94話 魔力不足
シルフがユーリより聞いて来た情報はメルには分からないことだらけだった。
しかし、医者であれば何か知っているかもしれない、そう考えたメルは早速老婆の元へと向かおうと考えたのだが、彼女の身体は動かなかった。
どういう訳か分からないが、魔力が不足している様だ。
魔法を使っていないのに……そんな不安を抱える中、リアスが代わりに老婆を呼びに行ってくれることになったのだが……。
あれから少し時間が経ち、メルはリアスが連れて来た老婆の医者に診てもらっていた。
「それで……魔力切れの時に似てるんです……」
「一見、森族なのに魔力がねぇ……」
不安そうなメルに対し、老婆の医者は特に表情を変える事はせずに黙々と作業を続ける。
「ふむ……」
「だ、大丈夫なんですか?」
メルは表情を変えない老婆に尋ねると溜息をつかれてしまい……。
「そうやって自分を心配するならもっと早くしてやりな」
「ぁぅ……」
もっともな意見を言われメルは口を塞ぐと、老婆は微笑んだ。
「体力が落ちてる所で急に大量の魔力を使い、回復がおっついてないだけだよ……ちゃんと栄養のある物を食べてゆっくり休めばすぐに良くなる」
「よ、良かったぁ……」
その言葉に心底ほっとしたような声を漏らすメル。
「良かったぁじゃなくてな……仕方ないとはいえ無理はしないでくれ」
「心配……」
だが、リアスはそう口にし、リリアも首をこくこくと縦に振る。
「ぅぅ……そうだそれより!」
「心配してくれてるのにそれよりとなんだい!」
老婆はメルの言葉が気にくわなかったのだろう、彼女の頭を軽く叩く、するとメルはバツが悪そうな顔を浮かべるがすぐに真剣な表情へと変えると……。
「あの、カクマクって……なんですか?」
「カクマク? 角膜って瞳のかい?」
「た、多分……そうだと思います」
メルの言葉に首を傾げる老婆だったが……。
「そのお嬢ちゃんの事かい?」
「はい……もしかしたら、目を治せるかな? って……」
「そんな事を調べるって事はまさか魔法でも作ろうってのかい?」
メルは迷いつつも頷いた。
実際に作れるかどうか自信が無かったのだ……。
それもそうだろう、治すとしたら勿論だが、眼鏡の様な魔道具を作るとしても難しい事は分かり切っていた。
「……悪い事は言わないよ、傷を治す魔法は勿論、失った視力を回復させる魔法なんて作れやしないんだよ?」
「そ、それは……」
違う……思わずそう口にしそうになってしまった。
だが、それをどうにか飲み込む。
確かにメルは回復魔法を使える、だがそれはわずかな傷を治せるだけだ。
だからこそ、そう言いきれなかった……。
「傷が治るなんて魔法作れたら魔物なんかに殺される人も減るんだけどね……そんなのはもう何年も何十年も前から作ろうとしては失敗してるんだよ?」
「……そう……ですね」
老婆の言葉に頷いたメルはゆっくりとリリアの方へと向く、そこに居る少女は辛そうな表情を浮かべメルは瞳が合うとそっと顔を下に向けてしまった。
「…………」
不安そうに黙り込んでしまっている少女を目にし、どうにかしてあげたい……メルの心の中にあるのはただそれだけで……。
「じゃぁ、これで失礼しようかね……」
老婆はもう話が終わったと思ったのだろう……去ろうとする。
「待ってください! その前に目の事教えていただけませんか?」
「何を言ってるんだい、さっき言ったじゃないかい」
目を丸め驚く老婆、それもそのはずだ。
魔法では治せない、そう告げたのだから……だが、メルは違った。
何故なら母ユーリは例え僅かでも傷を自力で治せる魔法を作ったのだから、それが意味するのはたった一つ……。
「出来ないって決まった訳じゃないですから」
「メ、メル?」
そう、可能性はある。
それが難しくどれだけ時間がかかるかも分からない。
だが、それで諦めるにはまだ早い、メルはそう考えた。
そんな彼女に呆れたのだろう、溜息をついた老婆は――。
「仕方ないね……図で書いて置くよ、ただ聞いた話で実際に見た訳じゃない。多少違っても文句は言わないでおくれよ」
「はいっ!」
メルの返事を聞いた医師は近くにあった机でなにかを描き始める。
「ほら、これで良いかい?」
そして、その紙を受け取ったメルはそれをじっくりと見る。
「これが人の瞳なんですか?」
それを見つつメルは老婆に尋ねると彼女は頷いた。
「ああ、教えてもらったのはそんな感じだよ……実際に見たければそれこそ運が必要だね」
「う、運ってお婆さんまさか……」
その言葉に反応したのはリアスだ。
彼は老婆が言った言葉の意味を理解したのだろう、首を傾げるメルとは別で複雑な顔を浮かべた。
「どういう、こと……?」
「つまり婆さんは新鮮な死体があれば見れると言ってるんだ」
「なるほど…………って死体!?」
リアスの言葉に納得したメルは目を見開き驚くとその顔を青くする。
それもそうだろう、老婆はどう見ても優しそうな人であり、死体をいじくりまわすような人には見えなかったからだ。
「何をびっくりしてるんだい? 人の身体を知るには実際に見るのが一番なんだからね」
「そ、それは……」
確かにそうだ。
魔法に関しても病気にしても人の体でもまず知らなければ意味が無い。
闇雲にやった所で出来るなんてそれこそ運が必要なのだ。
「ありがとうございます」
メルは運良く身体を見れる訳が無いと思いつつも、老婆に礼を告げる。
「無理だと言った所だけど、その子の為に頑張りなよ」
「はいっ!」
返事を聞いた老婆は優し気な笑みを浮かべ、頷くとリリアへと目を向けその頭を撫でると部屋の外へと去って行く……。
「っとお婆さん送ってくよ!」
そう言ってリアスは老婆の後を追い部屋を後にし残ったのはメルとリリアの二人だ。
「お、お姉ちゃん?」
「大丈夫、私がきっとなんとかするからね!」
メルはリリアにそう伝えると受け取った紙へと再び目を向けた。
シルフの言葉から描かれた瞳の構造……僅かではあるが前に進めた彼女はふとある事を思い出し――。
「そ、そう言えば……私達に手紙を送ってきた人は何をしてるんだろう?」
脅迫めいたあの手紙……その後の動きが無い事にメルは不安を感じるのだった。




