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トゲトゲシェルを食べてみよう

「さて、今日は川にやって来たが、何を食べるかわかるかい?」

アルバートは隣に居たエレナに聞いてみた。

「この時期なら、川魚やエビ、カニなんかも美味しいですよねえ。でもアル様がそんな普通の食材を捕るわけがないですよね・・・」

いつものように嫌そうな顔をするエレナに、アルバートが笑顔で答える。

「当然だな、狙うは川に居るモンスターだ。とはいえ、船なしでは深いところには行けないから今回は浅瀬で捕れるモンスターにしよう」

「浅瀬だと何が捕れるのですか?」

エレナが興味本意で聞いてみた。

「そうだな、無害なモンスターならトゲトゲシェルだな。自分からは襲ってこないし、動きも鈍いから簡単に捕まえられる。ただこいつは、旨いということがすでにわかっているからな、他の食べたことのないモンスターがいいな」

そう答えるアルバートにエレナは駄目元で言ってみた。

「確かにアル様はモンスター食の本を書かれています、そのためには誰も食べたことのないモンスターを食べるべきだと思います。ですが、ただ食べるだけでなく、どのように調理したらより美味しくなるのかということも調べた方がいいと思うのです。ですから、今回はトゲトゲシェルをより美味しくいただける調理方を探しましょう」

遠回しに、変なものは食べたくないということを伝えたかっただけなのだが、珍しくアルバートは頷いていた。

「確かにそうかもしれんな。現在、世に広まっている本には焼いたり煮たりして食べた情報しかないものが大半だ。そのモンスターに合った調理方を見つければ、もっと旨く食えるかもしれないな。前に食べたマンイーターも、もっと旨かったかもしれないな」

そう答えるアルバートにエレナは驚きを隠せないようだ。

確かに自分が言った言葉ではあるが、まさかここまで関心を持ってくれるとは思わなかったのだ。

「えっと、では今回は?」

「トゲトゲシェルにしよう。どの調理法がより旨くなるか試してみるか」

まともな物を食べることになり、エレナは心の中でガッツポーズをした。とはいってもモンスターであることに変わりはないのだが・・・

「さて、手分けして捕まえることにしようか、襲ってはこないが、殻に付いているトゲは鋭く危ないから気を付けろよ」

エレナにそう言うとアルバートはトゲトゲシェルの居そうなところに歩いていった。

「はい、わかりました、私は反対のところを探しますので後で合流しましょう」

エレナはアルバートが歩いていった方向とは逆の方向に向かうことにした。



一時間ほど経った頃、アルバートが先に戻ってきた。

「よしよし、まずまずの量だな」と言いながら十匹ほど入った網を担いでいる。

「エレナもそろそろ戻ってくる頃だろう、火の準備をしておくかな」

戻ってくる途中に集めておいた枯れ木を地面に置くと、ポケットに入れておいた火招石を木の真ん中に置いた。

火招石はごく身近な魔石で、魔力を込めると燃え上がる。

石の大きさによって火の出方が異なり、巨大なものならば広範囲を高火力で焼き払うことも可能である。

アルバートの持っているものは小さい石であり、焚き火をする程度の火しか出さないが、料理をする際には寧ろ好都合であり重宝している。

アルバートが火の準備をしているとエレナが戻ってくるのが見えた。

「アル様~見てくださいよ、このサイズ!」

そう言うと、エレナは網から巨大なトゲトゲシェルを取り出した。

デカイ、とにかくデカイ。

アルバートの持ってきたものよりも三倍ほどデカイ。

普通のサイズが、果物のメーロンの大きさと同じぐらいである。

エレナの捕まえてきたものは人間の子供ぐらいの大きさはあった。

「おおう、すごいものを持ってきたな。さすがエレナだな」

「そうでしょう、そうでしょう!何かご褒美をくださいよ~」

おねだりするエレナに、アルバートが頭に手を置き優しく撫でた。

「俺のパートナーがお前で良かったよ、ありがとな」

そう言って撫でるアルバートにエレナは恥ずかしそうに返事をした。

「そういうことではないのですが、いえ何でもないです」そんなことを言いながらも、まんざらでもなさそうだ。

「さて、それじゃあ料理をしていくかな。せっかくだから大きいのと小さいのは分けて作るとしようか。味が違うかもしれないからな」

「そうですね、でしたら私は自分が捕ってきた大きいのを調理しますね」

そう言うと、エレナは自らが捕ってきた巨大なトゲトゲシェルを捌きに掛かる。

「わかっているとおもうが、襲ってくる可能性は0ではないからな。十分に注意しろよ」

エレナに忠告すると、アルバートもトゲトゲシェルを捌いていく。

トゲトゲシェルはサザーエのような形をした巻き貝型のモンスターであり、背中に一本のトゲを持っていることと、きれいな青色をしていること以外はサザーエと大差はない。

ただ、原理はわかっていないがジャンプすることができるため、時に人間や外敵に対してジャンプをしてトゲを刺してくることがある。

そのため、普通に捌くと危険が伴うので、捕まえる際に先にトゲを折っておくのがセオリーである。

アルバートが捕ってきたものは全てトゲが折ってあり、安全にしてあるものであった。

一方のエレナの捕まえてきたものも折ってはあるが、先が折れているだけで半分ほど残っていた。

「このトゲがとにかく固くて、先しか折れなかったんですよ。私の持っていたハンマーは一緒に折れてしまったんです」

「ふむ、やはりデカイと殻も強固になるのかもしれんな、とにかく気をつけて捌けよ」

二人で会話しつつ、トゲトゲシェルを捌いていく。

「俺は焼き料理にするかな」

「私は塩ゆでにしますね」

それぞれ好きな調理に取りかかっていく。

アルバートは一口サイズに切った身を香草と一緒に炒めていく。それとは別に、串に刺したものも焼いていく。

「香草炒めと焼き鳥風だ。う~ん、いい香りだ!」

アルバートが頷く。

エレナも同じように一口サイズに切った身を鍋に入れていく。

「私の方はシンプルですから、これ以上することがありませんね」

グツグツと沸く鍋をかき混ぜながら、エレナが言った。

「そうだな、まあ茹ですぎると固くなりすぎて食えなくなるからな。ほどほどで仕上げろよ」

「大丈夫ですよ、もう少し茹でたらザルに空けますね」

そうこうしているうちに、アルバートの料理も出来てきた。

「よし!いい出来だ!香草炒めはこれでよし。串焼きは、と、う~ん、タレの焦げた最高の香りだ!たまらん!」

周りに甘辛い、美味しそうな香りが充満し始めた。

「エレナ!もう我慢できん、早く食べるぞ!」

「待ってください、もう塩ゆでも出来ますから」

エレナはアルバートを制止しつつ、ザルに空けて湯を切っていた身を盛り付けていく。

今回は近くにテーブルやイスになりそうなものがなかったため、折り畳みのテーブルとイスを使うことにした。

「久しぶりですね、このセットを使うのも。私としては嫌いではないですよ」

そう言いながら、テーブルに料理を置いていく。

「まあ、俺も嫌いではないが、やはり自然のイスとかがいいんだよな~」

少し不満そうにアルバートも料理を用意していく。

テーブルの上に、香草炒めと串焼き、塩ゆで、それとパンが置かれている。

「う~ん、スープもあれば完璧だったかもしれんな」

「いやいや、十分ですよ。これ以上は食べられませんよ」

もう一品と思うアルバートに、エレナが大丈夫と答える。

「むう、そうかもしれんな。では冷める前に食べようか、いただきます!」

「いただきます」

二人共に先ずは香草炒めから食べてみた。

「やはり、香草を使ったのは正解だな。ただ塩で炒めると、臭みが気になるからな。臭みが消えていい感じだ」

「ええ、臭みが消えるととても美味しいですね」

話しつつ、パクパクと食べていく。

「さて、お次は串焼きだな。こいつが外れるわけがないな」

そう言うと、串焼きを口に放り込んだ。

ジュワっとでる肉汁と、甘辛なタレが相まって、味のデュエットが口一杯に広がった。

「かああ!うめえ!こいつは酒が飲みたくなる一品だな」

美味しそうに食べるアルバートにつられて、エレナも口に運んだ。

「ん~!美味しいです!これはご飯がほしくなりますよ」

エレナも串焼きには、絶賛の声をあげた。

「いや~調理法一つでここまで味が違うとはな。本当に驚きだ」

「ええ、ここまでとは思いませんでした。すごいですね!」

自分から調理法のことを振ったが、こんなに美味しくなるとは思っていなかったため、エレナも驚きを隠せなかった。

「今後は色々な調理法で食べることにしましょうね、アル様」

「ああ、これはいい勉強になったよ。ありがとうなエレナ」

礼を言うアルバートに、エレナも嬉しそうにしている。

(う~ん、まさかここまでモンスターが美味しくなるとは思わなかったなあ。まあ、これで次からは美味しいものが食べられる可能性も高くなったし良かったかな?)

エレナがぼんやり考えていると、アルバートが声をかけた。

「エレナ、最後に塩ゆでも食べてしまおう。いつもの調理法だし、美味しく食べられるだろう」

「そうですね、塩ゆではコリコリしてて、臭みも少なくて食べやすいんですよね」

「ああ、まあ少し大きいから大味かも知れないけどな」

そう言うとアルバートは口に運んだ。

エレナもそれに続いた。

・・・・・・二人から笑顔が消えた。そして、

「みぎゃー!不味い、不味いようー!」

エレナが叫んだ。舌を出してヒーヒー言っている。

「なんということだ、まさか塩ゆでが一番不味いなんて・・・」

まさかの裏切りにアルバートも驚きを隠せない。

「なぜ?なにか理由が?いや、いつもと同じやり方で茹でた、塩ゆでに問題はない。なら考えられるのは・・・」

そう言って調理前の巨大なトゲトゲシェルの身を持ち上げた。

「恐らく、大きくなりすぎると、摂取しているエサか環境か定かではないが、身に強力な苦味を持つのだろう。こいつはどんな調理法でも無理だろうな」

納得したように頷くアルバートに、エレナが叫んだ。

「そんなことはどうでもいいんですよ!口の中が阿鼻叫喚ですよ!!どうにかしてください!!というか、何でアル様は平気なんですか!?」

相当不味いのだろう、目に涙を滲ませている。

「簡単なことだ。旨いなあ~飴は」

コロコロと、アルバートは飴を口で転がして見せた。

「いつの間に・・・そして、アル様、なぜ私にはくれないのでしょうか?理由をお聞かせくださいますか?」

エレナの口調に怒気がこもる。

「うん、この苦味がすぐなくなるものか、なくならないものか知りたかったからだね。ただ、自分の体では知りたくなかったから、エレナで調べたということさ」

そう言うアルバートにエレナが飛び掛かった。

「ずっと残りますよ!苦いですよ!不味いですよ!!早く飴をください!!アル様の大バカ野郎!!」

エレナの叫びが川原に響き渡り、後に残ったのは逃げる男と追う女の姿だけだった。

(やっぱりモンスター食なんてゲテモノだ!少しでも良いものなんて、そんな風に思った私がバカだった!いつか絶対にやめさせてやる!アル様め、今にみてろ!)

そんな決意を胸にエレナは、逃げるアルバートを追いかけて行った。

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