プロローグ -拝啓、悪魔より-
長編になりそうな予感です。
読み方は「イズ 赤いホシより」です。
キィィン!
二つの金属同士が、ぶつかる音が響く。
カァァン!
ギィイン!
何度も何度も擦れ合う鋭く、尖った銀色の得物。
暗闇の中、一人の男は叫ぶ。
「貴様何者だ!シャルニール卿と知っての狼藉か!!」
男の後ろには、壁に激突してフロントガラスの大破したリムジンが一台、その前輪は潰れている。
中に人の気配がする。
恐らく運転手は死亡しているだろうが。
先ほど叫んだ男は青色の軍服を着ており、手には細長い銀色の剣が握られている。
彼の着ているのはアメリカ合衆国の軍服。
目の前にはなんとも不気味な仮面の男。
まるで戯曲「ファントム」の仮面のような。
再び両者が合い交える。
ガィイン!!
仮面の奥から抑えた声が漏れる。
だがはっきりと、強い意志が感じられる声で。
「お前も、周りのもの全ても」
手には真っ赤な日本刀。
まるで血を食い物にしてるかのように紅く、月に照らされた様はなんとも形容しがたいほどに妖艶だった。
「お前の国も、思想も何もかも紛い物だとしたら」
古より悪魔は存在し続けた。
願いを叶えるのが神ではなく、血にまみれた悪魔だったとしたら。
それはとても愉快な余興ではないか。
「何をふざけた事を・・・!」
警官は懐よりナイフを取り出し、前方に突き出した。
もちろん届く距離ではないのだが、突き出したナイフの柄から刃先が仮面の男に向かって飛び出した。
飛んで来た刃を顔を少しずらしただけでよける。
寸分遅れて警官の刀が視界の隅に入る。
仮面の男は刀を背に掛けるような格好で剣撃を受け止める。
仮面の男の背中からは羽が生えたように見える。
まるでおとぎ話の悪魔のような羽が。
そして悪魔は尚も語る。
「この世界を壊すまでだ」
「この、悪魔憑きがぁぁぁ!!」
暗闇に漆黒のマントが翻る。
残月の映すのは目が眩むような香り。
後に残るのは青色の軍服と、その主の血溜まり。
月の光に照らされて、妖しくも禍々しく落ちる死体。
あの日、世界が堕ちた日。
以来、人間にはあるはずもない姿をした者が現れた。
遥か昔、伝説ではソロモン王が封印したとされる悪魔になぞらえて、人は彼らの事をこう呼ぶ。
悪魔憑き、魔族の類だと。
世界はどこで狂ってしまったのだろう。
世界のどこに正義があるのだろう。
世界は万人に優しくなどない。
万人に平等など、・・・・・ない。