91話 守る為に……
イアーナには不死者が溢れている。
しかし、現状ではその不死者を作り出すアーティファクトは無いはずだと知るメルは疑問を感じ、誰かをはめようとしているものではないか? と疑う。
そして、メルは真実を確かめるべく、精霊ドリアードに瞳を借りるのだった。
「ぅ……くっ……!」
メルは襲い来る激しい頭痛と吐き気にその顔を歪めつつもドリアードが見ている景色を見る。
だが……。
違う……この景色じゃない!
メルが求める景色ではなく、全く違う物。
「ドリ……アード……違う、場所を……」
その為、メルは別の場所を見せて欲しいと頼むが、ドリアードは首を振り……。
『ごめんね、メル……遠すぎて限定した場所は見せらないの……』
「…………っ」
イアーナを見せてと言ったにも関わらず、一向に見えてこない事に内心そうなのではないか? と考えていたメルに告げられた言葉。
それにメルは青い顔をしつつも唇を噛み――。
『も、止める?』
「つづ……け、て……」
メルの身体を心配し不安そうな声で告げて来るドリアードに対し首を横に振ったメルは再び景色を睨む。
「メル! 無理は止めてくれ……カルロスに頼んで俺が見て来るよ」
その言葉もメルの事を気遣っているのだろう……だが、メルは頑なに首を振り――。
「だ…………ぶ、…………ら……」
最早、言葉になっていない返事を返す。
「メル! もう良いって……リアスの言う通りだぞ? オレ達が行けば……」
駄目……時間はかけられない……だから……。
私が、私が――。
メルは今までに感じた事の無い頭痛に襲われ――頭を抱えうずくまる。
だが、それでも瞼は閉じずに歯を立てその痛みに抗い続けていた……。
そう……瞳を借りるためには瞬きは良いが瞼を閉じてしまえばその間は何も見えないのだ。
だからこそ、彼女は耐えるのだが――。
「――っ!」
それは彼女がイアーナの門を見つけた時に起こった……。
「ぁ、がっ!?」
メルは自分でも聞いた事の無い音をその口から発し――。
『メル!!』
ドリアードは勿論、その場に居る者達は彼女の名を叫ぶ、だが、当のメルは――。
「……た」
小さな声で呟き――目を閉じると、息を大きく吸い――。
「……………………」
再び何かを呟きその場に倒れた。
だが、その言葉は小さ過ぎリアス達には聞こえ無い物だった。
「メル? メル!!」
彼女の元へと真っ先に駆け寄ったリアスは彼女を揺さぶるが、その身体がやけに冷たい事に気が付き……。
メルは目を覚ます気配はなく、力も抜かれ青白くなった顔を見てまさかと考えたのだろう……。
「ライノ! メルの身体が冷たすぎる!」
「え、ええ、今すぐ医者を呼んでくるわっ!!」
「ど、どういうことだよ? メルまさか……」
慌てる三人、いや……四人。
リリアはどうしていいのか分からないのだろう、その場でおろおろと見えない瞳を動かすが、一人冷静だった少年は――。
「大丈夫だよ、メルお姉ちゃんは生きてる……体温が低いのは多分力を使い果たしたからだと思う……すぐにベッドに寝かせて、暖かくしてあげて……」
そう告げた。
「何言ってるんだよ! エスイル!」
「だって、死んじゃう人はどんどん生命の精霊が離れていくんだ。だけどメルお姉ちゃんにはまだしがみついてる……でも、ライノお兄ちゃんは早くお医者さんを――」
そうライノへと懇願した少年は――リアスがメルをベッドへと横たわらせたのを確認すると一人の精霊へと目を向ける。
「ドリアード……メルお姉ちゃんの代わりにお願いするよ……シルフに……伝えてほしい……」
今それが出来るのは自分だけだ、そう判断したのだろう。
幼き少年エスイルはメルを視界の端に移すと……。
「リラーグにゾンビは居ない、だから早まらないでってメルお姉ちゃんが見たってナタリアさんに伝えてって!!」
『分かった! 急いで行くね!』
草花の精霊は頷くと部屋から姿を消す。
その事にホッとしたエスイルだったが……。
「なんで……居ないって……分かるの?」
その疑問はリリアからの物で彼女を良く思っていないエスイルは頬を膨らませる……。
「だって、メルお姉ちゃんが……ゾンビ、居ないって言ってた……」
そう、リアス達に聞こえなかった言葉は兎の森族の血を継ぐエスイルにはしっかりと聞えていたのだ。
だからこそ、エスイルは姉と慕うメルの言葉をドリアードへと伝えた。
「つまり……誰かがオレ達をはめようとしてたって事か?」
「いや、俺達じゃないのかもしれないな……メルがこんなに必死になるなんて……さ」
倒れてしまった少女へと目を向け、リアスはそう言うとすぐにその瞳をライノへと向けた。
彼は頷き部屋の外へと急ぐ……医者を呼ぶつもりなのだろう……。
「…………」
彼を見送ったリアスは再びメルの方へと瞳を向け――。
「月夜の花……か……」
そう呟いた……。
メルが倒れてからどのぐらいの時間が経ったのだろうか?
「…………っ」
彼女はゆっくりと瞼を開き、頭を押さえる。
あ、あれ?
そして、辺りがすっかり暗くなっている事に気が付くと、慌ててベッドから飛び起き――。
「メ、メル!?」
「シュレム!! 皆……街は――!?」
心配して起きていてくれたのだろう、シュレムに問う。
その時――。
「これっ!!」
「たっ!?」
棒のような物で軽く頭を叩かれたメルは一瞬頭痛が強まった気がし、可愛らしい声を発する。
「な、ななな?」
そして、声の主の方へと目を向けると其処には……。
「なんでお婆ちゃんがここに?」
このリシェスで世話になった老人の医者がそこに居た。
彼女はランプの灯に照らされており、その表情を窺うことが出来、どうやら、大分怒っているようだが……。
「ここにって……あんたんとこの天族の兄ちゃんが呼びに来たんだよ! 倒れたってね」
「倒れた……っ!! そ、そんな事より、イアーナは!」
「そんな事って何だい!! あんたね、自分の身体をもっと大事にしな!!」
メルの発言に当然のように起こる老婆。
だが、メルはそれよりも――。
「だって、このままじゃママ達が――!!」
「大丈夫だって、エスイルがやってくれた。……ゾンビは居ないってちゃんと伝わってるはずだメルの言葉が聞こえたとか言ってたオレ達には聞こえなかったんだけどな」
「……え? エスイルが?」
聞き返すと頷くシュレム。
そのお蔭でメルはほっとしたのか、ベッドへと腰を掛けると――。
「そ、そっか……エスイルが……良かった」
笑みを浮かべる。
だが、その場に居る老婆は溜息をつき――。
「全く急に動くからひやっとするよ」
「す、すみません……」
メルは彼女に謝罪の言葉を告げた。




