第二話 -ノストラダムスの予言-
大昔に、ノストラダムスという予言者がいた。
彼は1999年に世界は滅亡するという言葉を遺してこの世を去った。
彼の残した予言を巡って、様々な論争が繰り広げられることとなる。
根拠の無い空論だと言うものから、神の啓示による人間の業の深さによるものだという者まで出てくる始末。
だが当時は誰もが信じてはいなかった。
世界の誰もが、西暦2000年という世紀の瞬間に胸を膨らませていた。
そう、世界はまだ続くものだと信じていた。
西暦1999年。
オーストラリアのエアーズロックに、巨大隕石が落下。
それによりオーストラリアに住む住民、およびオセアニア諸国は住民残らず死亡。
隕石落下による衝撃で、世界各地に大津波が起こり大損害を被る。
以後半年の間、地上は赤い雲に覆われ、けっして日が差すことがなかった。
後に《災厄の日》と呼ばれる。
そして彼らが生まれた。
《災厄の日》以後、《ヒトならざるもの》たちが現れた。
手に魚の鱗のようなものがあったり、鳥の羽が背中に生えていたり様々である。
中には超能力のように、触れずに物を動かしたりする事が出来る者もある。
身体に異常のない、力も無い普通の人間は彼らを「悪魔つき」や「魔族の類」だと言って恐れた。
民話や神話などでの描かれる、「角の生えた人間」や「悪魔の翼のようなもの」がある者までいた。
だが、彼らも元は《ヒトより生まれしもの》でもあった。
「アタシの親も牢獄へ送られた」
赤い髪の赤い目をした女性は、誰にともなく呟いた。
ここはZOCへ向かう飛行機の機内。
個人所有の飛行機のため、それほど室内は広くないが、快適さを追求されているため、まるでラウンジのようだった。
「・・・ヴァスチーユ牢獄」
今度は九月が言う。
窓の外の雲を見ながらも、流れていく雲など見てはいない。
その目に映る光景は居場所を奪われたあの日の事ばかり。
「天使の牢獄か・・・まったく皮肉な名前だな」
視線を窓の外から声のした方、つまり赤い髪の女性へと移す。
今は漆黒のローブを外して楽にしているが、やはり黒色の戦闘服に身を包んでいる。
伸ばすと肩までありそうな赤い髪を後ろで結い上げている。
「クレア・・・」
九月は彼女の事をクレアと呼んだ。
クレア・ハミルソン、それが彼女の名である。
もっとも、本名とは言い切れないが。
クレアはリモコンを取り、ボタンを押した。
すると、何も無い空間にニュースの映像が映し出された。
実は映像の下にはそれを映し出すプロジェクターがあり、それによって画像が立体化している。
スクリーン上ではなく空間に映し出し、なおかつその精度はテレビ並みなので、この装置を作った人間は相当の技術力ではある事が分かる。
「只今入った速報をお伝えします。昨夜未明、シャルニール公爵の乗ったリムジンが襲撃され、運転手とその護衛官、そして公爵が殺害されました。犯人は未だ・・・」
内容はバビロン皇国に反逆するテロによるものだと報道された。
「アタシの父も母も人間だった」
淡々と進むニュースをよそに、クレアは低く唸る。
そして次のように報じられた。
「尚、シャルニール公の空席にはファンハイム卿が就任する事がバビロン皇国より決定しているようです」
公爵。
《災厄の日》以前の公爵とは意味合いが異なる。
バビロン皇国における公爵とは、魔族を多く"狩り"、皇国への忠誠を誓ったいわゆるハンターの最高の証を示す。
その武術の腕前は相当なもので、皇国でわずか8人のみに許される。
そして彼らは純粋な《人間》。
元よりバビロン皇国は人間のみの超右翼国家である。
《災厄の日》以後、人間の突然変異で現れた"魔族"を狩る名目で様々な国々に武力介入をしてきた。
やがてアメリカを制圧するほど巨大になったバビロン皇国は8人の公爵を仕立てる。
彼らは国王直属の騎士でもあり、一個人にしては大きすぎる権力を持つことができる。
ニュース越しに、クレアは怒りの矛先を、バビロン皇国を睨みつけていた。
「人間から人間たる資格を奪い取ったやつらを・・・アタシは許さない・・・!!」
悪魔憑きや魔族と呼ばれる者達には特徴がある。
それは普通の人間にはありえない外見だったり、まるで超能力のような力を持っている。
だが彼らを産んだ親が必ずしも魔族かと言うと、そうとは限らない。
《災厄の日》以後に生まれたヒトの中には魔族と呼ばれる子が見られるようになった。
子供にその兆候が見られたからといって、それを産んだ親は何の力や異変も見られない、ごく普通の人間だったりもする。
「その親だから」という理由だけで、牢獄へ送られる。
元は人間だったが、突然魔族になった者も居る。
《災厄の日》以後のこと。
詳しくは分かっていないが、突然身体が変異したり、特殊な力を持ったりするものも現れた。
そして例外もなく彼らの親も魔族とされ、牢獄へ送られることとなる。
本人達が"ニンゲン"であろうとなかろうと。
そんなクレアから視線を再び外へ移した。
「そろそろZOCに着く」
雲の向こうに影が映る。
それはやがてはっきりと目視できる距離になった。
巨大な、空に浮かぶ空母。
それがZOCの基地本部である。




