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第五話 -変化の前触れ-

空は青い。

当然雲は白い。

暑くも無く、冷たくもない風が心地良い。

空を見上げながらグラウンドに倒れこんでる二人はそろって、そう思った。

そんな彼らの二人の頭上に、一つの影が伸びる。

ドーナツ頭の影は呆れたように、倒れた二人を覗き込む。


「まったく。普通間違える?相当な馬鹿か、よっぽど死にたいかのどっちかだと思うよ」


頭上から容赦ない言葉が浴びせられる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

「ぜぇ、はぁ、ひぃ……」


肩で息をしながら、反論する余裕もない二人。

体操服は水風船が破裂したかの如く、汗が滴っていた。


「ノブも律儀にトニィなんかに付き合わなくてもいいのに。ほれ差し入れ」


あからさまにため息をつきながら、リンは水の入ったペットボトルを二人のおでこの上に置く。

なんとか御礼の言葉を搾り出すが、やはり倒れたまま動けないようだ。


「まったく・・・」


呆れながらもリンは、二人が落ち着くのを待った。

確かに準備は始業までには間に合った。

間に合ったのだが、準備の内容そのものを間違えていた。

体育の内容は担当の教諭から事前に知らされる。

月の初めに、今月は何をすると指示があるのだが、日ごとに授業内容は違う。

今日はバスケットの授業の予定だったのだが、なぜか彼らは来週の授業の内容で準備を進めていたのだった。

うっかり、だの寝ぼけてて、だのといった言い訳は当然通用せず、おまけに言い訳した事が体育教諭の怒りを買ってしまい、こうやってグラウンドを30週走らされたのだった。


「そうは言っても、一応友達だし」


ノブは一口だけ水を飲んで、彼を弁護する。

乳酸の溜まった身体では表情を作るのも困難だったが、なんとか苦笑いを浮かべながらリンの方を見やる。


「困った時はお互い様って言うだろ?」

「さすが、持つべきものは友達だよぉー!」


がっしりとノブの手を両手で握りしめ、大げさに感激を表すトニィ。

感激に浸ってる約一名と、付き添ったもう一名に彼女は再び冷ややかな言葉を浴びせる。


「それで協力した結果間違えて、二人とも走らされる羽目になったわけね」

『う・・・』


さすがに二の句が繋げなかった。

降参の印に二人は仰向けに倒れた。

そんな二人様子に、リン肩をすくめる。

それからちょうど倒れた二人の間に腰を下ろした。



ウゥーーーーーーーーーン



突然、辺りに警報が鳴る。

その音は低く、ずっしりと遠くまで響いていた。

滅多に耳にすることは無いが、火事や天候が極端に悪い時などに稀に鳴る事がある。

警報は3回繰り返して鳴った後、公共のスピーカーから男の声が聞こえた。


「これより、遠州灘の沖合い100kmの地点で海洋研究による超高出力エネルギー実験を行います。実験に伴う影響で地震や津波の恐れがありますので、住民の皆様は速やかに避難してください。繰り返します・・・」


規則正しく冷静な単語のリズム。

感情のこもってない男の声は、人工的に作られた機械音のそれである。


「あぁ、そういえば今日だっていってたな」


思い出したようにノブは呟く。

二人もそれに同意する。

2週間前に同じ警報が響いた。

その内容は、二週間後に超高出力エネルギーの実験を沖合いでやるというもの。

今スピーカーから流れている内容と同じものである。

超高出力エネルギー。

具体的な説明は一切なされてないが、バビロン皇国の軍隊の実験ということだけは皇国側から明示されている。

様々な軍事研究・開発がなされている皇国の軍隊。

宇宙で生活出来るのに100年は早まったと言われているほどの技術力を持った大国だが、その技術は民間企業にまで降りてきてはいない。

ふたを開けてみれば、原材料も今まで見たこともないもの、どういった仕組みで動いているのかも皇国の技術者にしか分からないという徹底した隠匿ぶりであった。

そのため今回も"超高出力エネルギー"とだけ銘打って、具体的にどういった影響を及ぼすのか、どのように利用されるのか等も全く公開されていなかった。

だが民間人に危害を及ぶようなことは今まで無く、現に彼らもさほど心配はしていないようだった。

そのためだろう、トニィも楽観的に述べる。


「津波って言っても、ここは随分高い場所にあるから平気だろ?」

「でもニュースでは水素爆弾より出力があるとか、そういう事も言ってたよ?」


特に彼の意見を否定するつもりはなかったのだが、リンはニュースでの知識をそのまま述べた。

昨今、特に皇国に関しては様々な話題が飛び交う。

皇国の技術は地球外の金属を抽出して使われているだの、実は製造機械に人柱が組み込まれている彼らの怨念の力だの、評論家は自由そのものである。

バビロン皇国が現れ、その技術力で人々の暮らしはより豊かになっていった。

当然、事実上植民地化されたこの旧日本も例外ではない。

事実上植民地というのは、国籍のみを皇国へ移行されたためである。

日本人やそこに住まう人々の行動に制限などは設けていない、という一見すると表面上のみの支配だとも感じられる。

他の植民地化された国々もそうだ。

無論、皇国の軍事力が揺るがないものであることの表れでもあるが。

リンから告げられた事に、はぁ〜っと溜め息をついたトニィは海の方を見ながらボヤいた。


「まったくどうしたらそんな恐ろしいものを作り出せるのやら」

「科学の進歩は嬉しいけどなんか複雑ね」


バビロン皇国が出現以後、科学技術は目覚ましい進化を続けている。

カメラが内蔵されたコンタクトレンズや、携帯電話と腕時計が融合したもの。

画像が空間中に現れ、なおかつその画像に手で触れて動かせるの映像出力装置。

だがこういった製品のプロトタイプは、主に軍事的に利用されることが前提だ。

それは、この近未来技術のほとんどが皇国によるものである。

生活の向上のためでなく戦争のために作られたという事実は周知のものであるため、手放しに喜んでいる人は少ない。

議会で論争は絶えなかったが、それでも平和主義を唱えていた元日本人なのだ。


「それに、誰だって戦争なんてしたいわけじゃない」


ノブはそう言葉にしたつもりだったが、遠くの方から聞こえた爆音にかき消された。

遠くで聞こえたと思ったら、鼓膜がビリビリ痺れる感覚を覚える。

爆音に伴った衝撃はすぐに到着した。

数瞬遅れて、むわっとした熱気を伴う風が吹く。

爆音と一緒に地面も揺れた。

だが、自然現象の地震ではない。

振り子のように一度だけ大きく揺れ、それを修正するかのように左右に揺れる。

その振動に耐え切れず、3人は地面に手を突く格好になった。

視界を振られて気持ち悪かったが、ノブは確かにパキッパキッと何かが弾ける音を聞いた。

揺れからだろうか、ノブは一瞬グラウンドに黒点のようなものが見えた気がした。

それが気のせいではないと分かった頃には既に遅く、グラウンドに亀裂が走る。

危険を感じたが、先ほどの衝撃と未だ続く揺れのせいで立ち上がることはできない。

グラウンドがひび割れ、ノブの足元一帯が崩れ落ちた。


「な……」


そのままノブは、穴に飲み込まれるように落ちていく。

揺れる視界の中、異変に気づいたトニィは助けようと手を伸ばした。


「ノブ!」


だがトニィの伸ばした手は、虚しくも空を掴むのみだった。



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