3ー77 冥土の土産の返礼品
世界最強のチームで戦いを挑んだは良いものの、蓋を開けてみれば苦戦も苦戦。
援軍のディストルだが、戦力的にはクエスと大差無かった。
例の『消し去る能力』は攻防一体の技だが、グロウには何故か全く通用しない。
好転の兆しは見えず、オレが光線を防ぐばかりと言う有り様だった。
敵陣の真っ只中にて、引きこもり部屋をあつらえたかのようになる。
負傷者はクエスが片腕を損傷。
今のところ目立った被害はそれだけだが、グロウが豪語するように傷付ける事すら出来ていないのだから、劣勢というしか無い。
防戦に終始するオレたちに向けて、ネットリ絡み付くような嗤い声が投げつけられた。
「フハハハ! 弱い、弱すぎる! 世界に小うるさく介入し、傲慢にも君臨し続けた者共が、ここまで脆弱だったとはなぁ!」
「クソッ。言いたい放題ぬかしやがる!」
「こらえてクエス。僕らに残された対抗策は少ない。どうにかして隙を探すしかないんだ!」
「つうか、そもそもよ。アイツは何モンだ? 管を通して魔力を供給だなんて、人族のやれることじゃねぇぞ!」
「彼の胸元を見てごらんよ……。まったく、何て恐ろしいことをしてくれたんだ」
「濃紫の光……って、まさか!?」
あの光は忘れもしない。
真水晶の放つものだ。
薄々嫌な予感はしていたが、どうやら的中してしまったようだ。
魔水晶を人体に埋め込む発想があるのなら、その次に目指すのは真水晶となるのは当然だろう。
「真水晶を直接体に埋め込むだなんて、人族の心身はそんなものに耐えうる設計はされてないんだ。今のように力を開放したらどんな目に遭うか……想像もつかないよ!」
「フフフ。私の正体が気になって、戦どころではないかね? ひとつ、冥土の土産に昔話をしてやろう」
「昔話……だと?」
グロウの瞳は狂気に荒れ狂ったものから、静かな湖面のように大人しくなった。
視線を宙にさ迷わせるあたり、記憶の深いところまで潜り込んでいるようだ。
「かつて、とある内政官が追っ手の目を逃れて潜伏していた。主であるグラン王家の遺児と、1人の将校を共にした逃亡生活だ。彼は幸いにも、匿ってくれる味方に、研究資源でもある水晶に事欠くことは無かった。近くに採掘場があったのでね」
「クライス……ウチのもんが言ってた。そいつらなら崩落事故に巻き込まれて死んだはずだ、と。全員が生き残っていたのか?」
「見事に騙しおおせたようだな。おかげで我らの研究は大いに捗ったものだ。焦れる己の心を抑え、暴走気味の姫を宥めるのには苦労したよ。無為に年月を重ね、初老の域に差し掛かった頃など、誰も手が付けられない程の狂いようでな」
グロウは自嘲らしい声をあげた。
ここが酒場であれば、今の言葉も愚痴の一種に聞こえたかもしれない。
「このまま何も成せぬまま、愚者として土に還る事を覚悟していたが、天は私を見放さなかった。偶然にも、魔水晶の新たな活用法に気付いたのだ。その具体的な方法については、もはや語る必要もあるまい」
指先で胸元が叩かれた。
その音質は妙に硬く、人族の体には似つかわしくない程に乾いたものだった。
「自身に施した途端、目を見張ったものだ。体は若さを取り戻し、強靭さは比較にもならない程になったのだから。人という枠組みを飛び抜けた瞬間、その感動と喜びが、そなたらには理解できるか! 何の努力も無しに強者として振る舞う者共に!」
「別にオレらだって、好き好んで力を得た訳じゃねぇよ。産まれ落ちた時にはこの姿だったんだ……!」
「それからは早かった。村の者共をはじめ
、全て皆殺しにした。我が儘放題であった姫や将を殴り殺した時などは、本当に愉しかった……しばらく笑いが止まらなん程にな」
「なんてヤツだ……。長い間暮らしてきた仲間を、恩のある人々を手にかけたのか」
「所詮感傷などは、弱者の慰みに過ぎん。私は罪悪感を抱くことなどなかった。いやむしろ、安寧を破壊する喜びを、濃厚な断末魔の味を知ってしまった……!」
グロウは口許を歪め、凶悪そうに笑った。
思わずクエスが後退りしてしまう。
「擬似的ながらも魔人として生まれ変わった私は、力だけでなく長寿すらも得た。時間は膨大にある。更なる研究を重ね、開発した。黒鉄装備により、獣人や魔人など恐れる必要は無くなった。だが、それはあくまでも通過点でしかない。私の狙いはこの移動要塞にあったのだ!」
グロウが自分の服を剥いだが、オレ達はあまりの事に目を見張ってしまった。
ヤツの体は、下半身の全てが石材と化していて、城の建材に侵食されているように見えたからだ。
足は床と同化でもしたのか、隙間らしいものが全く見えない。
そして腰回りからは『ビシッ、ビシリ』という、何かが小さく弾けるような音が響く。
この光景には、流石のオレたちも言葉が無かった。
「私はもはや、人族として生きる事は叶わん。だが、それがどうした! 世界を支配する力を得るには、相応の代償が必要であろう! 脆弱なる己の体など、悲願成就を前にしたならば、むしろ邪魔ではないか!」
「こんな事を、僕は許していない! 人族の体を特別弱くしたのは、探求心を別に授けたからだ! なのに……それなのに、こんな事を仕出かすだなんて!」
「さぁ、もう良いだろう! そなたらは世界でも特別な存在! それらが放つ断末魔とはどんなものか……聞かせてみせよッ!」
「みんな、オレの後ろに退がれ!」
いよいよ本気を出したのか。
これまでで最も強烈な一撃が放たれた。
オレは変わらず、剣の切っ先を向けて迎え撃つ。
まるで濁流に突っ立ってるかのようだ。
経験に無いほどの、凄まじい圧力が連続して押し寄せてくる。
辛い。
キツい。
胸にいくつもの不安が過るが、その一方で思う。
ーーキツいが、耐えきれない程じゃねぇ!
やがて、押し寄せる光の渦のなかに、何か切れ目のようなものを見つけた。
気のせいかもしれない。
だが、オレには確信があった。
その切れ目に向けて、一直線に剣を振り抜いた。
「ワッショォイ!」
「……何!?」
その瞬間、敵の魔法は霧散した。
攻撃の手を緩めたグロウが、しばらく呆然とした。
「そんな、何故破られた! 貴様らが頼りにする魔力は、もはや使い物にならんハズだ!」
「やっぱりな。思ってたほど強くない……いや、ある意味では一番弱っちいぞ」
「何だと!? そんな訳があるか! 私こそが、史上最強の存在……」
「違うな。テメェはひとつ大きな思い違いをしている。それを魔王さん自ら教えてやろう」
……そうそう、このノリ。
絶妙なふてぶてしさがあってこそ、アルフレッドであり、ライルだと思う。
自分で言うのも変だと思うが。
今の台詞でペースを取り戻す事が出来た。
相対するグロウは、顔こそ嗤ってはいるが、酷く狼狽しているようでもあった。
あれは今、冷静さを見失いつつある。
後は絶妙な『エサ』を蒔くだけで簡単に食らいつくだろう。
オレは剣の柄を力一杯握りしめ、気迫を十分に込めた。
すると耳元で『あいよ、咎人のタタキ1丁!』という、ミレイアの声が聞こえてきた。
台無しだよこの野郎。




