンテナは置かれている。
これが全て武器だとしたら、戦争でもするつもりなのだろうか。
「まずここから抜け出すのが先決か」
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その頃、学園の様子は変わっていた。
グラウンドは地割れを起こし、色付き始めていた紅葉のほとんども落ちている。
石畳や校舎の壁、あらゆるところでひび割れが見える。
保健室には先ほどの揺れで負傷した生徒達が多数押し寄せていた。
その最中、学園の化学準備室に甲高い声が響く。
「先生!早く、早く九月君を助けないと…」
「リン、彼は大丈夫だ」
焦燥しているリンが教師に詰め寄る。
リンが両手で服を掴んでる相手は、体育教諭のセッテ教師。
彼女が叫ぶたびに、茶色の撥ねた短髪と、やや育ちすぎのようにも見える胸が揺れる。
今は教師の制服を着ておらず、黒いタンクトップとスパッツの格好をしている。
トニィはというと、必死の形相のリンを懸命に宥めていた。
担任のフロイが穏やかに言う。
「既に連絡はしてあります。救助を待ちましょう」
「でも!」
「俺なら大丈夫だ」
不意にドアが開き、聞き慣れた声がした。
「ノブ?!」
「お前、大丈夫だった…」
トニィの言葉を遮って、彼の視界に黒いものが映った。
数瞬後には、リンがノブに抱きついていた。
「良かった。本当に良かった」
苦笑を浮かべて頭をかくトニィ。
「良く戻ってきたな、九月。だがその格好一体何が」
「先ほどの軍の実験の後に、聞いてるとは思いますが地面に落ちて」
その場にいた4人とも頷く。
「そしたら偶然にも服が木に引っかかって助かってました。ようやく這い上がってこれたんですが、誰もいなくて探すの苦労しましたよ」
ノブはとっさに嘘を付いた。
学園の地下に巨大な兵器が埋まってる、そして見知らぬ人間が地下に潜んでいる。
そんな事を言っても、ただ混乱を招くか、妄想だと笑い話にされてしまう。
なので先ほど見たことは黙っていようと決めていた。
地下にあった巨大な部屋。
本当は謎の男達が出て行った扉の上に排気ダクトを見つけ、そこから脱出した。
外に出られれば上等だと思っていたところ、偶然にもこの学園の排気ダクトと繋がっていた。
そんな場所を通ったお陰で、もともとススやホコリで服が汚れたのだが、嘘を付くためにわざわざ泥まみれにしてから来たのだった。
(それにしても、何故あれほどの衝撃が…)
眉根をひそめていたセッテ教師とフロイは、互いに視線で頷きあった。
「あ〜あ〜、リンまで服が泥まみれじゃねぇか。まったく、二人ともシャワー室行って洗って来いよ?」
場の気まずさに耐えかねたトニィはややわざとらしく言った。
そうだな、と同意したノブに対してリンはやや顔を背けていた。
それぞれ解散しようとしてた三人の生徒に向かって、やや小さめのメガネを掛けた教師フロイが告げる。
「あぁそうそう、今日の授業は全て中止だから。ホームルームも無し。用が済んだら早く帰るように!」
「せんせー、明日はー?」
「メールを要確認ー!」
三人を見送った後の部屋には、険しい表情をした二人の教師が残った。
彼らの視線はあの亀裂の先に向けられていた。




