表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
列伝1
125/313

【クライスの章】クライスは平常運転 第3話

空が白みかかった頃、賊どもを視認した。

偵察隊に混ざって直接の確認だ。


村は持ちこたえたようで、所々防壁に綻びはあるが、侵入までは許していないようだ。

敵はというと、少し離れた丘に陣取っていた。

見張りを立てる程度の知恵はあるらしく、何人もの兵が見回りをしている。

強襲しても成果は薄いかもしれない。


アーデンが静かに歩みよって耳打ちをした。



「どうすんだよ、宰相様。突撃でもするかい?」


よくもまぁ、答えのわかり切った質問をするものだ。

ニヤニヤ笑っているところを見るとワザとだろう。


「薄暗い中で仕掛けても取り逃がしてしまう。明るくなって包囲戦が始まってから介入する」

「まぁ、そうだろうよ。殺しは?」

「推奨しないが禁止もしない。降伏したもののみ捕縛とする」

「へぇーい。じゃあ朝まで休ませてもらいますかねっと」


アーデンは後方の森へと歩いていった。

私もそれに続く。

それからは束の間の休息をむさぼった。



陽が高く昇った頃、村の方から喚声が聞こえた。

戦いが再開したようである。

味方は既に全員が騎乗しており、臨戦態勢を整えていた。


「宰相の名にかけて、レジスタリアでの無法は許さん。続け!」


森に隠れていた我々は、一直線に敵の横腹を目指して突撃した。

他所から攻められることを考えていなかったらしく、こちらの動きを見ただけで混乱し始めている。


「てめぇら戦え、逃げるんじゃねぇぞ!」


一際大柄な男が叫んでいる。

あれがリーダーのようだ。

まずは頭の制圧が必要だろう。


『お菓子の塔』から硬めクッキーを一枚手に取り、それを男の顔面に目掛けて投げつけた。

それは美しい直線の軌道を描き、眉間へと叩きつけられた。

巨体は二回転半ほど宙で回り、うつぶせに倒れた。

ピクリとも動かないところを見ると、気絶したようだ。



「レジスタリア軍だ! 魔王が来たぞー!」

「逃げろー、殺されるぞー!」



領主様の武名はここまでも轟いている。

それはそれで大いに結構なのだが、この場面においては不都合だ。

敵の逃走するタイミングが早すぎて、多くを取り逃がしかねない。

ここは足止めが必要であるが……。


仕方あるまい。


私は懐から生クリームを満載したボウルを10個ほど取りだし、遠くへと展開させた。

それは逃走経路に着弾し、生クリームが辺り一面に広がった。

恐慌状態の敵兵は、滑る足場を踏破できないでいる。

立ち上がっては転び、誰かを掴んでは転び、を、繰り返している。

もはや戦どころではない。


「待ってくれ、降伏だ! 降伏する!」


誰かがそう叫んだ瞬間に、全てが終わった。

武装解除、捕縛、連行と、滞りなく処理されていく。

こちらの損害は皆無という、まさに圧勝だった。



「クライスよぉ。お前さんは戦の常識でも変える気か? なんだよ、あの戦術は」

「否応なしに、だ。あのような真似は胸が痛んで常用はできん」

「つうかよ。お前の懐はどうなってんだよ。どこにあれだけの物を隠し持って……」

「者ども、レジスタリアへ帰還するぞ。続け!」

「おい、無視すんな!」



私は先導しながら帰路に着いた。

背後のアーデンを無視しながら、である。

胸ポケットをまさぐるとクッキーが入っていた。

頬張るが、美味しくない。

やはり生クリームが無くては物足りない。

引き立て役の辛味も今は無い。


移動用の食物も研究しなくては。

私は次の開発に向けて、思索を続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ