第四話 -autumn breeze-
空は青い。
当然雲も白い。
行き交う人ごみ。
そこでは男女別に皆、同じ服を着ていた。
やや小高い丘にその学校はあった。
背後に緑豊かな山を抱え、正面には開けた町並み。
遠くには海が見える。
ここリスティート学園は、日本に在った。
「おーい、ノブ!」
校門側から走ってくる人影がいる。
桜の並木の続く遊歩道。
ありふれた学校のようだが、実に300mもある。
それがこの学校の入り口。
今はもう秋なので桜は咲いてないが、春の盛りの頃になると木々はピンクの衣を纏い、それは見事な通りへと変化する。
ノブと呼ばれた制服姿の少年は、そちらに手を振ってやる。
「今朝も来てるらしいぞ?いい加減しつけーよなぁ」
追いついてきた彼は頭をかきながらごちる。
つんつんヘアーの茶色の髪の毛に、人懐っこい顔立ちの少年。
その風貌からは、どこか犬のような印象も感じられる。
やはり、ノブと同じ制服を着ていた。
「仕方ないさ、東から回っていこう」
「あいあいさー」
行き先を示すと、軽い返事が返ってきた。
普段彼らが登校するこの長い道が正門。
南側に位置する。
そして通称裏門と呼ばれる、門そのものは無いが通り抜けできる場所が校舎の東側にある。
非常時に使われる事があるというが、良い意味で言えば自然公園、悪い意味で言えば密林のような東門への道を通る者はあまりいなかった。
居るとすれば単なる物好きか、正門が閉まっていた場合に遅刻した生徒が使うくらいだろう。
その自然公園には毒蛇のやら熊がいると噂されるが、実際に見たものはいない。
「そういえば昨日のテレビ見た?『皇国の騎士!シャルニール伯爵、謎の死の正体を追えっ!』ってやつなんだけど」
「あぁ、そのワイドショーなら見たよ。ど真面目な顔して黒魔術のせいだと力説してるおっさんみてたらジュース噴き出しそうになった」
「だよなー!いつも真面目な番組なのに、俺もアレはさすがにこらえ切れなかった」
「しかも笑いに拍車をかけてるのが、魔術説を唱える本人が仏教徒で魔術とは何ら関係ないしな。めいっぱい自説を展開する度に汗が飛び散ってた。あれはどういう体の構造してるんだ?」
飄々とした口調で話す友人にノブと呼ばれた彼もまた、冗談で話す。
学生時代の気の許せる友達とは、本当に些細なことで笑い会える。
しかし・・・。
「テレビもあぁいうバラエティー作ればいいんだけどなぁ。最近のマスコミっつったらまったく毎日のように」
「トニィ」
「っと、すまねぇ」
ノブが穏やかに制止するとばつが悪そうに笑った。
両手を頭の後ろで組み、トニィは後ろに聞こえるよう声を拡げた。
「どこで誰が聞いてんのかわかんねぇもんな、リン」
「・・・・ん、うん」
ノブ達の右後ろの木の陰から、一人の少女が顔を出した。
後ろで三つ編みを丸型に結った髪。
ノブはいつもドーナツみたいだと思っていた。
やや幼さが残る顔立ちだが、彼らとは同級生。
この学校には珍しい東洋人のリンだが、洋風なこの学校の制服を着こなせていた。
彼女もまた、ばつが悪そうな顔をしてうつむきがちに呟く。
「なんでアタシがいるって・・・」
それに対してトニィが答える。
「そりゃー」
「そりゃー?」
「ノブが居るから」
さらりとトニィが言うと、リンの顔がやや朱に染まる。
少し躍起になってリンは反発した。
「な、なんでノブがいるからアタシがいるってことになるのよ!」
「さぁー、なんででしょー」
トニィは面白がって、さらにからかう。
ノブの目の前でトニィとリンの追いかけっこ劇が始まった。
そんな二人を見、当事者であるはずのノブは「まるで犬の兄弟げんかみたいだな」と以前テレビで見た映像を思い出していた。
「もう・・・」
リンはそう愚痴りながら、スカートをはたいて重大なことを告げる。
「今日は体育の当番でしょ?いっつも遅刻ギリギリに来るんだから・・・」
「いっけね!急ごうノブ!!」
言うが早いか、トニィはすでに走り去ってしまった。
そう、体育教師のセッテ先生は怖いのだ。
授業前に準備係が準備を終わらせてなければならない。
以前に準備を忘れた生徒がグラウンドを20週走らされた逸話が残っているため、それも起因して生徒達の恐怖心を煽る。
なお、当番はクラス内でローテーションでまわす。
「俺、当番じゃないのに・・・」
少し落胆した様子でノブはトニィの後を追う。
恐らく彼もトニィに付き合わされて仕事を押し付けられるだろう。
授業開始まであと20分。
この広大な学園内で果たして間に合うだろうか。
くすっと笑い、リンは走っていった二人の後を追った。
彼女の横を一枚の赤い葉が風に流された。
季節はもうすぐ秋。
この緑豊かな学園も秋色の衣を纏う。
そしてこの学園が設立して今年で3年目。
日本が日本島へと名前を変えたのも、3年前の事だった。




