3ー78 世界で最も強きもの
グロウを煽り、その冷静さを奪い、単調な動きへと誘導したまでは良い。
そこからが割と面倒だった。
自然と攻撃はオレへと集中するのだが、それらは全て受け止めなくてはならない。
上手く回避したとして、その後ろにクエスやディストルの2人が居たならば、瞬く間に消し飛ばされてしまうからだ。
別に消えても良いっちゃあ良いが、それも寝覚めが悪くなるというもんだ。
一々守るのもしんどいが、キッチリと対処する事にした。
「おのれ! なぜ消せんのだ!」
グロウは焦りからか、魔法を乱発した。
最初はその不思議な威力に驚かされもしたが、コツを掴めば大した事がない。
溜めの無い攻撃をしのぐ事は易しく、遂には反撃する事まで可能になった。
「ヨイショォ!」
斬りつけた剣が宙で止められた。
よく見ると、グロウの周りには魔防壁らしき守りがあった。
このまま強引に断ち切る事も難しく無いが、それは当然隙にもなる訳で。
「消えろッ!」
「うおっ、危ねぇ!」
反撃の魔法を受ける前に、剣を戻して守り、間一髪で間に合った。
オレは冷や汗をごまかすように、大きく息を吐いた。
そんな姿を見て、グロウがくぐもった声とともに嗤った。
「あれほどの大言壮語を吐いたかと思えば……守りばかりに長けているな。実力は口ほどでは無いようだな」
グロウは、オレの攻撃をしのぎ切れると踏んだだろう。
そしてさっきのように、直接攻撃の隙をつけば、がら空きの体に魔法攻撃を叩き込める……と、考えたはずだ。
だからヤツは無駄な攻撃を仕掛けて来る事はなく、反撃に全力を注ぐ事だろう。
これも心理戦の成果だと言えた。
仕上げにオレが、それっぽいセリフを吐けば完成だ。
「世界を、お前の好きになんかさせやしない! この命に代えても、その野望を食い止めてみせる!」
「ハッハッハ! 気迫は十分だが、それで超えられるものか。試してみるがいい!」
目論見通り、グロウは魔力を両手に宿したまま、待ちの態勢となった。
つまりは相手からの先制攻撃は無い。
誘導通りに動いてくれて助かる。
あとは、切り札の力が上手く発揮してくれれば、オレの勝ちとなるだろう。
グレンが打ったという剣にはミレイアと、シルヴィアの想いが宿っている。
オレには、想いを力に変える能力がある。
それがこの場で、かつて無いほどの活躍をみせてくれていた。
ーー次で終わりにするから、もう少しだけ力を貸してくれよ。
耳元で囁くような気分で語りかけ、そして走った。
グロウの、石化しかけた体を目掛けて。
「策もなく、本当に気迫だけで戦い抜くつもりか……。もう少し愉しめると思っていたが、買い被りすぎたようだ。跡形もなく消し去ってくれよう!」
グロウの両手には膨大で、超高密度な魔力が充填していた。
失敗すれば、アイツのいう通り肉片ひとつ残らないかもしれない。
それでもオレに恐怖心など無かった。
道具袋より取り出したのは、シンディたちがくれたネックレスだ。
それを手にした瞬間、再び剣が変化をした。
新旧の子供達の想いがひとつに重なった瞬間だった。
水面のような青い刀身が眩く光り、辺りを強く照らしだす。
突然の事態にグロウは目を背け、大きな隙が生じた。
それをわざわざ見逃す理由もない。
オレは剣を一気に振り抜いた。
「ワッッショオイ!」
手応えも、叫び声も無かった。
だが、空振りではない事は、光が止んだ後に一目瞭然となる。
グロウの体は2つに分かれて上半身が地に転がった。
それも人体というよりは、ほとんど彫像のようにしか見えなかったが。
「ば、バカな……。この私が……長年にわたる研究結果が破られようとは」
「テメェは『絆』に負けたんだ。こっちは200年越しに家族やってんだよ。その身勝手な『研究』とやらなんか、足元にも及ばねえくらいに尊いもんだ」
「き、絆……だと?」
「そうだよ。たとえ大地が吹き飛ばされようとも、オレたちを引き裂く事なんざ出来やしねえよ」
「フフフ、アーッハッハッハ!」
半身だけとなったグロウが笑い始めた。
そこでふと、嫌な予感がした。
死を待つだけの人間とは思えない、秘策のような気配を察知したからだ。
単なる負け惜しみであって欲しいと、祈りたい気分になる。
「たとえ大地が吹き飛ぼうとも……か。ならば実演してもらおうか。本当に絆が引き裂かれぬかどうかを!」
「何を企んでやがる!」
「移動要塞は、間も無く墜落する。膨大な魔水晶を満載したまま、地上に向けて真っ逆さま。着地の衝撃で未曾有の大爆発が起きよう。そうなれば大地はどうなるかな?」
「テメェふざけんな! 今すぐ止めろ!」
「無駄だ。この要塞はもはや私にしか制御できぬ。そして、私の死をもって、操縦できる人間は誰も居なくなるのだ」
「止めろと言っただろ!」
「地上が手に入らぬなら、全てを破壊し尽くすまでよ。その最期を見られぬのが、ただ、心残りか……。それだけが、心残り……」
「オイ! ふざけんな!」
グロウはそれきり答えなくなった。
両目からは完全に意思の光が消えてしまった。
「モコ、これはやべえよ。どうすんだ!」
「どうすんだって言われても、どうしよう!?」
「定める者よ、アッサリと終わらせたな。もう少し消耗させてから倒せば、この状況もまた違っただろうに」
「ホントだよ。この城を着陸させる手段を聞くくらいしてから、サラリと殺せば良かったんだ」
「お前らさぁ! 役に立たなかった癖に総ツッコミかよ!」
その時、部屋が大きく揺れた。
体に浮遊感が感じられる。
どうやら本格的に落下を始めたらしい。
「おい、やべえぞ。どんどん落ちていってる!」
「ええと、ええっと、みんなで下から城を支えようよ! それで地面への直撃を避けるんだ!」
「アホか! この城の下には巨大な黒鉄があんだぞ! それを支えようとしても、全員が魔力を干からびさせて死ぬだけだっつの!」
「んんん! だったらもう、これしかなぁい!」
モコがそう叫ぶと、突然目の前に、大きな水晶玉が現れた。
いつだったか見た事がある気がするが、すぐには思い出せなかった。
モコの肉球が忙しなく舞う。
それに合わせるようにして、宙に浮かんだ文字が、現れては消えていった。
そしてその腕が止まると、オレに向かって強く言った。
「ライル。こんな場所で悪いけども、今すぐ世界を『定めて』貰える!?」
思いがけない言葉に、つい思考が停止した。
モコによる痛烈なネコパンチを食らうまで、自発的に動く事は無く、貴重な時間を空費してしまうのだった。




